居酒屋店員に名札は必要か?

私は大学1年の頃から延べ7店舗の飲食店でバイトをしてきた。
その中での名札についての内訳は以下の通りである。

本名フルネームの名札…2店舗
姓のみ…1店舗
下の名前のみ…1店舗
自分で希望したあだ名…1店舗
名札なし…2店舗

名札のレパートリーとしてはほぼ全種類(?)を体験した立場として、クソ客対応の実体験を踏まえながら、飲食店店員の名札についての見解を述べたいと思う。


本名フルネームの名札の怖さ


インターネットが発達した現在、不特定多数に本名を晒すことの怖さについては今更説明すべくもないだろうが、一応。

まず、FacebookやInstagramで検索され、個人情報を調べられる。珍しい苗字の人はあっさり特定されてしまい、客から友達申請が来ることもあるという。
FacebookやInstagramについては鍵をかけておけば危険はないだろう、と指摘する人もいるかもしれない。しかし、そのアカウントをタグ付けしている鍵をかけていない友人のアカウントから、顔写真を入手し、出身校や地元を調べることは容易である。
また、SNSを一切やっていなかったとしても、本人の預かり知らぬところで個人情報はネット上に流れている。たとえば、部活動の大会記録。私は自分のフルネームでサーチをかけられたとしたら、出身中学・高校と所属していた部活がバレる。


また、「どこの大学に行っているの?」「出身は?」「どこに住んでるの?」など、接客中に個人情報を尋ねてくるお客さんは多い。主に異性。
ほとんどのお客さんは単なる話のタネとして聞いてきていて他意はないことは勿論理解している。しかし、本名に加えて在籍大学・出身地・だいたいの住所がバレてしまえば、ついでにSNSを特定して、私の最寄駅で待ち伏せすることなど、本気を出せば容易である。

馬鹿正直に答えなければいいではないか、と突っ込む人もいるだろうが、咄嗟に嘘をつくのは難しいし、危険だからと誤魔化すと「自意識過剰」と非難される。


おじさんに下の名前で呼ばれるのは、シンプルに気持ち悪い


申し訳ないが、名札が嫌な理由としてどうしてもこれは挙げさせていただきたい。

「名前を呼ぶのすら許されないなんておじさん差別だ」と怒るかもしれないが、考えてみて欲しい。
お客さんは私の名前を知っているが、私はお客さんの名前を知らないのだ。
知らない人に名前で呼ばれるのは、結構怖いものである。


さらに言えば、名札をつけていても、わざわざ名前で呼んでくるのはたいていおじさんだ。店員と客の距離感を弁えている人は「店員さん」「お姉さん」としか呼んでこない。
それに、おじさんの方だって、「そこそこ愛想良く働いている若い女」しか名前で呼ばない。

また、名前を覚えられると、他に店員がいても私の名前で呼ばれる。他の男性店員がそのおじさんたちの卓にオーダーを取りに行くと、「〇〇ちゃんに来て欲しいの!〇〇ちゃん呼んで!」などと騒ぎ立てる客がいるのだ。私が他の卓のオーダーにあたっているときに、わざわざ呼ばれたりする。これは非常にめんどくさい。
私は時給で働いている一介の居酒屋店員で、指名制でチップが貰えるわけではない。よってたとえ容姿や態度を褒められようとも、指名してくるおじさん達の卓にわざわざ行きたいとはちっとも思わない。

また、さらに気持ち悪いおじさん客だと、わざわざ「〇〇ちゃん〜!」と呼んできて、オーダーかと思って聞きに行くと、「〇〇ちゃんを注文で!」などと異様なアプローチをしてくる。
悪い意味で言ってるわけじゃない、褒めてるからいいだろう、と思う人もいるかもしれない。
しかし、バイトを始めた当初の私は18歳で、そのように声をかけてきたおじさんたちは40-70歳くらいである。私からすれば父親か、下手をすれば祖父と同じくらいの歳なのだ。嬉しくないし、むしろ恐怖をおぼえる。こんな人に本名を覚えられているのか、と不安になる。


居酒屋店員に「可愛いね」「〇〇ちゃんどこに住んでるの?」などと容姿を褒めた経験のある男性へ、口を酸っぱくして言っておきたいことだが、
貴方の思っている何倍も、居酒屋で働いている女性は褒められ慣れている。よっぽど特殊でない限り、大抵の若い女は容姿について言及され慣れているのだ。

だから、大抵の「普通のおじさん」に褒められても別に嬉しくないし、「またか」と苦笑いするだけだ。「対応が丁寧ですごい」「一生懸命やってるのが伝わる」など、接客態度を褒められた方がよっぽど嬉しい。恐らく男性でもそうだろうが。


そもそもなぜ名札が強制されるのか?

名札はほとんどの場合、制服と同時に支給され、本名の名札をつける方針の店舗の場合は履歴書に書いた名前が自動的に印刷されている。私はこの名札で客に下の名前で馴れ馴れしく呼ばれるのが嫌になって、何度か名札を外して出勤したことがあるが、社員に注意されたため、その店ではおそらく「強制」であったとみて間違い無いだろう。

本名フルネームの名札が支給された店のうちの一つでは、採用されてすぐの面接で「希望があればなんでも言ってね」と社員さんに言っていただいたので、「本名で呼び捨てにしてくる人が怖いので、名札はなしにするか、あだ名や名字などを選ばせてください」と希望した。社員さんは「本社に確認してみるね」と答えたが、結局配られたのは本名フルネームの名札だった。


名札を強制する店が多い理由は、主に「クレーム対応」「親しみ」の二点であろう。
店員の対応が悪かったときに、客が「〇〇という名前の店員にこんなことをされた」と訴えるため、または、「〇〇という名前の店員の対応が良かった」と褒めるのにも使える。
名前で呼べる仲になることで店員と客の距離感を縮め、親しみを持ってもらう、という意味でも、名札は機能するだろう。

だが、この2点のどちらについても、あだ名や苗字のみで事足りるし、親しみという点においてはむしろ、店員が希望した「このように呼ばれたい」を叶えた方が有効であるといえるだろう。

「誠実さ」という点で、本名フルネームを求める店があるのだろうが、ネットストーキング全盛の現代において、店舗責任者ならまだしも、一介の学生アルバイトが、身を危険に晒してまで誠実さを示す必要があるだろうか。


名札なしでは店員同士も名前を覚えにくいし、名札の必要性が全くないとは思わない。
しかし、あだ名や苗字のみではどうしてダメなのか。

「居酒屋なんかでバイトをしている女が悪い」「それくらいの危険性と恐怖は許容すべきだ」と言う人もいるかもしれない。だが、居酒屋はキャバクラでもガールズバーでもない。若い女であることを生かして客と個人的なコミュニケーションをとった者が得をする業態ではないし、そうであってはならないのだ。不必要な危険性は減らしたいと思って何が悪い。本名は信用できる常連さんにだけ明かせばいい。

アルバイトに本名フルネームの名札を強制する居酒屋が、少しでも減ることを願う。

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