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2022年10月3日 小松庵銀座 ≡ 森の時間 ≡講師 銀座料理長・小池智之、料理人・田村成輝

「生きている鴨を目の前で絞めて解体するのを見ると、命のありがたみが分かるな、と思います。自分の中で鴨肉の扱い方が変わりました。」


銀座料理長 小池智之(以下、小池)
2022年6月に愛知県の豊橋市のブランドの「愛知鴨(あいちがも)」とブランド牛の「源氏和牛(げんじわぎゅう)」の農場の視察に行って参りました。本日はその報告です。
なぜ「愛知鴨」と「源氏和牛」を選んだのか、からお話しします。
以前から、鴨は国産も外国産も何種類か使っていましたが、なかなか自分がおいしいと思う鴨に巡り合えず、たまたま「愛知鴨」の資料が手元にあったので、試しにサンプルを取り寄せました。自分の中ではおいしい鴨というのは、身の味わいとともに、脂が重要だと思っています。鴨南蛮や鴨汁では、鴨のおいしいダシの出たお汁を飲んでほしいと思っています。
取り寄せた「愛知鴨」は、自分が思っていた以上の旨味があり、「これはおいしい、ぜひ使いたい」となりました。

かわいらしい愛知鴨の雛たち


「源氏和牛」の方は、牛肉は種類が多いので、なぜこの肉を 使ったのかを説明しようとするときに、ストーリーをお話できるものがいいなと探しました。そんな時に「愛知鴨」を取り扱っている会社に「源氏和牛」もあるのを知りました。この肉は地元の「蓬莱泉(ほうらいせん)」という日本酒の酒粕を餌にしている牛の肉です。酒粕を餌にすることによって、肉が柔らかくなり旨味がアップするとのこと。これも取り寄せて試してみたら、非常に脂のおいしいお肉で、これならイケると「源氏和牛」を選びました。
本来なら、もっと早く見学に行きたかったのがコロナ禍になり、2年越しの思いでやっと見学に行くことができました。

このように、普段はお蕎麦を食べる店内でお話を聞きます

では、鴨の話をします。
鴨はストレスに弱い生き物で、本当にちょっとしたことで身が固くなったり、味が変わったりするので、取り扱いが難しく神経を使います。
鴨はカゴに入った状態で農場から処理する場所まで持ってきます。

そこで、鴨の首の頸動脈を刃物で切って、逆さまにして血抜きします。
血抜きを終えたら、湯が張ってある鍋に入れて茹でます。この湯の温度は60度から70度くらいです。肉の大きさや質感によって、職人が温度を決めて、あとは時間を決めて茹でます。
次に羽をむしります。早くしないと肉が劣化するので、すごい速度でむしります。一般的に脱毛作業は機械でやることが多いのですが、ここでは鮮度を保つために全部が手作業です。

手作業で羽をむしります


ある程度毛を取り除いたら、溶かした蝋ににくぐらせて冷水に落とします。すると蝋がパリパリに固まって、その蝋を剥がすと毛穴パックのように、取りきれなかった残った毛まできれいに取れます。
これで、ほとんどの毛が除かれます。

その後に氷水の中に入れて、完全に冷やします。
そして肉を解体しますが、最終的には人間の目でチェックして細かい毛も見逃さずにピンセットで1本ずつ抜いていきます。
実際に処理工場に行って、生きている鴨を目の前で絞めて解体するのを見ると、命のありがたみが分かるな、と思います。自分の中で鴨肉の扱い方が変わりました。

「愛知鴨」は、通常のJAS規格で地鶏を買うときの10倍の広さの農場で平飼いしています。
床に木屑を敷いていて、クッション性があり過ごしやすい環境です。
暑さに弱いので、夏場は大きな扇風機を回したり水場で体温を下げたりと、体調管理が徹底できるような飼育環境です。
餌には抗生物質を使っていません。元々は使っていたようですが、人間と一緒で鴨の健康を考えて使わないようになりました。
健康や体調の管理は難しいようですが、毎日、愛情を込めて世話をして、おいしい鴨に育っています。

おいしくてきれいな愛知鴨のお肉です

今は銀座店だけが使っていますが、機会があれば他の店舗でも試しに使ってみたり、いま使っている近江鴨も特徴的なので食べ比べもおもしろいかと思っています。

では、「源氏和牛」のお話は一緒に見学に行った料理人の田村から報告しますが、その前に見学のときに食べたランチをご紹介します。

愛知鴨を使った、鴨せいろ


私たちは、「愛知鴨」を使った鴨せいろをいただきました。
社長は、豊橋市のB級グルメの「豊橋うどん」のカレーうどんを食べました。
このカレーうどんには普通のカレーうどんに入っていないものが入っていました。

小松孝至社長(以下、小松社長)
超B級なの。どんぶりにとろろご飯が入っていて、その上にうどんが乗って、具の入ったカレーの汁がかかっているの。
すごいけど、これが、うまいんだ。

小池
「豊橋うどん」の定義として、カレーうどんの中にとろろご飯が入っているのが決まりらしいです。
10年くらい前にできたものとかで、それは地元の人は食べていなくて、他の地から来た人向けのメニューです。
その辺りから、メニュー作りのヒントになるものがあるかな、と思ってお話しました。

次は牛肉のお話で、田村からお話しします。

「源氏和牛」の飼育舎

料理人・田村成輝(以下、田村)
「源氏和牛」というのは、「蓬莱泉」という日本酒の酒粕を餌として与えています。自分は新潟の酒どころ出身ですが、酒粕は昔はとても余っていて、処理をするのが大変だったらしいです。今は美容や健康食品として効果があると好まれて、逆に足りないくらいです。
「蓬莱泉」を餌として使い始めたのは、地元で蓬莱泉の酒粕の扱いに困っていた時代に、牛の飼料として使えないかと試してみたら、これがよかったということでした。
見学のあとに、自分も調べていたら、松坂牛はビール粕や焼酎粕を使っていることもあるようです。酒粕と同じように、肉質が柔らかくて脂が良質になるようです。

牛たちの大好物の「蓬莱泉」の酒粕

「蓬莱泉」の酒粕を与えてからおいしい肉に育っているようで、さらなる工夫で酒粕だけでなく6種類の飼料を独自配合して与えています。「愛知鴨」と一緒で、抗生物質を含まない餌です。
「源氏和牛」と名乗っているのは、今回見学した農場だけです。この農場は、一家で経営しています。
常に、よりいい状態にするために、牛たちをのびのびを育てるための試行錯誤をしています。
「源氏和牛」は、全国の牛肉の品評会で最高の優等賞を2回も獲得しているという、トップクラスの和牛です。
屠殺場は別のところになるので、今回は見られませんでした。
「源氏和牛」の説明は以上になります。

「源氏和牛」を育てている皆さんと一緒に記念撮影

小池
実は、銀座店オープンのときに「発酵」をテーマにして、調味料など作れるものは自分で作って、この場所から日本の食文化について発信したいという気持ちがありました。そのときに、酒粕を飼料にしている「源氏和牛」のことを知りました。
銀座店では、「源氏和牛」はコースと単品のステーキとして扱っています。


料理人・田村成輝(左)と銀座料理長・小池智之(右)


ちなみに、「源氏和牛」という名称なので、源氏につながっているのかと思いましたが、直接には関係ないようです。
今回知ったのは、「愛知鴨」の精肉店には若い人が多いことです。若い人たちが、決められたマニュアル通りに処理するのではなく、その都度、やり方を変えて工夫していたのでとても共感しました。
職人を育てて、その職人が自分で考えて、その場面に合わせてやり方を変えて取り組んでいました。そういう点に、うちの会社と通じるものを感じました。

小松社長
例えば、「源氏和牛」の会社は、会社の規模サイズが小さくて、そのコンパクトさがいいのです。
基本的に、若社長夫婦と、古社長夫婦の4人でやっています。若社長のお嫁さんが獣医さん。
小さな規模の農場では、通常は牛を増やすときには子牛を買って大きく育てていますが、お嫁さんが獣医だから、自分の牛に出産をさせて、その子たちを育てています。
生き物を相手にしているから、定休日がありません。休日は、社員である家族が先着順で取得するとのこと。
家族経営だから、みんながお互いに補完しながらやっていくのは、ウチと同じだと感じました。

「愛知鴨」や「源氏和牛」の写真を来場者に見せる小松社長

さらに小松庵では、家族だけでなくお客さまや周りの人たちもお店の進みたい方向を一緒に見てくださっているように感じています。
八ヶ岳の温泉に入りながら一緒に語り合った風戸さんが、今こうやって銀座店のギャラリーのアートディレクターをやってくれていたり、縁というものをとても感じます。
いま目の前に座っている人に、僕のテニスコーチも1人います。彼はたびたび森の時間に参加してくれています。こうやって蕎麦の話を聴きに来てくれるテニスコーチもいるのです。
ここにこうして集まっている皆さんは、社会的立場や仕事を超えて、このメンバーで繋がっていることに価値があると感じているのだと思います。

今後はさらに、蕎麦屋が蕎麦を作り出すということを真剣に考えていきたいと思っています。
こうして、話を聞いてくれる人たちがいらっしゃるということは、ここが文化のバトンタッチの場として機能していること、バトンを渡すことに意義を感じているものと考えます。
ありがとうございました。


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