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小森ノートの秘密 釣りでノートをつける訳とは?

人はいろいろなことを忘れるていくものです。とくに私は幼少期から記憶力に自信がなく、出来事や景色は記憶に残るものの、物や人の名前、音楽の歌詞などの覚えることに苦手意識がありました。私は小学生の頃、桂米朝の落語のテープを家族でよく聞いていました。車で出かけるときは、車内はいつも落語です。その魅力的な内容は今も心に残っています。しかし、姉がその話をすらすら覚えて他人に話すことができたのに対し、私にはそれができませんでした。勉強自体はできた方でしたが、授業で学んだ内容をどれだけ覚えているかと問われれば、自信を持って答えられなかったこともあります。まぁ授業を聞いていなかっただけかもしれませんけどね
進学後も、試験勉強は大抵前日の夜に集中して行う「一夜漬け」でした。あらかじめ暗記しても、試験当日まで覚えているかどうかは常に不安であり、寝ると忘れてしまうのではないかと、睡眠を取るのが怖かったこともあります。実際には普段からあまり勉強をしたくなかったのもありますが、試験前夜に徹夜で一夜漬けをし、必死に暗記するやり方を選んでいました。その暗記方法は、チラシの裏などに重要そうなポイントを書き出して徹底的に記憶に留める方法でした。しかしそれは試験翌日には忘れてもいい一夜漬けのつもりでしたが、この方法で勉強した内容は驚くほど長く記憶に残り、高校の古典の試験で覚えた「枕草子」や「平家物語」の冒頭部分は30年以上経った今でも覚えています。

書くことが記憶に与える影響については、私自身は脳科学や心理学の専門家ではありませんので詳しくは知りませんが、個人的な経験から言うと、書くことによって記憶力が顕著に向上すると感じています。この実感は、中学生のころに試験の一夜漬けで初めて抱いたものかもしれません。それ以降、私は釣りの成果やその日に体験したことを記録する習慣をつけることにしています。釣り場で経験した良い体験を再現するためにも、苦い思いを二度と体験しないためにも、覚えていくことは重要だと思いました。池の地図を描き、ルアーを沈めて感じた水深やその日に知ることのできた情報を書いていきました。もともとこういった作業が好きだったのかもしれませんね。これを違う勉強に生かせていれば、と大人になってから思うのですが、好きなことだからやれる、ということはもちろんあったと思います。その記録をつけると習慣は、のちの私のバス釣りに大きく影響していきます。過去の釣果を見て、そこへ行って同じことをするときもあれば、そこから季節の進行に合わて次のステップを考えることもあります。曖昧な記憶のデータではなく、記録が明確に残っているのだから、釣りの計画も立てやすいのです。当時私は野池を回って釣りをしていましたが、どの池がどの時期に釣りやすくなるのだとか、どの池の魚が大きいのだとか、そういったことを知ることができたお陰で、その日の釣りの目的に合わせて目的地を選ぶことができました。そ綿密な計画を立て釣行し、それが思い通りいって自分の考察が検証されたとき、それは偶然かもしれませんが、私は自分でバスを釣った、という満足感に満たされるようになりました。

中学生時代につけていたまとめノート。釣り中二病だ。

プロトーナメントに参戦するようになってからも、私は記録をノートに書き留める習慣を続けています。とくにプラクティス中には、地形をひたすらノートに記入します。ただし、湖上での記録は乱雑になりがちで、後でそれらを地図上にきれいにまとめる必要があります。私はこの地図にまとめる作業も嫌いではありません。その際にその記録をとった過程や心境を思い浮かべることで、まとめながら経験の復習をおこなうことができます。実際には記録したその情報をしっかり覚えていなければ、トーナメント中に必要な情報を引き出すことができません。なので書くという行為は何度も繰り返す必要もあるのです。バス釣りは釣り方の選択肢が多い釣りです。他の魚種に比べると圧倒的に釣り方があります。その中から何かを選ばなくてはならないため、その日の釣りに入る前に、その場所でそのルアーを使う理由を考えておくことが重要になるのです。朝一はまずここへ、などと考えておく人は多いと思うのですが、日中は思考停止になりがちです。私も初めの頃はそうでした。幼いとき友人と釣りへ行ったときなどは、午後には違う遊びに転換しているときもありました。なので日中のことも段階を追ってプランを立てておく必要があります。プロになって初めの頃はそういった練習を繰り返しました。二分木、あるいはバイナリーツリーと呼ばれるYES、NOで選択肢を広げていくやり方です。このあたりのプロになってからのプラクティス術はまたそのうち書いていきたいと思います。


コクヨのノートはフォ―マットが変わらないので何年も続けて使える。

こうして書き残していったバス釣りに関する記録やノートは、今やけっこうな数となっています。経験が少なかった頃は、書かなくても覚えていたことでも、時間が経つと忘れてしまうことがあります。ふとしたタイミングでノートを読み返してみると、そこに新たな発見があることも少なくありません。これには釣果に関する情報だけでなく、20年以上前のノートを開いたとき、その頃にもっていたバス釣りへの情熱などを改めて振り返ることができ、バス釣りの楽しさを再び実感できる瞬間もあります。このように、記録はただの情報の蓄積にとどまらず、さまざまなことを再確認する手段ともなっています。

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