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【ナイツ 刊行記念インタビュー】『ナイツ午前九時の時事漫才』がいよいよ発売! オープニング漫才77本を収録した読みごたえたっぷりの1冊! その魅力と時事漫才の組み立て方の秘密を語る!


イキのいいネタが冴えわたる回から、独自の話術が際立つ回まで──ナイツならではの味わいのある漫才を楽しみながら、ニュースの振り返りにも利用できるお得な1冊『ナイツ午前九時の時事漫才』。発売に際し、『ナイツのちゃきちゃき大放送』の約5年間の歩みを振り返りつつ、ネタ選びの醍醐味や苦労などについて、ナイツのおふたりに語っていただきました。


使えるネタのあるなしや朝のラジオ番組という
制約を踏まえて繰り出された時事漫才

――5年分のネタが1冊にまとまった感想は?

土屋伸之(以下、土屋) その日1回きりの放送で終わるのはもったいないと思っていたネタが1冊にまとまって嬉しいです。250本超の中から厳選された完璧な77本ではないかと。

塙 宣之(以下、塙) やっぱり「このネタは好きだ」というのは何かしら記憶にあるもので、読み返してみるとそういう印象的なものが収まっていますよね。

土屋 漫才として出来の良いものも入っているし、1年通して、“このニュースはハズせない”というものがちゃんと網羅されています。

塙 注釈があるのもおもしろいですね。(2019年11月26日「沢尻らない」内で)ニッチェの近藤(くみこ)のところに“交際告白”っていう注釈が付いていて、べつに誰も知りたくないだろうと思うんですけど、そんなことまで説明してもらっている。それから、パーソナルな時事ネタもあって、5年の間に子どもが2人生まれたことが漫才になってるんですよね。将来「お前が生まれた年はこんなことがあった」と言えるという。

――この1冊の中で特に印象深いキーワードやキラーフレーズはありますか?

塙 “ゾゾってみる”(2018年7月28日)とか、そういうワードが個人的にはお気に入りでしたね。

土屋 ベッキーを“ベキペディア”と言った(2016年5月14日)のも、キラーワードですね。

塙 あとはそうですねえ……「水木しげる死去」、「愛川欽也死去」、「桂米朝死去」……。

土屋 なんで死去ばっかなの。ただ、永(六輔)先生や(桂)歌丸師匠もそうですし、亡くなられた方のことを漫才の中で笑いにかえるのは難しいことではあるのですが、それができていることで、“芸能の歴史”という要素も入ってきていますね。また籠池(泰典)さんであったり、ちょいちょいボケが豊田真由子議員になるとか、その時代を彩るスターというのが誕生していて。やっぱり彼らは当時の“時代の寵児”ですからね、そういう漫才はおさえていただきたいところです。

 豊田さんは、欲しい時に入ってきた感じはありますね。

土屋 ものたりなくなった時にね。籠池さんも、塙さんの顔が似ていてネタにさせてもらったりしていたから思い入れは強いですよ。寄席でもよくやるし、もはや他人とは思えない。

 僕はビッグダディがすごく好きなんです。だからビッグダディの家族ネタは個人的に大好きで。イギリス王室の話題からビッグダディになるっていうのが最近、2020年になってからもやってますけど(2020年1月11日)。

――そういったスターたちはもちろん、芸能界のスキャンダルが頻発する中、ネタにする側としてはそれらの第一報をどんな気持ちで受け止めているのでしょうか。

塙 魚市場に毎朝行っている方たちと同じです。朝のワイドショーを観て「今日はいいの獲れたよ!」と言われている感じ。

土屋 「なんと今日はこんないいマグロが!」と。

塙 ルンルンですよね。まあそれがどのニュースとは具体的には言えませんけどね! でもこれを読めばわかりますよ、文字の活きが良くて、おどるような文章になってますから。「これは速く書いたな!」というものもあれば、「なかなか次の1行が出てこなかったな」というのも、ネタを作る上では起きることですからね。

土屋 この漫才の良さとしては、その“速さ”もありますね。週の後半のニュースでも反映されることがあって、一番おもしろい時期に出すことができる。生放送だから対応できる部分でもありますけど、食材を取り揃えた状態で最も旬のものを出せる強みといいますか。

 そうですね。実際には毎週必ず時事ネタがあるわけじゃないので、「漢字が全然読めなくなる漫才」(2016年4月9日)などのような、“パターンを強めて、時事は弱めの漫才”というようなこともやっていますからね。何ヵ月に一度の単位でネタを世に出すというペースなら絶対に時事ネタは溜まるじゃないですか。でも毎週だとそうはいかない。それを、パターンがあることで乗り切っているんですよね。

土屋 しかもラジオなので、顔やジェスチャーで伝えることはできませんから、ぜんぶ耳で聴いてわかるボケじゃなきゃいけないという制約もありますからね。

――アドリブも入れたりするのですか?

土屋 アドリブは入れないですね。

 伏線回収ネタだったりすると、うっかりアドリブを入れてしまうことで、オチにうまくたどり着けなくなってしまったりするんです。

ネタの打ち出し方は、「ふたりでひとつ」(塙)、「世間にある毒を利用して笑わせる」(土屋)

――このラジオで披露した時事漫才を他で使っていくということもあるそうですが、どう取捨選択をしているのでしょうか?

 単純にボケがおもしろくて、この言い間違いは使おうということもあれば、パターンのおもしろさを流用して違う題材でやってみるというようなこともありますね。こうして書籍化されたおかげでまとめて見ることができるようになったので、この先5、6年はすぐネタを作れますよ。ただラジオでは目の前のお客さんに向けてやっているわけじゃないんで、そこには大きな違いがあります。ラジオとお客さんの前では、同じことでも言い方を変えたりもするんですよ。ラジオを通しておもしろくても寄席でやったらウケないだろうな、というネタももちろんありますし、逆にラジオでハネなかったとしてもこれは絶対に持ち帰ろうと自分の中で決めるものもあります。

――後口上の中で、“「あいつ、本当に最低だ」とか世間から言われていた人も、この漫才を通して見たら何となく捨て置けない人に見える”、そうなるといいと仰っていますがそれを実感したことというのはありますか?

 そんなことは言ってません!

土屋 いや、ここに書いてあるでしょう。

 そうですね、もちろん当事者でないとわからないことですけど、たとえば漫才協会の師匠の名前を出した時に、怒られることよりも感謝の言葉をいただく方が多いです。だから、そんなふうに「自分のことを言ってもらってありがとう」という声をかけてもらえるようであればいいとは思いますね。というのも、一度だけ「あれはラジオで言ってほしくなかった」と言われたこともあったので、そういう風に思われてしまうこともあるんだな、と。

――ネタにしても喜んでもらえるような線引きはあるのですか?

 ふたりでひとつ、ということでやる。もしボケの側だけが全部主張していると「ひどいな」と思われてしまうでしょうね。そこを抑えて、「ひどいこと」は実はツッコミが言っていたりするんですよ。

土屋 世間に毒があるので、同じ角度で吐き出すよりもそれを利用して笑わせる、という方が今の時代はいいんだと思います。


野望は深夜帯への進出。
環境が変わっていく中でも、ラジオは生き延びる。

――「午前九時の時事漫才」が定着したところで、今後ラジオというメディアで挑戦していきたいことなどありますか?

 個人的には深夜のラジオ番組もやりたいんですよね、朝・昼しかないので、せっかくなら朝・昼・晩とやりたいですよね。

土屋 芸人は深夜ラジオ、というのがみんなが通る道なのに、なぜか一度も深夜をやることなく……(笑)。それで今、世界がこんな状況にある中で、ラジオを聴く側としては、家事をしながら「ラジオっていいな」と普通に思ったりするんですけど、いろんな環境が変わっていく中でもラジオって生き延びていくのかなと思えたんですね。だからそういう感じで聴いてもらえたら、やる方としては嬉しいですよね。

――深夜ラジオへの言及がありましたが、『ナイツのちゃきちゃき大放送』では時間帯に配慮してネタやトークをしているのですか?

土屋 最低限お昼には下ネタを控えようというのは心のどこかに置くようにはしていますけど、まあ出ちゃうときはしょうがないということで。それでも下ネタを含むメールなどは、昼をまたがないようには気を付けています。

 朝9時のオープニングトークでワイドショーで取り沙汰される結構な話題なんてあまり取り上げられないと思うので、「漫才だから」ということで結果的にいろいろと発言できているというのはあるかもしれないです。ネタで言うのとフリートークでは違ってきますので、オープニングに漫才で1回ネタとして終わらせちゃうのが一番いいのかもしれませんね。

――この本をこれから読む方たちへメッセージをお願いします。

 この本を1冊買うと、歴史の勉強にもなりますし、年末年始、余興をやる時にこの漫才もやれます。あとは“クイズ大会”! この本から「20XX年にどんな出来事があったでしょう?」でもいいですし、「このボケは何を間違えたボケでしょう?」とか、「1冊あると無限に遊べるんだよ!」と、なすなかにし(*1)にプレゼンしていただきたい。クイズ芸人として、いろいろ考えるのが好きでしょうから、なすなかにしは。

土屋 時事ニュースを日々見ている人たちに対して、おもしろいなと思っている人も、怒りを感じている人も、一回この5年間の時事ネタの漫才を振り返って、どういう形でこのニュースを楽しんでいくかの参考にしていただくのもいいんじゃないですかね。いまだからこそ振り返るのが大事かもしれないです。それから漫才の作り方のパターンが詰まっているのでこれから漫才やりたいという人にもおすすめです。


*1 なすなかにし:中西茂樹と那須晃行のふたり(いとこ同士)から成る漫才コンビ。松竹芸能所属。


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『ナイツ午前九時の時事漫才』
TBSラジオ『土曜ワイドラジオTOKYOナイツのちゃきちゃき大放送』編
2020年7月31日 発売
四六判/並製 352ページ
ISBN 978-4-909646-30-9
定価(税込み) 1,760円(税込)
駒草出版公式サイト

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TBSラジオ 土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送
ナイツの二人が2015年10月の番組スタートからパーソナリティをつとめ、オープニングの時事漫才、豪華なお客さんを招いてのゲストコーナーなど企画もりだくさんの新型バラエティ番組。土曜9:00~13:00放送。

ナイツ
2001年結成。ボケの塙 宣之と、ツッコミの土屋伸之による漫才コンビ。内海桂子の弟子として活動。漫才協会、落語芸術協会、三遊亭小遊三一門として寄席でも活躍中。


聞き手・構成:ユカワユウコ
協力:浦谷晃代


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