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そのつらい症状にはコレ。古文書『まじない早合点』ご紹介

さまざまな身体の不調や痛みに対処する方法をまとめた、この『まじない早合点』は明治二十五年の発行。

その頃にもなれば印刷技術もかなり進み、今の書物のはじめともいうような、明朝体の文字が並ぶものも多く出回っているのに、この古文書は江戸時代の流れをまだ残した手書きのくずし字でまとめられ、しかもその大部分が平仮名という、いったいその意図はなんなのか、まったく謎に包まれた摩訶不思議なものとなっています。

表紙裏に「この書は諸々のまじないの秘術、あるいは諸病の妙薬を集めた書である」の通り、題名がそもそも「まじない」ですから、きちんとした処方というものではなく、「ちちんぷいぷい痛いの痛いのとんでいけ~」的な、怪しい臭いで充満したものといったほうが良いでしょう。

そのあたりをよく検証しながら、ご紹介したいと思います。

●イボをおとすには

庚申の夜露をつける。
イボ痔にもつけてよし。

●鳥目(夜盲症)には

ハモの肝を味噌汁に入れ、度々食すべし。
奇妙に治る。

●下血には

梅干しを黒焼きにして白湯で食す。

●しゃっくりを止めるには

茶碗に水を入れ、「玉」という字を三回書き、
「玉」の「点」は茶碗のふちに打ち、
その水を飲むべし。
または、柿のヘタを熱い茶に入れて
飲むもよし。

●毒虫に刺された時

その場所にあるものなら、どんなものでも
うつむけにすべし。

●黄疸には

柳の木を煎じて飲むとよし。

●疝気(腹痛)には

竹の節一つの皮を少しむき、
そこに歳と名前を書いて中にヘチマを入れ、
竹皮で包んで軒先の雨だれの下に埋め、
「疝気の宿一代はここで仕り給え」と言う。

●魚の目には

もち米をよく噛んで、その汁をつける。

●耳の穴の痛みを止めるには

年越しに飾ったイワシの頭を粉にして
耳に入れるとよし。

●のどのすべての痛みには

ゴマを炒って粉にし、白湯で飲む。

底豆そこまめ(足の裏にできるマメ)の痛みを止めるには

蚖蛇及蝮蝎がんじゃぎゅうふくかつ※」と言って
7回押さえるとよし。

 ※蚖蛇及蝮蝎=仏教用語。蚖(トカゲ)
  蛇(ヘビ)蝮(マムシ)蝎(サソリ)


【たまむしのあとがき】

一番最後の「底豆」の文中に「件のごとく、〇〇というて」とあります。

件というのは、おそらく前にも登場したことがあるということ、そして〇〇(原文は「同じ」を意味する踊り字)と言う必要があるということから、何かの呪文ではないかと推測し、本の前の部分をさらってみました。

すると、「歯痛むには蚖蛇及蝮蝎がんじゃぎゅうふくかつ」という題名のものがあり、そこには、痛む歯でこの呪文を書いた紙を噛み、歯型のところを南向きの柱に釘で打ち付けて置くと書かれてあるので、総じてどこか痛いところがあったときに効く呪文のようです。

「蚖蛇及蝮蝎」というのは仏教用語で悪いものを意味しており、何か「魑魅魍魎 ちみもうりょう」とよく似ている感じがしますね。

「蚖蛇及蝮蝎」が実在する嫌われ虫などを指しているのに対し、「魑魅魍魎」は化け物や妖怪を指していますから、この世の悪者vsあの世の悪者、といった図式になるでしょうか。

仏教用語もなかなか奥深くて面白いです。

それにしてもこの『まじない早合点』、期待を裏切らないやっぱり!といったものだったので、楽しく訳すことができました。

北海道出身の私は、「はんかくさい~(アホみたい)=北海道弁」を頭の中でつぶやきながら、取り組んでおりました。個人的に、こういったふざけてるのか本気なのかがわからないのが好きなのですよ。

効いたら良し、効かなくても仕方ないよね、で済まされる、のほほんの世界。古き良き日本の雰囲気が漂ってくるようじゃないですか。


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