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深夜と老婆とわたし

深夜1時。腰の曲がった老婆が少し先を歩いていた。9月中旬でもまだ夜も暑い。
25時にシルバーカーを押している老婆…。
怖っ…

『深夜 × 老婆 = 恐怖』の方程式は、林修先生も教えていないだろう。

“おいおい、婆ちゃん明日でええやろ”って思っていたら

「!?」

ワシは目を剥いた。

え、ワシの住むマンションに入って行く!?
え、怖っ…

エントランスのロックを解除後、エレベーターホールへ歩いて行く老婆の姿が遠目からでも見える。

追いかけるように、ワシも堂々とワシの家だし、家賃は嫁が払ってるはずだし?同じマンションへ入って行った。

心の中では、婆ちゃん…倒れたりしてないかなぁ…と少し心配もあったが、もしイキナリ殴られてもしっかり顔面で受け止めようとメガネを外し、あんまり見たくないもんも見たくないしと、もう頭の中はあの老婆のことしか考えれない状態だ。

中へ入り角を曲がると、老婆はエレベーターが降りて来るのを待っていた。

これは… “老婆とエレベーターに乗らないといけない…” ほろ酔いのワシでも咄嗟に老婆も嫌がるだろうと決めつけ階段へ逃げるように向かった。
ここまで敷地内にいるなら、もうお互い安全だ。

階段を登ってる最中、最近芸人のやす子がエレベーターが故障してるドッキリで階段をめちゃくちゃ上がらされるTVやってたなぁと思い出す。
どうでもいい。
あっという間に部屋の階まで辿り着いた。

ふと、エレベーターの前を通り過ぎないといけないことに気付く。嫌な予感がした。

エレベーターの扉が開く。
さっきの老婆が丁度降りて来た…

「うわっ!」って声が出た。
怖っ、はずっ、怖っ…

老婆が振り向いた。
ワシは顔も見れず渾身の会釈をしてその場を去った。同じ階かよ…

部屋に入るとすぐに鍵を閉めた。
口が妙に渇いている。
キッチンへ向かう。
冷蔵庫を空け水を取った。

すると…

「おーい」

か細い声がどこからか聞こえた。
鳥肌と共に咄嗟に後ろを振り返るワシ。

そこには、白いTシャツを着た女性が立っていた。
嫁だ。

「おーい、うるさいからご飯食べるな」

嫁は真っ直ぐな眼差しで言う。

怖っ…。生きてて良かった。

FIN

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