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人間嫌いと慌て者の小話。古文書『新板小咄』解読⑦

江戸時代の小話(小咄)『新板小咄』第7弾。
今回は、人間嫌い(と思われる)娘さんと、慎重さに欠ける慌て者の小話です。解読が難解だったこのシリーズも、最終回となります。

1.いなし病

16・17歳の一人娘がぶりぶりと患い、
とかく人がそばにいるのを嫌うので
医者もいろいろ替えてみたけれど、
脈を診る間も
「あっちへ行って、あっちへ行って」
と言うのです。

しかし、とある顔立ちの美しい若い医者に
かかると、この娘は快く脈を見せて、
「お父さん、お母さんは、あっちへ行って。
乳母も行きや」
と言います。

みんな顔を見合わせて
「お医者様を気にいったようだ。
薬を飲んでいらっしゃる。めでたい」
と喜んで台所へ戻っていきました。

ところが後になって
「お医者さん、おまえも行っておくれ」
と言うのでした。

2.ちから紙

田舎者が大阪天王寺に参りました。

参詣の人々が仁王門で
紙を口で噛んで当てているのを見て、
「それは何のためになさるのですか?」
と聞きました。

すると
「この紙を当てると、力が強くなるのです」
と言うので、その田舎者は
懐から鼻紙を取り出し、
ぴたっと当てたので大変驚きます。

「ああ、大変なことをしてしまった。
紙の中に金一分あったのに、
仁王様へ当ててしまった」

そして仁王様の身に打ちつけた紙を
取り戻そうと、探し回るのでした。


【たまむしのあとがき】

「いなし病」の「いなす」は、漢字で「往なす・去なす」と書き、「去らせる・行かせる」という意味になります。

そして、娘の言葉の「いんでおくれ」というのは、「いんでくる」という徳島の方言で「帰る」、つまり「むこうへ行け」ということです。

ですから、この小話の題は「あっちへ行け病」とでも言うのでしょうか。

結局は医者もあっちへ行けと言われたのですから、これは単に人嫌いだったのか、引きこもりの気があったのか、そんなところですかね。

イケメンの医者だけOKだったら、単に美男子好きってことで分かりやすいですし、個人的にその結末のほうが面白いと思うんですけどね・・・。

そしていつものごとく、主語不明に悩まされたのが「ちから紙」。

当初、お金の入った鼻紙を回収しようとしたのが、質問に答えてくれた人なのかと思っていたのですが、なにか釈然としないものがありました。

「ひたとあてけるが大におどろき」

この、「ぴたっと当たったので大変驚いた」のは、お金が入っていたから、磁石のようにくっついたためですね。(お金に磁力はないので、この場合はわかりやすくそう書かれているだけです)

そんなことになろうとは思いもよらなかったので、大変驚いたのは田舎者本人なのでしょう。

そして、一番最後の「ひねひねせられし」は、「ひねひね」が「ひねる・ねじる」なので、「ひねって探し出す」「ねじって取り出す」のような意味になり、ここからも、相当慌てふためいている様子が感じられますから、この行動の主は、やはり田舎者以外にないだろうと判断しました。

ちなみに、大阪天王寺に仁王門があるのは「一心寺」と「四天王寺」の二か所。

しかし、この小話にあるような「紙を当てると力が強くなる」伝説の残っている仁王門は残念ながらありませんでした。

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