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Ep.14: Raspberry Beret/ Prince

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 85年アルバム『AroundtheWorldinaDay』の4曲目。

 どうにもこうにも80年代の音。ボコボコの機械的で単調なドラム・ビート。ニューウエーブと呼ばれた音楽的なムーブメントムーブメントの風が吹きまくる中、どうにもこうにもこのドラム音に馴染めなかった。

 何たって、アル・ジャックソンやスティービー・ワンダーに代表されるような、エモーショナルなタッチのグリップの効いたドラムが最高だと思っていた。
 
 もちろん今もそう思っているのだけど、いつしか、この音に馴れ、そして、どちらかと言えば、好きだと言える感情を抱くようになった。

 それが俺の節操の無さを示すものなのか、感性が徹底的にアナログからデジタルに変わったことを示すものなのか、自分でも説明がつかない。ただ言えることは、俺だけかもしれないが、たとえそれが良いものでも、人間は新しいもの、馴れていないものを消化し異化するのには、時間がかかるということだ、直感で直ちにその良さを分かる人は、きっと、俺より自由な人なんだと思う。

 彼の一番有名な84年のアルバム『PurpleRain』は、発売一週間だけで100万枚、その後25週間チャートの一位にあり、最終的には1,300万枚以上売れたそうだが、それだけ自由な感覚の人が、世界中にたくさんいたということなのだろう、そのような人たちがきっと後のIT革命の消費者としての人的なインフラになっていったのだろうな、なんてことをも思ってみたりする。

 反射的な拒否感を乗り越え、正面から向き合ってみると、それまで主流だった、音を集中して集めて固めたようなサウンド・プロダクションではなく、拡散的というか、音と音との間に距離感を感じさせる音作りで、三階建ての建物の一階にドラムス、2階ではボーカル、三階で弦楽しているような感触を覚える、遠くから大音量を聴いているような感じとでも言おうか。

 よくテレビで横長のレター・サイズのスクリーンで映画をやっているが、それを縦にしたような感じ、ある意味、人間の身体のつくりと同等で、そこいらへんが不思議に快楽的なのかもしれない。

 ボコボコドラムも腹に来るというよりは尻に来るという感じで、何かもよおすんだよね。

 そして、しかし、歌うのは、木苺色のベレー帽を被ったサイケでフリーキーな女の子に対する愛情、黄金の60年代よ、サイケデリックよもう一度、というところで、その立ち位置に、大河はやはりトウトウと流れているような安心感と、それなのに、こんな不思議な音なのかよ、という違和感を同時に感じさせられ、どちらにせよ、プリンスは、聴き手に何らかの反応をさせることが、天才的に上手なアーティストだったと、俺は思う。

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