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泉屋博古館「光陰礼讃─近代日本最初の洋画コレクション」~展覧会#35~

光陰礼讃

谷崎潤一郎に『陰翳礼讃』という有名な著書がありますが、それをもじった名称でしょうか。今回の展覧会のテーマは「光陰礼讃」です。

泉屋博古館は、住友コレクションの中でも特に中国古代青銅器を保存公開するために設立されましたが、近代洋画のコレクションも見逃せません。
近代洋画のコレクションは、住友吉左衞門友純(春翠)が、明治30年(1897)の欧米視察中のパリで印象派の画家モネの油彩画2点を入手した事に始まります。

クロード・モネ《モンソー公園》 1876年
(https://sen-oku.or.jp/program/2023_kouinraisan/)

その一方で、同時代のジャン=ポール・ローランスなどフランス・アカデミーの古典派絵画も収集しました。

ジャン=ポール・ローランス《マルソー将軍の遺体の前のオーストリアの参謀たち》1877年
(https://sen-oku.or.jp/program/2023_kouinraisan/)

光を追い求めた印象派と陰影表現による実在感を追究した古典派を「光陰」と捉えて、近代洋画の展開を紹介しようというのが、今回の展覧会のテーマです。 

《モンソー公園》は、モネの最初期の作品ですが、すで印象派らしい光の取り込みを感じさせます。
ジャン=ポール・ローランスの《マルソー将軍の遺体の前のオーストリアの参謀たち》は、今回の展覧会で一際目立つ大作でした。この作品は、フランス革命で活躍して戦死したマルソー将軍を描いたもので、敵将のカール大公が、葬儀への参列を許すことを条件に、遺体を仏軍に引き渡したというエピソードを描いています。横たわる遺体の足下で頭を垂れる人物がカール大公です。


鹿子木孟郎かのこぎたけしろう

鹿子木孟郎は岡山県出身の洋画家です。パリに留学し、フランス・アカデミーの巨匠ジャン=ポール・ローランスに師事しました。この留学の支援をしたのが、住友吉左衞門友純(春翠)でした。春翠は鹿子木への留学資金を援助するかたわら、西洋絵画の収集を依頼しました。ジャン=ポール・ローランスの大作《マルソー将軍の遺体の前のオーストリアの参謀たち》は、そのような経緯で住友コレクションにもたらされたわけです。

今回の展覧会では、その鹿子木孟郎の作品も2点出品されています。

鹿子木孟郞《ノルマンディーの浜》1907年
(https://sen-oku.or.jp/program/2023_kouinraisan/) 

この《ノルマンディーの浜》は、鹿子木がフランスで古典派絵画を修得した成果といえる作品だと言われています。海は穏やかですが、漁師の家族に笑顔はありません。船は石がごろごろする浜辺に引き上げられ、収獲物も描かれていません。この絵が醸し出す雰囲気には、生きることの厳しさが感じられます。
もう1点は《加茂の競馬》という作品でした。


女性の肖像

今回の展覧会の出品数はわずか35点です。その中に女性の肖像が数点ありました。その中でいちばん気に入ったのは次の作品です。

藤島武二《幸ある朝》1908年
(https://sen-oku.or.jp/program/2023_kouinraisan/) 

藤島武二といえば、この絵とほぼ同時期に描かれた《黒扇》という絵が有名ですね。開いた黒扇を右手に持ち、白いベールを被った青い目の美しい女性が、まっすぐにこちらを見ている絵です。
《幸ある朝》は、窓際で手紙を読んでいる知性的な若い女性を描いています。閉じられた窓の桟の隙間から、明るい朝の陽光が差し込んでいます。手紙の内容は何かうれしいことなんでしょうね。

ほかにもこんな女性像がありました。

岡田三郎助《五葉蔦》1909年
(https://sen-oku.or.jp/program/20220521_kouinraisan/)

黒田清輝の「湖畔」(1897)を思い出します。

渡辺與平《ネルのきもの》1910年
(https://artsticker.app/events/2090)

渡辺與平の妻ふみ子をモデルに描いたものです。憂いをおびた眼差しは、夢二の女性を思い浮かべます。実際、夢二と人気を二分したこともあったようですね。與平は結核のため、22歳の若さで世を去りました。


同時開催「中国青銅器の時代」展

泉屋博古館所蔵の青銅器には、いつ見ても圧倒されます。「中国青銅器の時代」は同時開催の展覧会ですが、ほとんど常設です。青銅器の多種類の祭器に施された複雑な文様や異様な獣形など、ここだけでもじっくりと見る時間がほしいですね。


泉屋博古館の庭

泉屋博古館は東山の麓の閑静な地にあります。美術館の背後の山は、中庭の借景になっています。


南禅寺

ここから1kmほど南に下ると南禅寺です。南禅寺は、京都五山・鎌倉五山の上に置かれる別格扱いの寺院で、日本の全ての禅寺の中で最も高い格式を持つ寺院とされています。

南禅寺山門

南禅寺の境内東側には、琵琶湖疎水の遺構があります。疎水は琵琶湖から京都市内に向けて引かれた水路です。赤煉瓦で造られたアーチ型の水道橋は、写真撮影のスポットになっています。

南禅寺から西に出て、白川沿いに祇園から四条河原町まで歩いて、この日の小旅行は終了です。





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