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破壊的イノベーションはビジネスだけでなく、社会そのものを破壊してしまうことにそろそろ気づくべき

『1%の富裕層のお金でみんなが幸せになる方法』

帯書きでビルゲイツ絶賛とあるが、本当かな?と疑ってしまう内容だ。著者のクリス・ヒューズは、Facebook の共同創業者として若くしてビリオネアとなった。

この本の大半は、その彼の成り上がりを自叙伝的に紹介にしているだけで、本のタイトルのような提言とそのソリューションは僅かしか書いてない。いわば彼の自慢本なので、そういうのが鼻につく人は読まないほうがいい。

では、どんな点が参考になるかといえば、まず第一に、今の世の中、金銭的な成功を掴むには運の要素がとても大きいということだ。

彼は確かに成績優秀で努力してハーバード大へ入学したわけだが、FBの株の分け前で500億円近くの金を手にできたのは、たまたまルームメイトがマーク・ザッカーバーグだったからにすぎないといかに運の要素が大きいかを強調して述べている。

彼自身はFBの共同創業者と言っているがザッカーバーグから見たら、そのクレジットは甚だ怪しい。というのも彼は専攻が歴史・文学でITへの興味はなく、したがってFBでの役割はマーケティングや広報、カスタマーサービスだった。

だから、ザッカーバーグが彼に提案した取り分は2%だった。彼自身は10%くらいは取り分としてもらえるものだと思っていたようで、その点に大いに不満を抱いているような書きぶりである。

とはいえ、2%と雖も取り分が金額にして500億円であれば成功者であることに違いはないだろう。彼がザッカーバーグのルームメイトになれたのが幸運であるならば、FBが他のSNSを押しのけて成功する時宜を得たのも運の賜物だろう。

いずれにせよ、才能があろうとなかろうと、努力しようがしまいが、結局のところ世の中運次第という身もふたもない世の中では夢も希望もないなと彼は思ったわけです。

で、一夜にして大金もちになったクリスは、何か変だ、これは社会的に正しいのだろうかと疑問を持つようになったようで、ここから彼の歴史を踏まえた社会的考察が始まるのだ。

つまり、ビジネスで成功するには運の要素が欠かせない。まあこれは仕方のないことだが、成功したのものはとことん富を手にして、それ以外の者たちは努力してもそれに見合った富を得ることができない。

世の中の不平等や格差は拡大する一方でこのままでは社会的分断が大きくなるばかりで、最終的には社会そのものが崩壊してしまうということに気がついたと。

気がついた以上は、それを見過ごすのではなく、社会の崩壊を食い止めるのが、濡れ手に粟で大金を手に入れた自分の使命だと。

そもそも千三つとはいえ、ITベンチャーが究極の富を得る構造は何処から生まれたのか。それは資産家の投資先がなくなり金余りがひどかった1990年代後半に金を産む金の卵としてITベンチャーに湯水のように注ぎ込まれたと。

つまり金持ちが自分たちの富を増やすために金が動いただけで、ITを利用したビジネスやサービスが世の中を変えて社会生活を営む人々に恩恵がもたらされるというのは、そもそも二の次なのだと。

そういう背景が見えてきて、自分の尊敬する親が貧しいながらも尊い仕事をしている。そういう市井の人々の生活が安定する世の中にするために必要なことは何かと考えた時に、保証所得という制度があってその考えを広めたいと考えた。

保証所得とベーシック・インカムとは異なる。UBIは、リバタリアンの弱者切り捨ての道具になるが、保証所得はそうはならないと。そうするためには、上位1%の大金持ちの資産運用益に累進課税をかけてそれを財源とすべしという主張です。

本来ならこの部分をもっと掘り下げて実行可能なプログラムに持っていくためには何が必要なのか。本当にこの施策は効果があるのかという点を書いて欲しかったですね。

途中、『貧困の終焉』のジェフリー・サックス教授のプロジェクトの効果を揶揄する記述がありますが、著者自身はまだ自分の考えを実行に移そうとしている段階ですので、この点もどうなのかなと思いました。

まあとは言え、こういう考えを行動に移す人がいるだけ米国はまだましなのかもしれません。ロケットを飛ばしたり、月に行くのもカッコいいですが、世の中を良くするために働くのはもっとカッコいいのではないでしょうか。これからも彼の活動には注目したいですね。

そういえば、著者が本書の中でマーク・トゥエインの格言があるので紹介しておきます。

歴史は繰り返さないが、韻を踏むことが多い

#書評
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