9:入院7日目
待ちに待った月曜日。今日は1週間ぶりにお風呂に入ることができる。そして、ついに明日は手術だ。
朝、点滴を交換しに来た看護師さんが、「今日は午前中に脳波の検査をして、午後にお風呂ね、順番きたら迎えに来るから」と教えてくれた。
朝食を食べ、歯磨きをしていると仲良しのおばあちゃんに遭遇。今日お風呂入って坊主にしてくるね、と報告してベッドに戻る。しばらくぼーっとしていると、赤いケーシーを着た知らない女性がカーテンを開けてきた。「今から、脳波の検査をします、歩いて来られますか?」と言ってきたため、ようやく臨床検査技師さんだと分かった。2人で歩いて検査室へ向かう。入院してから初めて、違う病棟やフロアを歩いた。
検査室に到着すると、まずベッドに座らされ、「脳波の検査は、脳の電気信号を読み取る検査です。痛みは全くありません。検査中は目を閉じてじっとしていてください。ただし、途中で目を開ける・深呼吸をするなどの、お願いをすることがあります。その時は従ってください。」と説明を受け、ベッドに寝る。そしてニベアの青缶のようなものを取り出し、「今からこのクリームを電極を貼り付ける部分に塗ります。」と言われた。
いくら手袋を受けているとはいえ、この汚い頭を触らせるのは申し訳ないし、なにより頭に近づかないで欲しい。しかしそんなことも言っていられないため、素直にクリームを塗られて、電極を付けられた。20箇所くらいは付けたと思う。人生で初めての脳波検査だから、少し楽しみだった。準備が終わると、部屋の照明が消されて、「では、両手はお腹の上に置いて、目を閉じてください。ゆっくり呼吸をして、リラックスして、そのまま寝てしまっても構いません。では検査を始めます。」と声をかけられた。
そのまま静かにしていると、横で脳波が印字されたロール紙が出てくる音、鉛筆で何やら書き込んでいる音がしてくる。何分かくらいすると、「目を開けてー、はい、目を閉じてー」と声をかけられた。静かにそれに従う。次に、「息を深く吸ってー、吐いてー」と、深呼吸を10回ほどさせられた。その間も、鉛筆で線を引くような音が聞こえる。深呼吸をしてから何分か経った後、何やら機械を転がすような音が聞こえて、それが顔の上にセットされる音がする。「いまから、何回か強い光を当てます。目は閉じたままでいてください。」と言われた。強い光?なんだろう?と思っていると、突然目の前が明るくなった。目を瞑っていても眩しいほどの光が、0.5秒くらいの間隔を開けながら点滅している。あまりに強くて驚いたが、眩しすぎて到底目を開けようとは思えない。10秒ほどして、光の点滅は止まった。すると今度は、さっきの倍速ほどの速さで点滅が始まる。それが止まると、さらに早く点滅が始まり、また止まる。5回くらい繰り返して、最後は、点滅しているのか付きっぱなしなのか分からないくらいの速さで光っていた。
機械を片付ける音がして、それから5分くらいはそのまま安静にしていたと思う。だんだん眠くなっきたところで、「以上で検査は終わりです」と声をかけられた。部屋の電気がつき、目を開けると、電極を外され、タオルでクリームを拭い取られた。
その後、同じ部屋の中で脚のエコー検査をしてくれた。右脚が痛いと訴えていたことで、先生が検査の指示を出してくれていたのだ。ベッドに腰掛け、脚を下ろした状態でプローブを当てる。私も一緒にエコーの動画を見ていたが、動脈の血流を感知すると、赤く色がつく。静脈は、ただの空洞のように黒く写る。筋肉は、繊維の塊だから白い線で写る。これがなかなか面白く、ずっと見ていると何が写っているのか分かるようになってくる。両脚合わせて20分ほど見てもらったが、特に詰まっている静脈は見つけられなかった。
検査の途中で、知ってる看護師さんがそろそろ終わる?と覗きにきた。お風呂は午後のはずだったのに、ちょうど人手が空いたらしい。異常なし!と検査を終えて、一度部屋に戻った。着替えやナプキンの準備をして、車椅子で上のフロアの浴室に移動した。
浴室に入ると、ビニールエプロンに長靴を履いた看護師さんが2人待機していた。私は車椅子から背もたれの無い椅子に移り、ビニールポンチョを着せられた。「ごめんねー、ゆうなちゃん、切っちゃうよ、大丈夫?」と、みんな心配そうに顔色を伺ってくる。うん、いいよ、思いっきりどうぞ!と返事をすると、合計3人の看護師さんで一斉にハサミで無造作に切り始めた。あっという間にポンチョに髪の毛がたまる。美容室でも、こんな大量に切った経験は無い。「ベリーショートも似合うじゃん」と励ましてくれた。
大まかに切り終わると、次はバリカンの出番。これまた3人同時にバリカン攻撃が始まった。左右と後ろからウィーンと音がする。時間が経つと、バリカンは熱を持つらしく、だんだん痛くなってきた。何回バリカンを当てても毛が剃れない部分があるらしく、同じ所ばかり当ててくる。どうやらそこは、脳波検査でクリームを塗った所だと判明し、熱いからやめて、と言ったらすぐにやめてくれた。そのままポンチョを剥ぎ、病衣を脱いで真っ裸になった。ナプキンついてるんだけどどうしよう?と聴くと、「いいよ、そのまま捨てるから」と返事をされた。しかし、人が見ているところでパンツからナプキンを剥がしてそのまま渡すのは、どうにも恥ずかしかった。「もうそんなに血出てないんだね」汚れたナプキンを他人に見られたのは初めてだ。
点滴の留置針が濡れないようにビニールを腕に巻き、そのままカーテンの向こうの浴室に入った。ここで剃髪後初めて鏡で自分の姿を見た。視力が悪いながらも、一休さんだ!と思った。しかしまじまじと見ている余裕もないため、ビニールエプロンの看護師さん2人に見守られながらシャワーを浴び、全身を洗った。針が痛くて片腕があまり動かせないため、背中は洗ってもらった。人に見られながらのシャワーはどうにも落ち着かない。さっさと洗い終え、体を拭いて車椅子に戻った。ブラジャーも付けてもらい、至れり尽くせりだ。
浴室から出ると、帽子を用意してないことに気がつき、看護師さんが簡易帽子を作ってくれた。病室に入るとちょうど昼食の時間。食べ終えて歯を磨く時に、眼鏡をかけてきちんと自分の姿を見た。割と坊主似合っている。歯磨き中に、仲良しのおばあちゃんがやってきた。お風呂入ってきたよ。と声をかけると、「頭の形がきれい、似合ってるよ、かわいい」と褒めてくれた。
歯磨きを終えるとすぐ眠くなり、横になった。お風呂の間にシーツを交換してくれたらしい。臭くない。枕に頭を乗せると、髪が短すぎて枕カバーに頭が引っかかる。寝返りを打つには、毎回頭を浮かせないといけなかった。
頭の写真を母親に送ると、「かわいいじゃん」「生まれた時から髪ボーボーだったから、髪が無い姿初めて見た」と返事が来た。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?