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面白いけど、買ってはいけない本

『読みたいことを、書けばいい。』を読んだ。

一言でいうと、この本はとても面白いけど、買って読むまでかというとそこまで価値があるかどうかは人それぞれかなと思う本だ。まあ自分自身が友人に勧めるかというと、「面白いけど、買って読む本ではないかな」と付け加えてお勧めするだろうと思う本である。

ここまでで、この本のことを3回も面白いと宣伝した。なので、あとは何を書いても著者から文句が出ることはないだろうと思っている。

この本は人気だ。私はこの本を図書館で借りて読んだ。借りる予約をして約1ヶ月ほど待たされた。私は普通こんなに待つような本は借りない。そこまで待つくらいなら、他にも読むべき本がたくさんあるからだ。なので、これだけ待って読んだので期待するものも大きかった。

今この本を予約待ちしている人数を図書館の予約サイトで見ると100人を超えている。経験上この人数だと今から予約すると順番が回ってくるまでに優に1年は越えるだろう。

こうなってくると自分的には態度が二分して、こんなに待てないから、本屋でチラ見して必要なら買ってしまおうとするか、まあ読みたい本ではあるけれど、買うまでではないから今回は見送ろうのどちらかになり、この本で言えば、間違いなく後者になったであろうと思うと、今こうして手にとってこの本を読んでいることは何か意味があるのだろうと思いたいのである。

で、この本のどの辺が面白いかというと、まず体裁が面白いのだ。著者は大手広告代理店の電通で長年コピーライターとして実績を積んできたらしい。なので、その経験とキャリが存分にこの本に活かされいる。目次や章立てはキャッチーなコピーで彩られている。目次ごとに、太文字ゴシック体の巨大フォントで二十字ほどのコピーが丸々1ページを使って表現されている。

また、コピーライターは平易な言葉を使い、短い表現で効果的に伝えなければならないらしく、この本自体も文字数は少なく、ページの行間はスカスカで非常に読みやすい。なので、著者が伝えたいことが、スラスラと頭に入ってくるので気持ちがいいのだ。

ああ、また褒めてしまった。私がここまで読んだ本をよいしょするのも珍しい。誤解してほしくはないが、決してステマの類ではないので悪しからず。

とはいえ、著者は、本の冒頭でイキナリこの本は買って読んでねと繰り返しメッセージを読者に送っている。これは思うに、本屋でチラッと読むのではなくて買って読んでほしい。図書館などで借りて読むのではなく買って読んでほしいという気持ちが冒頭から溢れ出ている表れであると思うのだが、本の中程では、図書館を大いに利用せよと書いてあるので、その点がしっくりこない。

自分の本は借りずに買って読んでほしいというのは、なんとも虫が良いではないかと思う。しかも、この本の中程では、読み終わってもブックオフなどには売りに出すことはしないでほしいと読者に強要するようにも受け取られる表現があり、この点も読んでいてげんなりする。なので、自分としては、とても面白い本ではあるのだけれど、買ってはいけない本なのかなと思ってしまうのだ。

とはいえ、この本は実用的でもある。著者がコピーライター出身というだけあって、広告のコミュニケーション効果について、非常にわかりやすく適確な表現を用いて解説してくれているので、この部分だけでも、その手の知識のない人にとっては、手にするだけの十分な価値があると思う。

伝えたいメッセージを絞ってどう受け手に伝えるか。伝えたいメッセージを受け手が面白いと思ってくれるためにあらゆる手を使ってメッセージを届けなければならないこと。また、メッセージを伝えるだけではなくて、受け手が受け取ったメッセージを好意的に解釈して送り手の望むような行動を起こしてくれるところまで持って行って初めて、その試みは成功したことになるのだということ。そしてそれは予測できるものではなく、まあ博打に近いということ。そのことを広告を打つという行為及び就活という観点からコラムとして掲載しているので、この部分だけ読んでもお釣りがくるというものである。

まあ至って真面目な本である。読み終わると肩に少し力が入ってしまうかもしれない。それから、これは著者の自己宣伝本でもある。この本を読むと著者に仕事を頼んでみたくなる。これは形を変えたエントリシートなのだ。もちろん、著者はサラリーマンを辞めてフリーになったのだから、どこかの会社にエントリーするわけではない。が、どこからかお仕事のオファーが来ることを待ってもいるわけで、この本は著者にとっての格好の宣材と考えるのが最も適当であると思う。なので、この本はとても面白いが買ってはいけない本なのである。

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