大学で勉強する時のワザ その10
注:この文章の経緯についてはその0をごらんください。その9の続きです。
前回はプレゼンの作り方の具体例を紹介しました。今回は,「なぜそのようにしたのか」の理由を項目ごとに解説します。
「お題」話す内容です。大体のテーマは与えられると思うので,それに対して自分が話すことを決めます。私が自分のクラスで毎年課していたのは「自分の好きな本を紹介する」というテーマでした。この場合,紹介する本を決める,というのが話す内容を決めることにあたります。この時,「自分の経験をふまえて」というのが一つのコツです。これを含めることで,仮に聴衆の誰もが知っている有名な本の紹介でも,聴衆に新しい視点を提供することができます。発表,というのは,基本知っている人が知らない人に情報を流す作業です。新しいことが何もない発表は,する方も聞く方も楽しくないです。少なくとも話す側には「伝えたい!」と思う気持ちが必要で,伝えたいと思える内容をこのスタートの時点で探すことが大切です。
「材料」1.で決めた「お題」に関連してどんなことを話せるかをなるべくたくさん先に用意しておくと,その後の作業はスムーズにできます。「本の紹介」の時は,時間が十分取れなかったのでその本を読んだ時の自分の記憶やその本自身,出版社の情報などを集めてもらいました。もう一度読み返してみた,という学生も多かったです。研究発表の場合は論文やノートがちゃんと手元に揃っているとよいです。
「聴衆の情報」プレゼンとプレゼン資料を作る時に特に重要なのは聴衆の種類,人数,あと部屋の広さです。知っている人から知らない人に情報を伝えるのですから,「聴衆がみな知っていること」に貴重なプレゼンの発表時間を割くことはできません。難しいのは聴衆が多種多様な時です。この時は,自分がターゲットにする人を決めてしまうのが良いです。他の人には伝わらなくてごめんなさい,でも,私はこの人にこの内容をわかってほしい,と振り切ってしまった方がブレずに良い発表ができます。部屋が狭目で人数が少ない時は,スライドの文字がちょっと小さくてもまあ大丈夫です。部屋の大きさの割にスライド設備が貧弱なところで発表する時は,聴衆にスライドの細かいところは見えない前提で発表を組み立てる必要があります。
「話し始め」話しはじめは必ず聴衆が知っている話題から,というのは,とても大事だと私は思います。聞いていた発表が開始10秒から知らない言葉ばかりで全く理解できなかったときの悲しさは,,,なるべくなら味わいたくないし味わわせたくないものだと思うからです。ただ,誰もが知っていることについてあまり長く時間を割くわけにも行きませんから,聴衆を見極めて,いい感じの話し始めを探すようにしましょう。
「ゴール」プレゼン発表でよくないことの一つは「時間オーバー」です。時間内にどこまでの話ができるかを考えます。
「ストーリー」話の順序は,個人の趣味が出るところなので,伝えやすさ,伝わりやすさを意識すれば,自分のやり方で良いと思います。私は「序論,本論,結論」か「はじめに結論,後から理由」の2択です。マンネリだな,と思うこともありますが,形式にサプライズはいらないと信じています。
「スライド」ここで一番大事なことはスライドの枚数を決めてしまうことです。スライドが多かったら絶対時間が足りなくなるからです。さっとめくって早く喋ればいい,というスタイルの人もいますが,読まないうちにスライドをめくられるのはストレスなので,私はなるべく1枚のスライドで長く喋るように意識しています。1枚1分は私の目安ですが,これは個人差があるところだと思います。発表の場数を踏んで1枚にかかる時間が決まるようになると,発表するのも作るのも楽になると思います。「本の紹介」の課題の時は,PCを使う前に紙に下書きを書いてもらいました。発表5分なのでスライドは最大6ページ,ということでA4の紙を6等分したものにこのページにこれを書く,というのをメモしてもらいます。PCの操作に慣れないうちはこの下書きがあると作業がうんと楽になります。
「話し原稿」人の前に立つと言葉が出なくなるくらいなら,話し原稿を作ってそれを何度も読んで練習した方が良いです。練習した上で,伝えたい,という気持ちがあれば結構しゃべれるものだと思います。練習のポイントは「声に出して読む」ことです。黙読では口が慣れません。英語で発表する時は,発表原稿だけでなく関連する論文を音読しておくと質疑応答の時もなんとか耐えられるようになります。
理由になっているかどうか,ちょっとあやしいところもありますが,こんなところです。プレゼンは,一度苦手意識がついてしまうと大学での活動,就職活動,就業後,いろいろな場面で不利になってしまうと思います。上達のポイントは「伝えたいと思うことを発表すること」「場数を踏むこと」「自分を大きく見せようと思わないこと」の3つだと思います。特に実際に発表をして,ちょっとしくじったりする経験は非常に重要です。大きな責任が発生しない学生の間に失敗も含めて経験を積んでほしいです。また,他人の発表を見ることも多いに勉強になります。そのとき,「いいことを真似よう」より「マズいところを繰り返さないようにしよう」という発想の方がうまくいく気がします。私が前回,今回で紹介したスタイルは,自分の失敗,他人の失敗から導かれたものです。参考になれば嬉しいです。
次回は,特にスライド作成上の注意点を紹介したいと思います。
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