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市川春子 作品集Ⅰ 虫と歌 ※ネタバレ感想

宝石の国ですっかり夢中にさせられ、その足跡を探りたくなり作品集を購入。
市川春子先生、当初からここまで作風一貫していたとは…
市川先生は手塚治虫以来の天才漫画家という印象。
絵柄もどこか手塚治虫を彷彿させるところがあるが全然古くなく、独特かつオシャレで、すごく「エロい」絵を描く人だと思う。

星の恋人

▼基本情報・あらすじ
主人公
幼い頃におじにプレゼントの工作をしていて誤って左手薬指を切断→指が妹のつつじになる
高校生くらい?になっておじの家に居候→つつじが少女に育っている

実は自分自身も植物発生学により作られた人工生命体だとおじに告げられる

身体を欠損しても再生できる→欠損し過ぎると記憶を失って子供に戻る

次第につつじに惹かれる主人公→告白するが、気付かない振りをされる

つつじは朝はおじの母、昼は娘、夜は恋人の役割をしており、今のままが幸せと感じている
→腕を切り落として主人公に渡す
→おじ、つつじを剪定し過ぎて幼女にまで戻してしまう
→腕を育て続ける主人公のカットで終わり

▼考察
むちゃくちゃ切なくて、むちゃくちゃ怖い。
宝石の国にもつながる、ある種のハードSF。

人工生命体の悲哀→最終的には自分の腕を切り落としてしまうような精神状態になってしまう?(人間ではないのに人間の生活をし、幸せを追い求めている矛盾→正常な自我を保てない?)
⇐そこまで育つ度に剪定して幼女まで戻している可能性

市川春子は、人間にとってかわる新たな生命の価値観を描こうとしている?

ヴァイオライト

▼基本情報
飛行機墜落

主人公
飛行機事故で名前しか覚えていない

すみれ
金髪?の美少年。
何かと主人公の世話を焼く。
近づくと静電気がすごい。

実は…
すみれは雷の妖精?
飛行機が自分のせいで墜落したので、生き残った主人公を助けようとした。
最後は崖から落ちた主人公を直接触ってしまい、黒焦げにしてしまう。

▼考察
不思議なお話。
詩的な表現がふんだんに使われている。

最後、主人公が砂糖をすみれに渡そうとした後、捨ててしまうとこが謎。すみれは必死で手で受け止めようとするが、電気ビリビリになって焦がしてしまう。
砂糖は電気を通す?主人公はすみれの正体に気付いている?

なんというか、市川春子は二周目を読ませようとしてくる漫画家だな。

日下兄妹

▼基本情報
主人公
ピッチャー。肩を壊して家に籠る。

家はおばさんのやっている古道具屋
古い箪笥を開けようとしたらネジピンが飛んで逃げていく。
ネジピンは少しずつ大きくなり、言葉を話し始める。
主人公の亡くなった妹の名前「ヒナ」と名付ける。→ヒナは次第に家事をこなすまでに成長し、本当の妹のように振る舞い始める。
ヒナは本を読むのが好きで、良く一緒に図書館に行く。

実は…
ヒナは彗星のクズ=流れ星だが、箪笥のネジピンとして使われていた。
窮屈なネジピンから解放してくれた主人公に恩返ししたかった

▼考察
悲して切なくも、とても優しいお話。

やはり市川春子は無機物に生命を宿したい…っぽい。

虫と歌

▼基本情報
主人公ウタ
兄と一緒に昆虫の模型を作る高校生。

ハナ
主人公の妹

シロウ
海底で眠らされていた実験体。
ウタが色々と世話を焼いて言葉を覚え始めた頃に寿命が来る


人間に擬態する昆虫を育てる実験をしている。
昆虫としての寿命は短く、これまでの最長はウタの17歳。
何十回も弟、妹、息子、娘を亡くし、気が滅入っている。

▼考察
これまで当たり前に思っていた家族との関係性や自らの存在意義・自己認識が根底から覆されるシチュエーション。

繰り返される兄と昆虫の関係は客観的に見れば無慈悲で残酷・非情だが、そこにある愛は本物であると示唆している。

宝石の国の金剛先生と宝石の間の関係にも通じる。

作者自身が複雑な家庭環境で育ったか、何か家族間の関係性を根底から覆されるような出来事があり、それがトラウマになっている可能性はあると思う。

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