どこへ行ったの

なぜ赤インクは消えてしまうのだろう
「  に注意」の門柱の札も
背表紙の題字が赤かった本も
すっかり色がとんで何もわからない
 
なぜ大切なものは消えてしまうのだろう
消えてしまうだけではない
捨てることだってある
写真だって日記帳だって
捨てたことがあるじゃないか
 
消えたり
捨てたり
してしまったものを
針に刺されるように思い出す時がある
もうあいつらとは二度と会えない
なんてことをしてしまったのだろう
 
あの世にはどうせ何も持っていけないよ
そんなことわかっている
生きている間に
あいつらと会いたくて仕方なくなったら
どうしようもなくても
会いたくなったら
 
でも
ほんの少し
さっぱりとした気持ち
 
私の知らないところへ
私の知っているものが行ってくれた
それだけのこと
失ってはいない
離れただけなんだよ
 
飼っていた犬の夢をみた
私はすがりついて謝っていた
全部わかっているよと
許してくれた
卵焼きのような匂いのする
とても可愛いやつだった

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