片道2時間半の一人旅
僕は旅を肯定している。
肯定しているというのはつまり、「好き」というだけでないポジティブな意味を旅に感じているということで、それはたとえば、新しい土地に行くたびに必ず何か新たな学びがあったり、普段いる場所から離れることで日ごろ考えないようなことを考えられたり、旅先で身も心もリフレッシュできて、翌日からまた元気に働けることであったりする。
ある先輩が過去に「思考は移動距離に比例する」なんてことを言っていたけれど、なんとなくわかる気がする。移動距離が長ければ長いほど訪れた土地の文化や景色は普段すんでいる場所で目にするものとは違って新鮮なことが多くて、その差が大きければ大きいほど、考えをめぐらせるきっかけも増えるのだと思う。
20代も後半になって、単に「好き」という理由だけで何かにお金を使って没頭できるほどの無邪気さを僕は失ってしまったけれど、旅に関して言えば、好きなだけでなく価値があることだと思っているから、時間とお金が許せば、なるべく住んでいる場所を離れて、初めての場所を訪れるようにしている。
久しぶりの一人旅の目的地に伊勢を選んだのにはたいした理由はない。死んだばあちゃんが持っていた近鉄電車の株の株主優待の切符を最近父にもらったのだけど、その切符が近鉄の駅で途中下車しなければどこでも行けるというもので、僕の住む奈良から見て隣の県なのに長い間行けてなかった三重にしようと思って三重のゲストハウスを調べていたら手ごろな料金の良さげな宿が伊勢に見つかったというだけだ。(ちなみに奈良から一番遠い近鉄の駅は名古屋だけど、名古屋には最近何度も行っていた)
思えば伊勢は、ばあちゃんが亡くなる前に最後に家族旅行で行った場所だった。
ゲストハウスのある伊勢の宇治山田駅までは奈良の僕の住む地域から電車で2時間半ほど。ゲストハウスのチェックインの最終は夜9時半だったから、遅く着いてもいいと思い、奈良でやりたかったことを済ませてから夕方5時ごろに家を出た。しばらくしたら電車の外の景色はもう暗い。帰宅時の人たちと同じ電車で伊勢に向かった。
僕は一人旅をするときはだいたいカバンに3冊くらい本を入れて移動時間に読んでいるのだけれど、今日図書館で借りてきた「あしたから出版社」(島田潤一郎さん著)という本が最高に良くて、電車のなかで涙ぐんでしまった。
社会に生きづらさを抱える人がひとりで出版社(夏葉社)を立ち上げて軌道に乗せるまでを本人が書いた実話で、こんなにまっすぐな人がいろんな人に支えられながら生きている国が日本なのなら、まだまだこの国は捨てたものじゃないなと希望が持てるような本だった。
僕はこの本を読むまで夏葉社のことを知らなかったのだけれど、この本を読んでから夏葉社のホームページを見るとまた感動するので、本が好きな人や、社会人として生きていくのがしんどいと感じている人はぜひ一度手にとってほしいと思う。
宇治山田駅に着いて、夜の伊勢の街を歩いてゲストハウスへ向かう。
初めての場所に夜に着くというのはなかなかワクワクするものだ。
ゲストハウスはとってもかわいらしい作りで居心地が良くて、スタッフの人たちも感じが良かった。
夕食をどの店にするか悩んだあげく入った駅前商店街の居酒屋も、お兄さんにおもしろい話を聞くことができ、お代をまけてもらった上にお土産に干し柿やみかんまでもらってありがたかった。
明日はどこに行こう。無計画な一人旅ほど、気楽に楽しめるものはない。
旅は、できるうちに、自由があるうちに、これからもたくさんやっておこう。
たまには遠くを眺めてぼーっとしようね。