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「ラジオといるじかん」Vol.10 「やだわ」と「ありがとなぁ。」

若林「俺、15年ずっと思ってた!なんでおれがカットインしてきたら付き合っちゃうんだよ!」
春日「それはさ、面白そうだなと思ったらそっちいくでしょ、メイン通りよりも面白そうなものがあるぞって言ったら入っていっちゃうよそれは」
若林「危ないんだよ、脇見運転だからそれは!」

(『オードリーのオールナイトニッポン』2024年02月17日放送より)

「オードリー、東京ドームで何かやったらしいね。」
ふだんラジオを聴かない人や、お笑いをまったく見ない人にもそんな情報が伝わりううるくらい、翌朝のテレビでも報道されていた『オードリーのオールナイトニッポンin東京ドーム』。
その前夜の2024年2月17日は、オードリーのオールナイトニッポンには珍しい収録回だった。翌日に大事な大事な東京ドーム公演を控えた放送だ。
「前日も生放送で、ドームの話に触れないのが一番かっこよかったんじゃないか」と春日さん。「さすがに無理あるだろ。逆にめちゃくちゃ意識しちゃってんじゃねぇか」と若林さん。そんなことを言いつつトークゾーンは極めて通常運転で、春日さんは、愛車を洗車した話をした。自分でやってみようとYoutubeで調べ、道具を買ってきて、はじめてコイン洗車場に行く。冒頭のやりとりは、春日さんのトーク中にいつものように若林さんが茶々を入れながら春日さんに言ったものだ。

春日「水洗いだけのコースがあって、時間制限があるのね。車を停められる時間が2分とかなのよ。」
若林「え?いやいや無理でしょ。人間の方と間違えてないよね?コインシャワーと。」
春日「あれ、コインシャワー入っちゃったのかな?」
若林「びたびたにつけても前の方のちょっとしか洗えないぞ?」
春日「今考えると細い個室だった気がするわ。」
若林「そんなわけねぇだろ!早く、先しゃべれよお前よ!俺が入ってきたからって横道それんなよ、お前は無視して話し続けろよ!」

そして一度はメイン通りに戻っても、たびたび脱線する。

若林「脇道逸れんなよお前!」
春日「また変わった通り見つけたからさ」
若林「話しつづけろよ!Keep Talkingだよ!話し続けろ!明日も言うからな、明日もKeep Talkingって!」
春日「気をつけるわ」

若林さんのトークゾーンでは、『欽ちゃん&香取慎吾の全日本仮装大賞』に審査員として出演した時の話。若林さんと欽ちゃんといえば、ニッポン放送で過去3回にわたって放送された特番『欽ちゃんとオードリー若林の「キンワカ60分」』。若林さんと欽ちゃんとの距離の詰め方は絶妙で。グウォン!とアクセルを踏んで迫り、フッと消えたかと思えば、気付けば欽ちゃんのポケットにはミニ若林が入ってるような。そうやって一つ一つ考えながら距離を詰めながらも、結局は欽ちゃんに翻弄されているという、不思議な師弟関係の中で繰り広げられるトークはたまらない。そんな若林さんは、仮装大賞でのエピソードを続ける。

審査員として、たいていの出演者に対して満点の「2点」をつけていたという若林さん。

若林「最後、欽ちゃんからフリ来て。最後の方の演目の感想も言った後に、最後だしなと思って。『あと、欽ちゃんの司会もずっと採点してたんですけど、最後まで元気に司会できたってことで、ギリギリ2点あげましょう』みたいなことをいったの。最後、俺としては(大胆に)いったつもりだったんだけど。それきいたあと欽ちゃんが、『ありがとなぁ』って言って。会場全体のあったかい拍手がきたんだよ。お前えらそうだな!審査して!って言われると思ったら。『ありがとなぁ』。」
春日「欽ちゃん流だね」

そうして土曜の放送が終わって、いよいよ東京ドーム公演の日がやってきた。私は岩手に住んでいるが、昨年11月に作家の藤井青銅さんがトークイベントで盛岡にいらっしゃり、その際に東京ドームのステッカーをいただいたのだった。それをスマホケースに入れては日々眺めて、この日を楽しみに待っていた。青銅さん効果なのか、盛岡でのパブリックビューイングは発売日に即完してしまい、買えず。結局おともだち数名を誘って自宅にスクリーンを出して、ビールを飲み、ピザをつまみながら見た。それぞれラジオを聴く頻度も異なる人たちだったので、もしかしたらついていけない話もあるかな?と少し心配していたのだけれど。みんなが知らないかもしれないことをわかりやすく説明する、のではなく。オードリーが番組とともに辿ってきた15年間をリミックスして、誰しもがビートを刻めるように。言葉通りながら、DJ、漫才、プロレス、このイベント全編を通じて、誰一人置いていかない空気がそこにあった。

今回のイベントのテーマソング、星野源『おともだち』の中にこんなフレーズがある。

「知ってること 知らぬことも たぶん 世界一なんだ やだわ」 

(星野源『おともだち』)

サビに行く手前、さりげない口癖のように歌われる「やだわ」。

そう、「やだわ」なのだ。あたかも迷惑そうに顔をしかめて春日さんに大声を出す若林さんが目に浮かぶ。前夜の「なんでおれがカットインしてきたら付き合っちゃうんだよ!」のツッコミ。それが若林さんの「やだわ」で、これが15年間続いてきた。それがおともだちであり、オードリーのANNの空気なのだ。

いつものジングルや提供読み、コーナーやお決まりの展開、フレーズ。随所に聞き馴染みのある音が響き渡っているのが東京ドームだとは信じられないほど、妙に安心してしまう。今週は4時間スペシャルだよ、くらいの感じで。心は踊っていたけれど、体が驚かない、特別なのに、身にスッとなじむ時間だった。

バカになること、鈍感になること。
過去のくだらなさをとことん愛でること。
失敗を、憂いをポップに昇華すること。
ひとりじゃなくみんなで、夢を見て向かっていくこと。
「ナナメ目線」を卒業するわけはないけれど、もっとまっすぐに受け止める、『ありがとなぁ』の欽ちゃんイズム。

オードリーのANN in東京ドームの余韻が教えてくれたのは、たとえばこんなこと。


オードリー。チーム付け焼き刃のみなさん。15年間続いたこの番組へ、いやそれ以上に、ラジオそのものへ?ありがとうを伝える機会を作ってくれて、ありがとなぁ。

文・イラスト:あまのさくや

【著者プロフィール】
あまのさくや

絵はんこ作家、エッセイスト。チェコ親善アンバサダー。カリフォルニア生まれ、東京育ち。現在は岩手県・紫波町に移住。「ZINEづくり部」を発足し、自分にしか作れないものを創作し続ける楽しさを伝えるワークショップも行う。著書に『32歳。いきなり介護がやってきたー時をかける認知症の父と、がんの母と』(佼成出版社)、『チェコに学ぶ「作る」の魔力』(かもがわ出版)ほか。
SNSは、Twitterアカウント(@sakuhanjyo)、Instagram(https://www.instagram.com/sakuhanjyo/)、また、noteで自身のマガジンも展開中。


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