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大阪市の神社と狛犬 ⑱生野区 ①彌栄神社~狛犬三種揃い踏み~

大阪市生野区の地図と神社

大阪市には、現在24の行政区があります。生野区は大阪市の東南部に位置し、北は東成区、西は天王寺区、南は阿倍野区・東住吉区・平野区、東は東大阪市と接しています。区名の「生野」は、「生野長者」の伝説にちなんで付けられています。

〈生野長者〉
用明天皇(在位585~587)のころに、生野長者と呼ばれる富豪が住んでいました。富豪には、生まれつき言葉の不自由な息子がいました。そこで聖徳太子に相談すると、太子は子供に向かって「私が前世に預けた仏舎利を返しなさい」と言いました。すると子供は口の中から3つの舎利を吐き出して、普通に話せるようになりました。太子はこの舎利を四天王寺と法隆寺に納め、残りの舎利を長者に渡しました。感激した長者はその舎利をおまつりするために寺を建て、舎利寺と名づけました。現在その地に舎利尊勝寺があります。

舎利尊勝寺 境内に丹波佐吉の役行者像がある


生野区で最初に参拝するのは、彌栄やえ(弥栄)神社です。JR環状線桃谷駅の北東約500mの地に鎮座しています。周囲は住宅街で、参道が東西と南側にあります。「彌栄(弥栄)」の読み方については、「やえ」「やえい」のどちらもあるようです。古くは「いやさか神社」「やさか神社」とも呼ばれたといいます。


彌栄やえ神社

■所在地 〒544-0034 大阪市生野区桃谷2-16-22
■主祭神 素盞嗚尊、仁徳天皇
■由緒  文禄年間(1592~1596)に、旧出雲国意宇おう郡の熊野坐神社から分霊を勧請してお祀りしたとの記録がある。当初は牛頭天王社と称したが、明治5年(1872)に現社名の彌栄神社と改められた。その後、明治43年(1910)に旧岡村の御館みたて神社(祭神・仁徳天皇)が合祀された。御館神社跡は、現在は御旅所になっている。

彌栄神社南参道(正面)
彌栄神社東参道


狛犬1

■奉献年 大正十四年五月(1925) 両陛下銀婚式記念
■作者  石匠 大阪八軒家 川島三平
■材質  花崗岩
■設置  拝殿前

彌栄神社  拝殿と狛犬
拝殿前狛犬 基壇・台座が6段!
拝殿前狛犬(阿形)
拝殿前狛犬(吽形)
拝殿前狛犬  台座銘

大阪八軒家の「石匠  川島三平」の作品である。八軒家は、大阪の天満橋と天神橋の間に古くからあった船着場の名称。川島三平は、大正から昭和にかけて活躍した大阪で名前の残る数少ない石工の一人で、西淀川区の姫島神社、城東区の諏訪神社などにも川島三平の狛犬がある。
耳やたてがみが横に大きくひろがるせいで顔が大きく見え、阿形は開けた口に三角の舌をのぞかせる。巻毛の一房一房が大きく、尻尾はロウソク状に立ち上がる。

拝殿前狛犬(吽形)

台座に「両陛下銀婚式記念」と大きく記されている。大正天皇と貞明皇后の銀婚式は大正14年(1925)5月に行われたが、天皇の体調思わしくなく、翌年崩御するに至った。


狛犬2

■奉献年 文化十三年丙子八月吉日(1816) 
■作者  大坂西横堀 石工 みかげや新三郞
■材質  砂岩
■設置  西参道

みかげや新三郞の浪速狛犬(阿形)
みかげや新三郞の浪速狛犬(吽形)
みかげや新三郞の浪速狛犬(阿形)
みかげや新三郞の浪速狛犬(吽形)

西参道の階段を上がり、境内に入るところにある檻のような柵の中に、一対の砂岩製の浪速狛犬がいる。柵に奉献年の札が掛けられている。

奉献年記載の札

狛犬は剥落や損傷が激しく、いつ崩れても不思議ではない状態である。「大坂西横堀 石工 みかげや新三郞」という石工の名前は、『狛犬の研究ー大阪府の狛犬ー』(奈良文化財同好会)による。
みかげや新三郞(御影屋新三郞・新三良)の名前は、江戸中期から明治に入るまで、狛犬や燈籠などに見ることができる。特定の一人の人物ではなく、代々襲名された名前であるようだ。


狛犬3

■奉献年 昭和七年十月吉日(1932) 昭和御大禮記念御造營
■作者  不明
■材質  花崗岩
■設置  東参道

東参道の構え型狛犬
東参道の構え型狛犬
東参道の構え型狛犬(阿形)
東参道の構え型狛犬(吽形)

東参道の中ほどに、大阪では珍しい構え型狛犬がある。江戸時代の大阪では、このタイプは見られない。頭を低く構えて、たてがみが地面に届く。阿吽ともに垂れ耳で、吽形に角がなく、獅子一対の形をしている。後肢を伸ばして尻を上げ、尾はやや前方に反り上がる。
台座に「昭和御大禮記念御造營」とあることから、昭和天皇の即位の礼や大嘗祭などを記念して奉納されたことがわかる。
拝殿前の狛犬も大正天皇の銀婚式記念の奉納だったが、この時代の天皇家への崇拝が想像できる。


彌栄神社の境内

〈稲荷社 白玉大明神・福徳大明神〉


〈本殿中門前 双龍〉


〈昭和御大禮記念造營寄附芳名表前の虎像〉


〈神馬像〉


〈東参道手水舎〉



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