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ずっとこのままで

街灯が少なくて、周りは山か畑しかなくて、ファミレスも24時間営業のコンビニもない。上京するまではこんな町がすごくすごくつまらなくて嫌いだった。だけど今はそんな何もないところが大好きになっている。

帰省する度に地元の誰かしらと週2ぐらいのペースで会うが、いつも町内を散歩し、閉店ギリギリのコンビニに駆け込んでありったけの酒とおつまみを買って暗い公園のテーブルか文化センターにある小さなステージの上であぐらをかきながらかつての私たちの話をして盛り上がる。あの時は異性と話したら負けというゲームをしていた、あの子とあの子が恋仲にあった、あの子のことが好きだった、と毎回同じ話をしている。同じ話でもすごく楽しいのだ。昔話や将来への期待の話の中で出てくる聞き慣れた方言やイントネーションが更に楽しさを掻き立たせる。
みんな小学校、中学校まで一緒に学び、高校はそれぞれのところに行った。高校時代は交流が全くと言っていい程なかった。就職や大学入学を境に頻繁に会って、飲んだり、話したりするようになって昔よりもずっと仲が深いと思う。今は男女問わず本当に仲がいい。それがすごく楽しい。ここは私の居場所だと思える。もちろん、東京にも私の居場所はある。私のことを好きと言ってくれて、大切にしてくれる友人がいる。東京が私を人間として成長させてくれる場所ならば、地元は私の中の変わりたくないものを変わらないように、忘れないように思い出させてくれる場所だと思う。人と話すことが好きなこと、誰かと一緒にいるだけで幸せなこと、自分がこんなにも笑えること。この前だって、友達がベトナム人にモテているという話でみんなで笑い転げた。心の底から楽しくて、幸せで、ずっとこのままでいたいと毎回願ってしまう。

私たちはもうすぐ21の歳になる。私を含めた四年制大学の子たちはインターンや就職活動が始まり、専門学校の子は国試を受けたり、卒業する年になってしまって集まることがこれから難しくなる。地元に帰ってくる子はどれぐらいだろうか。大人になると交友関係が変わってくるとよく聞く。普段は早く大人になりたいと願う私だが、この時だけはまだ子どものままがいいと思ってしまう。いつもこれが最後になってしまうのではないかと少し寂しい気持ちを抱えながらみんなに会いに行く。それでも結局は寂しさなんて忘れるぐらい毎回笑っているのだが。

何もない町だけど、何もなくったって地元の人たちと一緒にいればどこでだって、何をしていたって楽しい。箸が転げるだけでもみんなで笑い合える。そんな今をこの先もずっと大切にしたいと思う。

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