見出し画像

バカ苗病 美味しいお米の育てかた#013

バカって言ったやつがバカなんだぁ〜!

とは子どものケンカの定番センテンス。

無闇に人にバカとは言ってはいけませんよ!と

あれほど親に叱られたのに

日本の稲作プロセスでは私たちの主食のお米に向かって

バカって言ってる現象が!なんだって!??

馬鹿とはサンスクリット語のbakaまたはmoha(無知・迷妄の意)の音写「莫迦」「慕何」から転じたという説が有力である。「馬鹿」は当て字。」

『暮らしのことば新語源辞典』(山口佳紀編 講談社 2008)

とのこと。

無知、迷妄が自分に返ってきませんよう、今回はバカ苗病とは何かを掘っていきましょう。


本当に苗はバカなのか


一般的に言うバカ苗病とはいったいなんで しょうか。

学術的には、イネ馬鹿苗病菌という菌の胞子がタネ籾に付き、タネ籾の発芽時にその胞子も発芽。

ジベレリンを分泌することで苗に影響を及ぼし発生すると考えられています。

ジベレリンは成長を促進するホルモンです。

そ れが稲の巨大成長を起こし、分げつもあまりなく穂もつけない成長現象を起こします。


昔の人は、 うわー!稲がバカになった!と思ったのかもしれません。

無垢でかわいいといえばかわいいですが、みなさんはもう無垢ではないはず。。


アカデミックに掘る


さて、この菌は学術的にはジベレラフジクロイと呼ぶそう。

バカとレッテルを張ると思考を停止してしまうように思いますのでジベレリンとの関係がより明確に意識できるジベレラフジクロイという名前もお見知り置きを。(ま、覚えにくさ全開ですけどね。。)

このジベレラフジクロイの活性が起こりやすい場所にビニールハウスがあります。


ビニールハウスのようなこもった環境で

消毒などで菌バランスが消失すると

生き残った菌が温度や湿度などの条件が整うと激増してしまうのです。。

そのため、ビニールハウスでの育苗には環境管理に神経を多分に注ぐ必要があります。

私はハウスのない外の環境で苗を育てていましたが、極端に寒いところでない限りは外が一番安全だと考えています。


泥のカオスで菌場に多様性を生み出す



前述した泥水選別は、こうした菌の特性を踏まえ

菌のバランスを、むしろより複雑にすることでジベレラフジクロイの活動を抑制しようとする試みです。

今のところほとんどの生産現場では、その影響は年に少し現れる程度で、収量や経営に打撃になったという話は聞いたことがありません。

むしろ消毒という名の無菌化によって、苗が全滅したという話のほうが生産者から良く聞かされます。


ちなみに、日本の厚労省も

抗生物質をすぐに使って無ウイルス化すると、耐性菌が育って抗生物質とのイタチごっこが始まるから控えてください。

というチラシを病院などで普通に配布しています。


看護師や医師の話によれば、水洗いが一番清潔で

消毒はしばらくして雑菌が繁殖した、という現場の体験談は珍しくありません。


苗の全滅を経験した生産者のロジックのままでいけば、 次の年はなおいっそう強力な消毒剤で徹底的に無菌化することでしょう。

しかし、菌も薬剤耐性が付いてきて同一の薬剤では効かなくなってくるのです。


自然には決して勝てない


この薬剤と菌とのいたちごっこの果てに何が待っているでしょうか。

日本の果樹栽培において、特に林檎の黒星病はこの耐性菌によって殺菌剤が効かなくなっている事実があります。


食用の植物を育てる上での、自然現象に対するこういった過度の薬剤使用は、健康面、環境面、倫理面から見ても、ロジックそのものを見直す時期に入っているのではないでしょうか。


ヨーロッパにおけるオーガニック農業が広まった理由の一つは

生産者を薬害から守ること

でもあったことも思い出されます。


温湯消毒をやめたワケ

温湯消毒とは、一般的にバカ苗病と呼ばれる現象を引き起こすジベレラフジクロイを無菌化するために行います。

水分が浸透し、お湯の温度の影響で種籾がダメージを受けないよう に、選別した後すぐに温湯消毒すること

とされています。


まぁしかし、やったことがある人はわかると思いますが、

この時の作業のせわしさと言ったらありませ ん。一刻を争う如くです。

知り合いの新米生産者は塩水で選別後、1日経って温湯につけたら発芽しなかった、というケースもありました。

塩漬けのタネ籾になってしまった上に熱でやられてしまったからです。

この作業は非常にリスクが大きいため、大多数の農家はタネ籾が浸水しているシンクに薬剤を投入するだけです。

しかし、その観点はどちらも無菌化であり、お湯か薬剤かの違いだけで、泥水選別のような、

菌バランスの安定化という観点とは全く異なる観点での方法であると言えます。


また、自然界において突然お湯がタネ籾に降り注ぐことはあるでしょうか。

約65度のお湯はタネ籾に対して人為的な環境変化であることを意識しなければなりません。


それによるタネ籾へのダメージを考えると、 もし他の選択肢があるのであれば、熱いお湯をくぐらせる、という荒行は避けたほうがリスクを軽減できるでしょう。



強い生命力が無菌化を上回る

自家採種をして無菌化を毎年続けていくとし て、長い年月を経過したときにはその影響が出ないとも限りません。

長期的な自然のバランスの因果関係もシミュ レーションすることで、永続性のある栽培プロセスを見出すことができると考えています。

この無菌化は、実際のところそれほど必要ではなくなったとも言えます。


それは、一番初めの工程であるタネ籾のサイズ選別によります。

2.2mmか2.3mmの大きな充実したタネ籾を使うことで、菌の影響をさほど受けづらくなったと感じられるからです。

なぜそういうことが起こったかと仮定する と、おそらくタネ籾自体の植物ホルモンによる抵抗や免疫力が旺盛であれば、菌がジベレリンを放出したとしてもその影響を受けづらいのではないか、と考えられます。


逆に免疫力の弱いタネ籾は自らの抵抗が少なく、ジベレリンの影響を受けやすいという可能性も大いにあるでしょう。

これに関しては現場での現象を重視し、今後も検証を重ねていく必要があります。



バカ苗病に対する考え方を例においても

「栽培」という自然との共同作業において常に頭に入れておきたいのは

「自然界のバランスへのインパクトの大小」

にいつも注意を払うこと。


そして「自然界の作用と反作用を、短期的あるいは長期的に推察すること」です。


えーと、簡単に言えば、

何があっても自分の仕業と心得よ

です。


特に自然栽培においてはその観点の鋭さがあるかどうかが大切なポイントのように思います。


栽培においての殆んどのトラブルは

この「自然界のバランスへのインパクトの大小」を軽視した結果であると言っても過言ではありません。


現場のトラブルのほとんどは自分


というわけで


こういった自然現象を誘発するような環境を作った人間が

お・バ・カ・さ・ん

だったということで、それは何を隠そう私です。

そこに気づけなかった私の数年間の経験は

もしこれを見ている方で、家庭を持って営農しているのだとしたら

体験しなくていいことですので、参考にしていただければと思います。



菌との戦いは不毛です。今すぐやめましょう。

そして

現場のトラブルのほとんどは自分が巻き起こしていること

それ自覚すると、自然のバランスに対して感覚が鋭くなり

新たな解決策を見つけやすくなると考えています!


自家採種 → 脱芒 → サイズ選別 → 泥水選別

そして、浸水です。

浸水は12度上の冷たすぎない水にしておきましょう。発芽率が落ちます。

ここまで分かれば、自然栽培稲作は50%はマスターしたも同然です!

ご覧いただきありがとうございます!

続く


映像制作をはじめとした活動費に使わせていただきます。ありがとうございます!