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これからの「着地型旅行商品」は、そこに暮らす人とともに。


多分、もう10年も前になると思う。
故郷の釧路で働いていた頃、友達と一緒に参加した体験ツアーのことを、最近よく思い出します。


その体験ツアーというのが
「釧路川をカヌーで下る」というもの。
たしか、釧路駅を湿原ノロッコ号で出発した後、カヌーツアー事業者と待ち合わせ、カヌーに乗り込こんで釧路川を1時間くらい下って、
またノロッコ号で釧路まで帰る、という
日帰りツアーだったと思います。
釧路に旅行に来られた方向けの、
いわゆる「着地型旅行商品」です。

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私は転勤族で、道内を2〜3年周期でぐるぐる回っていたので、(この時は、まさか東京で働くことになるなんて思ってもいなかったけど)、故郷にいるうちにと、愛車のMINIちゃんと一緒に、釧路や道東のあちこちにたくさん出かけました。

数年前のブラタモリで、釧路湿原が特集されたときに、おぉーそうなんだ!という驚きと、
すごいだろう!という誇らしげな気持ちになった訳ですが、釧路湿原は、私にとってあまりにも身近すぎる存在。

だって、実家から10分も歩いたらすぐ湿原だし(プロフィールや記事いちばん上のもやっとした写真は実家の近くです)、鹿とかキツネとかも、その辺を普通に歩いているし。
あまりに当たり前すぎて、なんとも思ってなかったけれど、それゆえに意外と知らない、近すぎて分かった気になっていたかも、と。
大人になって釧路にまた戻って、住むようになって、見えるもの、感じるものも違うかも、と思ってツアーに申し込むことにしました。

この日は、「釧路人なのに釧路川下り?おもしろい!」と賛同してくれた(ほんと大好き)札幌出身の友達を誘って、2人でツアーに参加。

ノロッコ号の旅も、なかなかよいなぁ。
普段見る景色が、また違って見えてくる。
窓の外をみると、小さい子とその親が、汽車に向かって手を振ってくれて、思わずこちらも笑顔で手を振り返す。
湿原の中に入り(そう、湿原ノロッコ号はその名の通り湿原の中の線路をひた走ります)、鹿や丹頂鶴が沿線に出てくると、速度を緩めて解説をしてくれる。窓側で喜んでいるのは、観光で釧路に来てくれた方かな。
私は、動物たちではなく、それを見て喜ぶお客さんを見て、なんだか嬉しいような、自慢したいような、そんな気持ちでした。


カヌー乗り場について、ライフジャケットを着て、いざ出発。
新緑の季節の前だったので、川面から眺める湿原は茶色だったけど、これがいつも橋の上から、
見ている釧路川の源流なんだ…、と思うと
それだけで感動しました。いま、自分は、あの湿原の中にいる。
この時間帯の参加者は、私と友達だけ。
GWだと新緑の湿原を堪能しに、たくさんのお客さんがくるんだろうな。

カヌーは静かに音もなく、すすんでいきます。
穏やかな川面。風の音、鳥の声、川の音。

こんな時間があったんだ。


途中、カヌーの船上で、ガイドさんが淹れてくれたコーヒーの味は格別でした。

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「どこから来たんですか、東京?」と
ガイドさんから聞かれて、ふたりで渾身のドヤ顔をきめて、「地元なんでですー!」と言ったら、
「えー、めずらしい!なんでー??!」と
案の定、驚きの反応。


そのガイドさん自身も、道外のご出身で、
釧路の魅力にとりつかれて移住されたそう。
なんで釧路に住んだの?釧路のどこが好き?みたいなはなしをたくさんしました。そんな交流が楽しく感じたのと、自分の故郷釧路のことを、こんなに好きになってくれている人いる、ということを知れたのがとても新鮮で嬉しかったのを、今でもよく覚えています。

湿原の生態や動物たちのこと、季節によって、
時間によって(朝靄の中をいく早朝カヌーは格別。まさにナイトタイムエコノミー!)姿を変える釧路湿原のはなしは、私たちの知らないとても深くて、興味深いものでした。


船上ではガイドはもちろん、あそこの山の奥にはアイヌネギ(行者ニンニク)とか、クレソンがめっちゃ生えてて穴場!とか、地元ならではのはなしも楽しくて、私にとってこのツアーの参加は大切な原体験として記憶されています。


先日、この記事のなかで「これからは、地域の人が自分の地域を再発見するような、唸るような尖った体験商品の開発が必要になる」ということを書きました。

その考えのもとが、この釧路川のカヌーツアーの体験です。

この日帰りツアー自体は、おそらく当時も今も「外の人向け」に販売されているものだと思います。ガイドさんが地元から来たと言って驚いたくらいですから。地元の人が参加するのは、道外の友達が来た時に、釧路らしさを伝えたくて同伴する時、とその時ガイドさんが話していました。

でも、地元の人を唸らせるくらい、地元の人に地域を再発見させるくらいの商品がつくれたら、外の人には、確実に刺さると思うのです。
むしろ、商品開発する時は、外の人ではなく、地元の人をイメージしてつくると魅力的な商品になるのではないでしょうか。

外の人は、いい意味で何も知りません。
でも、地元の人だとそうはいきません。彼らに満足してもらうためには、相当つくりこむ必要があります。結果、それが商品やガイドの質も高めて、担保することにつながると思うのです。

売るときは、国内観光客向け、インバウンド向け、地元向けと分けることなく販売する。言語対応など多少のアレンジは必要だけど、商品コアは、あえて地元向け。

もうひとつ、狙いたいのは、国内観光客、インバウンド、そして地元の人。参加するお客さんを意識的にミックスすること。地元の人は、かならず絡めるといい。
外の人が喜ぶ姿を見て、地元の人は喜びや誇りを感じるから、そこで勝手に交流が始まります。
私たちがそうだったように。

ガイドさんからは専門的な知識を、地元の人からは地元ならではのはなしを。そうすることで、地域の資源がより立体的に伝わる。ツアー自体が地元のお客さんがいることによって、勝手に魅力的なものになっていく気がします。

実は、これこそが、政府が観光立国を目指す意義のひとつなんです。
「経済成長」、「地方創生」、「国際交流による相互理解→国際平和への貢献」、
そして何よりも「わたしたち日本人自身が自らの文化・地域への誇りを取り戻すこと、再認識すること」

とかく、経済面の話ばかりがされがちですが、
私が信じ、いちば大事にしている観光のチカラは、「国際平和への貢献」、「ビレッジ・プライドを育むこと」(結果、地方創生へつながる)、だと思っています。政策を考える時も、ここをすごく意識します。きちんとしたものがつくることができれば、経済は後からついてくるから。

さらにもっと踏み込むと、旅行商品を通じて、地域資源を活用しながら、守っていくという持続可能なサイクルもしっかりつくれると最高です。
そこまでつくりこめると、地元の人が参加する意義や動機が自然と生まれます。ツアーに参加することで、自分たちの大切な地域の宝を守ることにつながる。寄付もいいですけど、楽しみながら、そういうことができるなら、わたしなら喜んで参加します。着地型商品には、そういう可能性があると思います。だから、今こそ「着地型商品」は地元の人を巻き込んで、地元目線で開発を。

地元の人が、その土地を愛し、豊かに、楽しく暮らすこと。
本当の観光政策は、そこに暮らす人のためにあると思っています。

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