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大阪市の神社と狛犬 ㉒住吉区 ①住吉大社(その3)~岡崎の石匠・杉浦磯治郎の狛犬~

大阪市住吉区の地図と神社




大阪市には、現在24の行政区があります。住吉区は、大阪市の最南部に位置し、大和川を隔てた南は堺市になります。この辺りは、古代には「すみのえ」と呼ばれた海に面した地域で、海上安全の守護神として名高い住吉大社とともに栄えてきました。また、大阪と泉州・紀州を結ぶ紀州街道や熊野街道などの交通の要衝でもありました。

住吉区には由緒ある古い神社がいくつもありますが、まずは摂津国一之宮である住吉大社へお参りするところから始めたいと思います。大阪人にとっては「すみよっさん」と親しまれている神社です。今回は住吉大社の3回目(その3)になります。
住吉大社のすぐ前の道路には、阪堺線の「住吉鳥居前駅」があります。また、この道路を挟んで西側に南海本線「住吉大社駅」があり、交通の便に恵まれています。

住吉大社の狛犬については、すでにこのnoteに「住吉大社の狛犬」シリーズをマガジンにまとめて発表しています。今回は「大阪市の神社と狛犬」シリーズの中の一神社として紹介したいと思います。内容的には重なる部分が多いことをご理解ください。


住吉大社

■所在地 〒558-0045 大阪市住吉区住吉2-9-89
■主祭神 底筒男命そこつつのおのみこと中筒男命なかつつのおのみこと表筒男命うわつつのおのみこと息長足姫命おきながたらしひめのみこと(神功皇后)





住吉大社には10対を超える狛犬が安置されている。上の境内図の正面大鳥居前に赤色の▲で示した場所に、今回の狛犬3がある。


狛犬3

■奉献年 昭和拾貳年四月(1937)
■作者  岡崎市中町 石匠 杉浦磯治郎刻
■材質  花崗岩
■設置  正面大鳥居前


住吉公園の巨大な狛犬の間を通り抜け、阪堺電気軌道・阪堺線の軌道を横断すると、目の前が住吉大社だ。住吉大社の本宮に至る東西の参道は3本あって、それぞれに鳥居と狛犬が設置されている。
中央の参道の右側に「住吉大社」と記された巨大な社号標の石柱があり、背後に大きな松の木が繁っている。住吉の地は古くは海浜の景勝の地で、付近の地名を見ても、「粉浜」「岸里」「津守」のように、海辺であったことが想像できるものがたくさんある。住吉は特に松の名所として有名で、「住の江の松」として、古来多くの歌に詠み継がれてきた。


正面大鳥居前の巨大狛犬

松の木と数基の灯籠の背後に住吉大社の正面大鳥居がある。その前に先ほど見た巨大狛犬を上回る大きな狛犬が鎮座している。石造狛犬本体の像高が約176cm、台座の高さを加えると373cmもあるという。そばに近寄ると、ただただ見上げるばかりの大きさである。これが、嘉永2年に建立された狛犬が公園側に移された後、昭和12年に新たに寄進されて設置された狛犬である。

正面大鳥居と狛犬


正面大鳥居前狛犬(阿形)


正面大鳥居前狛犬(阿形)


正面大鳥居前狛犬(吽形)


正面大鳥居前狛犬(吽形)


正面大鳥居前狛犬台座・石工銘


台座には、「岡崎市中町 石匠 杉浦磯治郎刻」の文字が刻まれている。石匠の杉浦磯治郎は、岡崎の名工酒井孫兵衛の直弟子で、岡崎石工の一人として狛犬の世界でも有名な人物である。「岡崎市」の地名が示すように、この狛犬も愛知県岡崎市で製作されて、この地に運ばれたものだろう。先の公園側の狛犬とは趣を異にし、逞しく張り出した筋肉質の胸と太い脚を持っている。いかにも威厳のある風貌である。これは「岡崎古代型」と呼ばれているタイプで、滋賀県栗東市にある大宝神社の木造の神殿狛犬(獅子)をもとにしたものだと考えられる。


大宝神社木造獅子



台座には次のような寄進者名と寄進日が記されていた。

   大阪市東區住吉町
    髙松德三郎/髙松敬治/髙松恭三 
    昭和拾貳年四月

この「岡崎古代型」の大きく勇ましい狛犬が奉納された昭和12年(1937)4月は、盧溝橋事件によって日中戦争が勃発する3ヶ月前にあたる。狛犬も国威高揚のための役割を担わされるようになり、威厳や威圧感を重視したモデルが好まれたのだろう。そしてこの3年後の昭和15年(1940)は皇紀二千六百年と言われ、神社への狛犬寄進がピークになる。

さて、鳥居を潜れば、赤い太鼓橋はすぐそこだ。





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