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小説|また遠足に行こうよ

 予定のない日。あなたは思いたちます。遠足に行こう。散歩でもなくランニングでもなく、遠足へ。近所の少し広い公園に行くのです。そうとなったら。あなたはスーパーに寄ります。まっすぐ向かったのはお菓子売り場でした。

 三百円以内。バナナはおやつに入らない。頭のなかでそんなことを考えながら、あなたは今日のお菓子を探します。子どもの頃によく食べた駄菓子を二、三、手にとりました。準備は万端です。あなたは公園へ向かいました。

 遠足では何をしていたんだろう。公園の木陰のベンチに座り、あなたは思い出せないでいます。懐かしいお菓子を食べながら、青空の風で揺れる枝葉の香りに耳をすませました。慌ただしい日々が遠く雲となって溶けてゆく気がします。

 何もせずにお菓子だけ食べ終えて、あなたは帰り道を歩きました。穏やかな時を振り返って惜しみそうになりながら、あなたは楽しい気持ちが消えないよう笑みを浮かべます。せめて家に着くまでは。帰るまでが遠足だから。






ショートショート No.387

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photo by Kosuke Komaki

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