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胸騒ぎの膝枕〜勝手に膝枕外伝

【はじめに】

※この作品は、脚本家 今井雅子先生の【膝枕】の二次創作ストーリーです。朗読の題材としてお使いください。読まれる時はご一報くださると幸いです。

🎶サザンオールスターズ が好きすぎて、自己満足な外伝、書いてしまいました。はじめての作品ですし、noteを登録したのも最近ですので、なにかと不手際が有ればお知らせください。でも暖かい目で見守っていただくと、嬉しいです。

😊この物語は、フィクションであり、実際の人物、団体とは一切関係ありません。

【アップデートのお知らせ】

2022/07/22
⭐️S(仮)としていたバンド名が決まりました!! サザンファンが集まるオープンチャットにてバンド名を公募、投票の上、物語中のバンド名が決定しました!ほかにも文章をマイナーチェンジしていますので、よろしくお願いします。


😊主人公のナオキさんは、サザンオールスターズの若きファンの方のお名前をご本人に了承を得て使わせていただいていますが、ストーリーの内容は全て私の創作です。

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「胸騒ぎの膝枕」
作・こもにゃん


休日の朝。独り身で、趣味といえば大好きなバンドの曲を聴くことしかないナオキは、チャイムの音で目を覚ました。

ドアを開けると、宅配便の配達員がオーブンレンジでも入っていそうな大きさの箱を抱えて立っていた。受け取りのサインを求められた伝票には「枕」と書かれていた。

「枕」
ナオキの声が喜びに打ち震えた。

ナオキの両親は
今や必ず「国民的」という枕詞が付く大御所ロックバンドしゃらら〜ずの大ファンである。
1970年代にデビューした、しゃらら〜ずは、彼が生まれた頃には、すでに押しも押されぬ人気バンドとなっていた。
幼少の頃から、いや、母親の胎内にいる頃から聴かされていた彼らの音楽は、ナオキの脳内に刷り込まれていて、もはや彼の体は、しゃらら〜ずの音楽出て来ていると言っても過言ではない。
大学生になるとSNSで知り合った、しゃらら〜ずのファン達と交流するようになった。
当然のことながら、メンバーのほとんどは、彼の両親と同世代である。

つい最近のオフ会でも
「ナオキ、こんなオッチャンやオバチャンと喋って楽しいか?
彼女くらい作れよ」と言われたばかりだ。
もちろん世代を超えて、しゃらら〜ずの話をするのは楽しくて仕方がない。

が、「彼女を作れ」という言葉は彼の胸を深くえぐった。

ナオキは学生時代、付き合っていた女性がいた。
同級生に、しゃらら〜ずのファンだというと、みんな訝しげな顔で、静かになるので、あまり言わないようにしていた。
彼女と付き合い始めた頃、思い切ってそのことを告げると、彼女は「そうなのね」と微笑んだ。
自分を受け入れてもらえたと彼は喜んだ。
ところが一年ほど経ったある日、突然別れを告げられた。
「エロい歌を歌う、おじさんバンドの音楽ばかり聴かされる」というのが理由だった。
それ以来彼はますます、同年代の人間には、しゃらら〜ずのファンであることをひた隠しにするようになった。
音楽の話になると、流行りのミュージシャンの名前を出して、話を合わせた。

先週、いつものように彼らの曲を聴きながら、ファンサイトのグッズコーナーを眺めていたら、ある商品に釘付けになった。

それは、AI機能搭載膝枕であった。

「箱入り娘膝枕」や、「ぽっちゃり膝枕」など消費者のあらゆるニーズに対応した膝枕を、近頃テレビやネットショッピングなどで頻繁に目にするようになった。

そして、ついに、しゃらら〜ずファン向け仕様の膝枕が発売されることになったのだ。
商品名「胸騒ぎの膝枕」
「胸騒ぎの膝に頭を預けながら.24時間彼らの楽曲を聴くことができる」
「ユーザーの脳波をスキャンし、その日の気分に合わせた、しゃらら〜ずナンバーを流す」
「しゃらら〜ずのオフィシャルサイトと連携し、新曲や最新情報をすぐにキャッチ。ライブチケットも優先的に案内される」というのが謳い文句だ。
ナオキの給料にしては高価であったが、すぐに購入ボタンを押した。

それが今朝届いたのだ。
ナオキはダンボールをお姫様抱っこの形でリビングに運び込み、爪で丁寧にガムテープを剥がした。

箱を開けると、女の腰から下が正座の姿勢で納められていた。ピチピチのショートパンツから健康的な小麦色の膝頭が二つ、顔を出している。

「ネットの写真より日焼けしているんだね」

今は美白が主流だが、しゃらら〜ず全盛期には、日焼けした肌が健康的だと、もてはやされていた。
夏の象徴と言われた、しゃらら〜ずのイメージそのままの、この膝を見て、彼は胸が高鳴った。
まさしく、胸騒ぎの膝枕だ。
床に置くと、早速しゃらら〜ずの曲が流れ出した。

この曲は…
ナオキは思わず曲名を口にした。
膝枕が嬉しそうに膝を上下にゆすった。
「この曲はさー…」リリースされた年代、収録アルバムなどの蘊蓄を語ると、膝枕は、拍手をするように両膝をパチパチと合わせた。

彼はそっと膝に頭を預けた。
マシュマロのような柔らかさと沈み込み。ほんのりサンオイルのココナッツの香りがした。
子供の頃に両親に連れられて行った、真夏のビーチの懐かしい香り。
BGMは心地よいボリュームに調整されバラードを流し始めた。

君がいたらもう何もいらない。

ナオキは胸騒ぎの膝枕に沈み込んで眠った。

その日から、ナオキは、家に帰って、胸騒ぎの膝枕に頭を預けて、しゃらら〜ずの話をすることが楽しみになった。
早く家に帰りたいので、仕事をテキパキとこなした。
毎日、好きな話を存分にできるので、表情がイキイキし始めた。

「ナオキ、最近、デキる男になったじゃん」

職場の飲み会で隣に座った1年先輩のヒサコが言った。
彼女はぶっきらぼうな口調だが、仕事は良くでき、後輩が困っているとさりげなくフォローする優しさがあった。
ナオキはそんな彼女に好感を抱いていた。
その日彼は珍しく、酔いが周り、ぼんやりしていたところへ、彼女からの褒め言葉だ。
ますますクラクラして、頭が傾き、ヒサコの方に倒れ込み、ヒサコに膝枕される形になった。

「あの曲かけて」
酔って朦朧とした彼の頭は、ヒサコの膝を、胸騒ぎ膝枕と錯覚してしまい、しゃらら〜ずの曲をリクエストしてしまった。
「はぁ?」
と、ヒサコが低い声で言った。
彼はその声で自分の勘違いに気がつき、慌てて弁解した。
「す、すみません。家に帰ってると錯覚してしまいました。」
「今の、しゃらら〜ずの曲な」
ナオキは驚いた。
「し、知ってるんですか?」
「親が好きだったからなー。いい曲だよな。それより早く頭どけろ!暑苦しいわ」
ヒサコはナオキの頭を叩いた。

だがナオキは天にも昇る気持ちだった。
ヒサコのような、サバサバとしたタイプの女性は嫌いではなかった。
今時の女性には珍しく、肌の色が浅黒いのも好みだ。
スリムなのに、膝は意外にもフワッと柔らかく、ナオキの頭を優しく包んでしまうようだった。そのギャップにも萌えた。
しかも同年代で、しゃらら〜ずの曲がいいと言われたのは初めてのことだ。

翌日、職場の自販機の前で腰に手を当てて、缶コーヒーを飲んでいるヒサコに出会った。
その時、自分でも信じられない言葉がナオキの口からこぼれた。
「ヒサコ先輩、ぼ、僕と付き合ってください」
ぶはっっとヒサコはコーヒーを吹いた。

「な、何だって?」ヒサコは口からコーヒーを垂らしながら言った。
「だ、だから僕と…」
「別にいいよ」

2人は何度もデートを重ねた。
ヒサコは、ぶっきらぼうで傍若無人だったが、お弁当を作ってくれたり、雨が降りそうなら、ナオキの分の傘も準備していたり、細やかに気配りのできる女性だとわかった。

それがまた、ギャップで、ナオキはますます彼女が好きになった。
しかも、しゃらら〜ずの曲が好きらしい。
どこまで、しゃらら〜ずを知っているのかは、まだ聞けていない。
学生時代のトラウマが、それ以上しゃらら〜ずの話題をすることにブレーキをかけていた。
調子に乗ってはいけない。
ナオキは自分をいましめた。

その日もデートの後、二人でバーに入り、話し込んでいた。

「ヤバっ終電無くなったわ」と
ヒサコが時計をみて叫んだ。
「うちに来ますか?」
「えっ?マジ?ラッキー」

アパートのドアを開けて、電気をつけた時、ナオキは自分が大失態をしてしまったことに気がついた。
胸騒ぎ膝枕が、ナオキを出迎えるために、膝をにじらせ、玄関にちょこんと座っていた。
ダメだ、終わりだ‼️
こんなものを愛用してるなんて変態じゃないか。 

頭を抱えるナオキをいきなり突き飛ばして、ヒサコが胸騒ぎ膝枕を抱きしめた。
ナオキは顔からドアに激突した。

「ちょっと!これ胸騒ぎ膝枕じゃん!ナオキ、買ったの?すげーっっっ」
鼻血を出してうめくナオキに気付きもせず、ヒサコは胸騒ぎ膝枕に興奮している。

そして彼女は、胸騒ぎ膝枕を抱き上げてリビングに持って行き、その膝にルパンダイブした。
「ヤバい、気持ちいい。
しゃらら〜ずの曲がきこえるわ。」
鼻にティッシュを詰め込んだナオキは、ポカンと口を開けて見ていた。

そして我に返った。

「し、知ってるんですか?」ナオキは鼻声で言った。
「あったり前でしょ。ファンなら誰だって欲しいやつ…あーこの柔らかさ…この沈み込み…たまらんな〜。ナオキ、私ここで寝るわ」
膝枕がパチパチと膝を合わせて拍手をした。
「ヒサコ先輩…ファンクラブ入ってたんですね…」
「うん…そうだよ…言ってなかったっけ…」
ヒサコは早くも眠りに落ちかけ、語尾ははっきりしなかったが、彼女の言葉に驚き、ナオキは一睡もできなかった。

一年後…
ナオキは仕事から帰り、ドアを開けて「ただいま〜」と言うと、
いつものように胸騒ぎ膝枕が、膝をにじらせ、彼を出迎えた。
そして部屋の奥から「おかえり〜」とけだるい声がした。
ヒサコの声だ。
部屋に入るとヒサコがソファーに寝そべっていた。

初めてヒサコがナオキの部屋に泊まったあの日の翌朝。
二人でずっと、しゃらら〜ずの話をした。
そしてヒサコはかなりコアなファンだと言うことがわかった。
彼女は
「どうせナオキごときに、しゃらら〜ずの良さなんて分かるわけないって思ってたわ」と、今までのデートで、しゃらら〜ずの話を持ち出さなかった理由を述べた。
「ごとき」と言う言い方に少しひっかかりを感じたが、そこはスルーした。
その後、二人は結婚したのだ。
今、ヒサコのお腹には新しい命が宿っている。
彼女は、お腹重い〜腰揉め〜と、言いたい放題だが、ナオキは幸せだった。
リビングには二つの胸騒ぎ膝枕が並んでいた。
休日には二人並んで、膝枕に頭を預けて、1日中しゃらら〜ずの話をした。
やがて生まれてくる子供も、しゃらら〜ずのファンになって欲しい。
ナオキは強く願うのであった。

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