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好きなバンドのライブを追っかけてしまう心境がわからない人に聞いてほしいこと

「好きなバンドのライブに行くのが趣味で、ツアーが始まると関西・四国中心に、時々東京や別の地域にも追っかけて行ったりするよ。」

と言うと、こう聞く人がいる。

「なんで同じライブに何回も行くの?」


これ、実は私も昔は思っていた。というか、ライブに行きたい気持ちが分からなかった。

今好きなバンドに出会うずっと前。まだ中学生にもなっていないころ。

地元高知から出たことのなかった私が初めて行ったライブは、母が行きたくてチケットを取った、ある女性アーティストのライブだった。透き通った歌声を持ち、音域も広い、テレビなどでも見る有名な方だ。もちろん私も知っていたし、好きなアニメの主題歌を歌っていたので、その曲が好きでよくアルバムも聞いていた。はじめてのライブにウキウキしながら、オシャレして会場に向かった。あの歌声を生で聴けるなんて想像もできなくて、現実とは思えなかった。

しかし、実際会場に入ってみて、私は愕然とする。


座席から見えたステージが、遠い。ステージは全然見えなかった。これでは歌っているアーティストの顔はおろか、動きも全く見えない。モニターはあったけど、それを見るならもはやテレビと変わらないような気がする…。


それだけでもテンションは急降下したのに、追い打ちがかけられた。

しっとりとしたライブだったため、開演しても誰も席を立つことなく、声も上げなかったのだ。ただ静かに聞き入っている聴衆に、子供だった私はぐったりした。照明が落ち、ステージ以外は真っ暗な会場。耳に心地いい彼女の声。そのうち私の瞼はゆっくりと落ちてきはじめて…そこからは眠気との激しい戦いだった。

この時私は、自分はライブに向いてないタイプだと認識してしまった。

例えどんなに音楽が素晴らしくても、真っ暗な中、眠ることなく静かに曲を聞くだけの行為が私にとっては苦痛で、それがライブというものなら、私には向いていないと思ったのだ。

それからは好きなアーティストができても、ライブに行きたいと思わなかった。アーティストが歌っている姿を見たいならライブDVDで十分。むしろ表情もしっかり見えて、同じ金額を払うならそちらの方が得だとすら思えた。音もアンプやスピーカーがあれば、家でも十分楽しめる。それでいいと思ってきた。そのバンドに出会うまでは。


今好きなバンドを知ったのは、好きなアニメのタイアップがきっかけだった。

今までロックと言えば父の影響でB'zが好きなくらいで、J-POPかアニソンくらいしか聞いてこなかったのに、惹かれたその曲はバリバリなロックサウンド。インターネットで調べて、そのアーティストの別の曲を聞いてみる。これまた滅茶苦茶ロック。でも何故かそれにも心惹かれた。ボーカルがかっこよかったのもあるかもしれないが、それまで惹かれたタイプのアーティストとは正反対のかっこよさだったので、それだけではない気もする。

今まで好きになったアーティストと、ひとつだけ共通していたところがあるとすれば、大人や社会に対する怒りを吐き出す、まるで思春期真っ盛りのような歌詞だろうか。ここまでの激しさはなかったけど、昔好きだったYUIもティーンエイジャー特有の反発を歌っていた。徐々にそういった毒気が抜けてきて、私は聞かなくなってしまったけれど。

聞けば聞くほどそのバンドに嵌まり込んでいって、CDは全部買った。それでもまだ足りない。悩んだ末、ついにライブDVDまで買ってしまった。そのアーティストはスタンディングでしかライブをしないと聞いていたため、ライブに行ってみるつもりは全くなかったので、せめてDVDで様子だけでも見てみたいと思ったのだ。しかし、そのライブの映像に映るお客さんたちを見て、考えが揺らいだ。会場にいる全員が一体になって、皆拳を上げたりヘッドバンキングしている。ボーカルにマイクを向けられると、必死で声の限り叫んでいる。みんな笑顔だった。バンドのメンバーも楽しそうだった。その様子を見ていると、あの子供の時のライブ以来初めて、私はライブに行ってみたいと思った。この空気を体感してからでも、自分がライブを楽しめるタイプの人間か、判断するのは遅くないと思ったのだ。

こうして初めて行ったスタンディングのライブは、言葉では言い表せないような貴重な体験になった。

入場した瞬間から四方を人に囲まれて、満員電車のように揺られる。普通ならうんざりしてしまうような状態だ。それなのに全然嫌じゃない。むしろ嬉しい。今周りにいる人たちが全員、自分と同じくこのバンドを応援しているんだ。この瞬間を楽しんでいるんだ。そう思うと、とにかく嬉しくてたまらなかった。

体を動かすことがとにかく苦手で、運動とつくものは何でもしたくないタイプなのに、周りと合わせて頭や手を振り回すのは快感だった。カラオケですら出したことのないくらい大きな声で叫ぶことも。とにかく最高の体験で、心臓がドキドキして泣きそうになった。この瞬間を永遠に忘れたくない、終わってほしくないとずっと思っていた。

長かったようなあっという間だったような時間がすぎて、ライブが終わると、体中が痛くてびっしょりと汗をかいていた。その汗もなんだか心地よかった。

以来4年ほど、ライブツアーを行ける限り追いかけている。 


最初に「なぜ同じライブに何回も行くの?」と聞く人がいると書いたが、今のライブの楽しさを知った私からすると、同じライブなんてものは存在しない。

たしかにツアー中は、決まったセットリストを持って、各地を回ることが多い。演出も、大まかには同じだ。

しかし、ライブの醍醐味はそこではない。

その日のお客さんの雰囲気、演者のモチベーション、音響設備。色んな要因が重なり合って、その日の空気が出来上がる。MCもその日によって違うだろう。その細かいニュアンスの違いが、ライブの楽しみなのだ。だから同じライブツアーでも、同じライブなんか一つもないのだ。

そんな事を、大阪までライブのために遠征してきて、まだまだこれから遠征する予定の私は考えてみたのでした。









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