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人の暮らしに入っていく仕事を本業にして良かったこと。

見渡せばいつも、隣の芝生は青く見えてしまう。

大学の頃からコーヒーの仕事に打ち込んでいる友人は7年以上たった今でもコーヒーに夢中で、仕事後に焙煎部屋にこもってイエメン人の同僚と一緒に焙煎の研究をしているらしい。

別の友人は2度目の転職をして今はバスの運転手をしている。それは今まで彼がやってきた仕事とはかけ離れたジャンルのものだ。

2人の話を聞いた僕は、ひとつのことに没頭して極めていくことにも、いろんな仕事にチャレンジできるフットワークの軽さにも憧れた。

自分はこれから、どう働いて生きていこうか。今の仕事をいつまで続けるんだろうか。

なんとなく迷いが生じて、心が揺れる日々のなかでふと、以前家の近所の小さなブックカフェで貸してもらった本を手にとった。春は桜が綺麗な佐保川の南の、小さな八百屋やパン屋や文具屋のある静かな商店街にある「珈琲と本」のお店は、吉田篤弘さんの作品に出てくる地名が店名になっている。

以前そのお店で貸してもらった吉田さんの小説「つむじ風食堂と僕」は、将来の仕事に悩む12歳の少年が主人公だ。

主人公が食堂でいろんな大人に、彼らがしている仕事について尋ねると、大人たちは決まって自分の仕事の価値やおもしろさを(時にはしんどいところも含めて)少年に語る。

少年がますます、自分がどんな仕事につくべきかわからなくなってしまった物語の終盤で、果物屋さんがこんなことを言う。

リツ君はたぶん、どちらかというと静かなものを好んでいるんです。ぼくがそうでしたから。基本的にはそっちが答えです。でも、世の中というのはそれだけじゃない。静かなところで、ひとりきりになって考えていると、ある日、急に強烈な色に魅かれるんです。(「つむじ風食堂と僕」より)

僕はいま、福祉の仕事をしている。障害のある人たちの日々の生活を支える仕事。振り返ってみれば自分も、この仕事がしたくて選んだんだった。物語のなかで果物屋が、物静かなものが好きなのに色鮮やかな果物に囲まれる仕事を選んだように、僕もあえて、騒がしくて、日々いろんなことが起きて、大変なことも多い福祉の仕事を選んだ。

それなら自分も一度、リツくんに語る大人たちのように、今の仕事について語ってみようと思う。


僕は今、共同住宅のようなところで、生活面で支援が必要な人の暮らしの手伝いをしている。身体的な支援が必要な人もいれば、感情のコントロールが難しい人もいるから、トラブルが起きることもよくあるし、穏やかに何事もなく平和に終る日の方が少ないかもしれない。

それでも関係性ができてくると、生活の何気ない瞬間に冗談を言いあったり好きなことの話をしたり、リビングでみんなで過ごしているときに、職員と利用者さんたちでふざけあって笑いが生まれることもたくさんあって、そんなときには、こんなに楽しい仕事につけてラッキーだったなと思う。

外出の支援をして彼らのしたいことを一緒に実現することも喜びだし、兼務している別の部署では、皆でお菓子を作ったり、ハイキングをしたり、BBQをしたり、ワゴンで遠出をすることもある。

共同住宅のほうでは家事援助の仕事がたくさんあるから、家事仕事を効率的にできるようになって自分の生活にも役立ったり、利用者さんの暮らしから学ばせてもらって一人暮らしの自分のQOLが上がるような思わぬメリットもあった。料理もずいぶん、手軽においしいものが作れるようになってきた。

生活を支える仕事だから、自分の生活もきちんとしていたい。自分の部屋がぐちゃぐちゃなのに仕事で利用者さんの部屋の掃除をしていると、なんだか矛盾しているように感じてしまうから、自室の部屋の掃除の頻度も少しは上がったし、利用者さんに楽しいことを提案するためにも自分の日々の暮らしのなかで楽しみを増やしていくようにもなった。自分の部屋に気軽に人を呼べるようになったのも、もしかしたらこの仕事のおかげかもしれない。

暮らしを支える仕事をして、自分自身の暮らしも整うようになってきた。


そして何より、この仕事をやっていて良かったと思うのが、利用者さんから悩みを聞いたりして、生きていくことのしんどさについて語り合ったりするとき。

福祉の仕事を選ぶ前にカウンセラーの仕事を志していた僕は、僕自身がしんどい時期に家に泊めてくれたりして、過ごしてくれた人たちの影響で、生活の中で誰かを支える仕事がしたいと思うようになった。普段から関わりがあるからこそ話を聞かなくてもともに過ごすだけで楽になれることだってあるし、利用者さんが話を聞いてほしいときに気軽に相談できる、身近な存在になりたいと思って福祉の仕事を選んだ。

ときどき宿直の日の夜に業務を終えた後でリビングで利用者さんから相談を受けて2人で語りあったり、自室に呼ばれて話を聞いたりするときに、自分も少しでも、人が楽になる役に立てているのかもしれないと感じる。

いろんなことを抱えてしまってしんどくなってしまうこともあるけれど、チームでやっている仕事だから、しんどいときは上司に相談するし、助け合いながら無理なくやれている。

時々ほかの仕事に憧れることはあるけれど、その仕事をしている人だってきっと同じなんだろう。いつか今の仕事から離れてしまうかもしれないけれど、そのときが来るまでは、今の仕事のおもしろさを存分に味わっていたい。

日々いろんなことが起きて、感情が揺さぶられることも多いけれど、本当に飽きることのない仕事だと思っている。

静かなものを好む人におすすめしようとは、あまり思わないけれど。笑


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お題をしりとり形式で考えて次の人に回していくしりとらーずの「お題リレー」も5週目に入りました。

「遅刻」→「暮らし」と続いて、次は新規メンバーの笹田くんにバトンを繋ごうと思います。


・しみじみ

・白黒つけたくないこと

・旬の野菜

から選んでください。よろしく~!


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このnoteに書けなかった、福祉の仕事をして自分のなかに起きた変化について、後日はてなブログに書いてみました。よかったらこちらもどうぞ。

たまには遠くを眺めてぼーっとしようね。