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2020年に福祉の仕事をしている。


利用者さんや同僚たちと、木々が豊かな、山のふもとの広い公園を散策していた。12月だけどあまり寒くはなく、散策路に積もった赤やオレンジ色の落ち葉はとても綺麗でふかふかだ。心地よく、穏やかな気分だった。時々ベンチで休憩をしては、利用者さんとふざけた話をしてみたり、鳥を観察しながらぼーっとしたりする。ゆっくり1時間半くらい散歩をして、駐車場に戻り、みんなで昼ごはんを買いにいく。

時々、これが仕事でいいんだろうかと思うくらい、穏やかで楽しい時間がある。大変なことも、もちろんあるのだけれど。


今でも福祉の仕事は、3Kと思われているんだろうか。きつくて、汚くて、危険?ついでに給料は安い? 給料は確かにまだ安いかもしれない。

 

福祉の仕事と聞いて、多くの人が連想するのは、高齢の方の介護の仕事だろうか。もちろんそれも福祉の仕事だけれど、他にもたとえば、生活保護ケースワーカーの仕事とか、母子寮での仕事や、親元で暮らせない子どもの児童福祉、それに僕がやっているような障害のある人の支援の仕事も、福祉の仕事と呼ばれる。保育や幼稚園、学校教育も「福祉」と捉える考え方もあるし、介護用品のメーカーや、家に手すりを取り付けたりするような仕事も、福祉の仕事といえる。そう考えれば、福祉の仕事って幅が広い。


僕がやっているのは、現場で直接障害のある利用者さんたちと関わる仕事で、職員はヘルパーやケアワーカーなどと呼ばれ、仕事内容は「生活支援」と言われたりする。

ガイドヘルプで利用者さんと買い物や観光、映画を見にいくこともあるし、普段の生活の場で、お風呂やトイレの介助、洗濯物や食事の用意をしたりもする。養護学校に通う子どもたちと放課後に療育的な活動もする。

職場で祭りがあればテントを立てたり店番をやったりもすし、時には草刈だってするから、仕事内容は幅広い。プロダクトデザイナーの人に手伝ってもらって利用者さんの自助具を一緒に作るようなこともする。エクセルを使う事務仕事ももちろんある。

説明が長くなると読む人が疲れてしまいそうだから、先に言いたいことと、これを書こうと思った理由について話してしまおう。

福祉の現場の仕事って、思ってたほど悪くないどころか、かなりおもしろいし、感染症が流行った今年は特に、この仕事をやっていて本当に良かったと思っている。

給料はまだまだ低いかもしれないけれど、処遇改善加算というのがあって、ボーナスは年々増えているし、僕の職場では世間の潮流に合わせて、長時間労働も少しずつ改善されてきている。

それでもまだ、だいたいどこも人手が足りないから求人をしていて、倍率は低い。それぞれの会社に個性があって、これからこの仕事を始めようと思ったら、いくつかの会社(法人の形態は社会福祉法人だったりNPOだったり、株式会社だったり、いろいろある)に見学に行ってみて、好きな雰囲気のところを選んで働くことだってできるかもしれない。

これからの時代、福祉の仕事は、ますます働き手にとっての価値が上がっていくんじゃないかと思っている。その価値を知ってほしい。いろんな気づきを得るチャンスにあふれた仕事でもあるから、一度、週1のパートとかボランティアでもいいから、やってみることをお勧めしたい。

僕が思うこの仕事の魅力を、できるだけ、短くまとめてみる。


人と関わることが主な業務内容であるということ


福祉の現場は、生の人間が相手の仕事だ。コロナ禍でも、緊急事態宣言が出ていても、職場に出向いて、利用者さんを直接支援していた。

リモートではお風呂介助はできないし、ロボットが普及すればできるようになるかもしれないけど、今のところ食事介助も、その人の目の前に行かないとできない。もちろん、もし職場で感染症の患者が出てしまったら、相当大変なことになる。それはずっと覚悟しているし、できる限りの対策をして、日々ケアに入っている。

もしそうなったときに大変な思いをしながら働かなければならないリスクはあるけれど、一方で、直接対面で人と関わることを継続して行えていることのありがたみもずっと感じていた。このことは、別の会社の人も言っていた。あまり大きな声で言えなくても思っている人は多そうだ。

緊急事態宣言でプライベートで人と会えない期間も、職場には慣れた人たちがいて、直接コミュニケーションをとることができていた。一緒にいて安心できる人たちと、楽しい会話ができていた。

僕は人と関わることにわりとエネルギーを使ってしまうタイプで、特に慣れるまでは、しんどいと思うこともたくさんある仕事だった。だけど一方で、ここで働いている限り、あまり孤独を感じずにいられるんだろうなとも思っている。行けば必ず誰かいる。子どものころ、皆がいつも放課後に遊んでいる公園に、約束をしなくても行っていたような感覚を、職場で持つことができるのはありがたい。


必要なことをしている感覚

「すぐ目の前にニーズがある」というのもこの仕事の良さだと思っている。目の前に、自分で服を着替えることができない利用者さんがいる。行きたい場所に一人で行けない人がいる。支援を必要としている。それを叶える。目の前の人のニーズを満たすことの積み重ねで、生活を支える。それが自分の仕事になっている。

逆に言えば、なんでこんなことしないといけないの?と思うことがほとんどない。時には、ここまでせんでよくないか?というようなことはあるけれど、よくよく事情を聞けばそれなりの理由があったりするし、もしほんとに必要ないなってことになればその仕事は消える。

基本的に、利用者さんが生きていくために必要なことをやっている。必要なことをやっているから、仕事を行ううえでの心理的なストレスは少なくて、やりがいがある。目の前の人の役に立っている感覚は、自己肯定感にもなる。


助け合いが当たり前のコミュニティに所属する

困っている人がいれば助ける、というのは、福祉の現場で働く人たちの共通認識だと思う。必要があれば、まだサービスを利用していない人を支援に繋げる。他の事業所にお願いすることもあるし、自分たちの職場で支えるとなると、皆で協力して、できる限り、一部の職員に負担が偏らないように分散して支える。

支える側の職員がストレスで潰れないように、なるべく互いに優しくする。皆不完全なのは当たり前だから、できないところは𠮟ったりするより、できる人が補う。できたはずのミスでも、人がミスするのは仕方ないことだから「次からお願いね。」って言う。自分のミスにも、周りのミスにも寛容だけど、怠惰にはならずに、できるだけフォローし合いながら、良い仕事ができることを目指す。

一人で完璧にこなすのではなく、その人ができていない部分を他の人が補う。気がついた人がやる。できる人がやる。その感覚が言葉にしなくても、共有されている。苦手なことを、無理に強要しない。利用者さんに対してももちろんそうだし、合理的配慮が必要なのは、職員も同じ。


そんな感覚の職場で働き続けて数年たって、生きることが楽になったなと感じる。向上心は大事だけど、僕の周りでは、完璧さなんて誰も求めていない。それよりも、上機嫌で、楽しく働けることの方が大事。休みとか、プライベートも大事にして、ストレスをためすぎず、長く働いてくれる方がありがたい。

生活だって同じで、無理して何かをやるより、適当でも気まぐれでも、楽しく続けていく方が大事かもしれない。

そんなことを感じながら、2020年に福祉の仕事をしていた。2017年に、面接で、「3年でやめて転職するかもしれません」なんて言いながら正社員になった今の職場に勤め始めて、もう3年以上がたった。職場にはいろんな変な人たちがいて、おもしろくて、時々とても大変で、大事そうなことを学ぶことがやたらと多いから、これを超えるくらいおもしろそうな仕事がひょこっと目の前に現れない限り、やめられそうにない。

生活支援は、続けばいつの間にか、誰かの人生に入り込んで人生を支援する仕事になっていく。支援する側も、相手の人生からたくさんのことを学ぶ。同時に、現場で常にいろんな判断をしながら動き回る、スポーツで言うところのプレイヤー的な側面もある。常に現場にいる人間。頭と体の両方を常に使う。忙しいときは大変だけどおもしろい。

カウンセラーになろうと思って大学に入り、在学中に心変わりして、結局福祉の現場に来た。カウンセラーの先輩が、「いろんな仕事をしてる人の相談相手にはなるけど、主人公にはなれない仕事」っていうことを何かで言っていた。福祉の仕事は、主人公は利用者さんなんだろうけど、その主人公に大きな役割を与える助演の役割なのかもしれない。相談相手にもなるし、伴走者にもなる。


これから先、個人主義的なものの見方や、経済重視の考え方に限界が来るんじゃないかと思うことがある。入り込まれることを恐れて人と距離を保って、殻にこもって自分を守れば守るほど、殻は分厚くなって、しんどいときに助けを求めて外に手を伸ばすのも難しくなっていまう。僕もずいぶん長い間、人に助けを求めるのが苦手で、そのせいでしなくてもいい苦労をたくさんしてきた。

障害のある人の方が、その点ではずっと長けている。子どものころから、誰かに支えられながら生きてきた。言ってみれば、人に何かを頼んだり、助けられたりすることのプロだ。彼らと日々一緒にいることでいつの間にか自分も、助けてほしかったら人に頼めるようになった。

周りの世界が緩まって、生きるのが楽になっていく感覚を、世の中が生き辛いと感じている人に一度経験してほしいと思っている。合わなければやめたらいい。

きつくて汚くて給料安いかもしれないけど、もしかしたらその分、価値のある仕事かもしれない。

たまには遠くを眺めてぼーっとしようね。