京都市京セラ美術館 京都市美術館開館90周年記念展「村上隆 もののけ 京都」~展覧会#51~
世界の村上大個展
「日本の現代アーティストで、世界にその名前が知られている人物を3人挙げよ」と言われたら・・・。
1位は間違いなく草間彌生だ。そして2位か3位には村上隆が入るだろう。アメリカを始めヨーロッパでも個展を開催し、高い評価を受けている村上の作品は、世界各地の美術館のコレクションとなっている。海外での知名度も高い。
村上隆は、東京藝大で日本画を学んだが、京都は伝統的な日本画の発祥の地である。その京都を舞台にして、今回の展覧会が開かれている。美術館のある岡崎は東山の麓にあり、その南には死者の埋葬地鳥辺野があった。
京都は昔も今も文化の中心地であると同時に、長らく政争の都市でもあった。怨霊や物の怪が跳梁し、日が暮れれば百鬼夜行を恐れる。
そんな華やかさと妖しさが、今回の展覧会にある。
驚きの開幕人気
京都市京セラ美術館「村上隆 もののけ 京都」展は、2024年2月3日に開幕した。会期は9月1日までというから、半年以上の長丁場だ。私が行ったのは、開幕4日目の6日(火)だった。〈こんなに長い期間開催している展覧会だし、いくら開幕直後でも平日ならすんなり入れるだろう〉と、楽観して美術館に到着すると、なんと大勢の人が並んでいる。それでも、〈なんか別の人気のある展覧会でもしているのかな〉と思って近づくと、「村上隆 もののけ 京都 待ち時間90分」のプラカードを持った人が、列の最後尾にいる。急いで整理券をもらって、列に並ぶ。時刻は午前11時。〈こんなことなら、もっと早く家を出てくればよかった〉と悔やんでも、後の祭りだ。
30分ほど並んで、やっと美術館の中に入る。しかし展示会場の東山キューブまで、まだ列は続く。
結局、トータル1時間ほど並んで、やっと入場できた。90分待ちを覚悟していたので、まあ、よしとするしかない。
上の写真の中央ホールに、高さ4mを超える阿吽一対の鬼の像がある。なかなかのド迫力だ。東山キューブの展示会場を回ったあと、再びこちらに戻ってきて撮影した。
入場時に、村上隆の「COLLECTIBLE TRADING CARD」が先着5万人に配布される。私が訪れた日の午後には入場者が5万人に達し、カードの配布が打ち切られたという。開幕4日目に5万人とは、驚きのハイペースだ。
あとで知ったことだが、このカード目当てで初日から並んだ人もけっこういたとか。
1 もののけ洛中洛外図
第一室に入る。入場制限をしているおかげで、会場の中は混雑していない。床は色鮮やかな光琳の流水紋様。壁面の全長13mに及ぶ巨大な「洛中洛外図」が目に飛び込んでくる。これは、17世紀に岩佐又兵衛が描いた「舟木本 洛中洛外図屏風」をもとにして作成したものだ。屏風の画像をスキャンしたものをAIで線画化し、それを再度村上が描き直したという。金箔の雲の中には無数のドクロが隠れている。
細部まで描きこまれているので、じっくり見ているとここだけでも時間がかかる。ところどころに村上のキャラクターが混じり込んでいる。
反対側の壁面には、尾形光琳風の花が描かれた円形の画面。
第1室の入口には、こんな金色の河童もあった。
遮光カーテンを潜って、次の部屋に移動する。
2 四神と六角螺旋堂
京都の町は「四神相応の地」と言われる。平安京を建設する際にも、東の鴨川、西の山陰道、南の巨椋池、北の船岡山や北山を、それぞれ青龍・白虎・朱雀・玄武に対応させたらしい。
第2室は八角形のまっ暗な部屋で、東西南北にあたる壁面に巨大な四神が飾られていた。すべての展示室の中で、もっとも圧倒される部屋である。
部屋の中央には、京都の災厄を知らせる鐘楼として機能していたとされる六角堂を題材とした《六角螺旋堂》がそびえている。そこにも金色のドクロがはりついている。
まっ暗な部屋の四方に浮かび上がる四神は迫力満点だ。目を凝らして見ると、壁や床がドクロで覆われていることに気づく。死ともののけに囲まれて、京都の町がある。
3 DOB往還記
第3室では、前室とはまったく違う村上隆ワールドが展開する。
まず、「DOB」とは何か?
オタクっぽいキャラクターが苦手なので、この名前はまったく知らなかった。DOBは村上隆の自画像的アイコンらしい。そういえば、入口でもらった「COLLECTIBLE TRADING CARD」もDOB君だった。
「DOB」という名前の由来は、漫画『いなかっぺ大将』の「どぼじて、どぼじて……」と、由利徹のギャグ「おしゃまんべ」を組み合わせた「どぼじてどぼじておしゃまんべ」というフレーズを英字表記にし、その頭文字3文字をとったものだとか。
DOBが誕生したのは1993年で、村上が論文「意味の無意味の意味」で博士号を取得した年だった。DOBは「意味の無意味の意味」を象徴するキャラクターだといえる。
この展示室では、多種多様のDOBとその仲間のキャラクターと出会うことができる。ある意味、現代の「もののけ」たちかもしれない。
4 風神雷神ワンダーランド
この部屋も面白かった。まず目を引くのが、俵屋宗達の「風神雷神図屏風」の村上版だ。金箔プラチナ箔の下地に、風神と雷神がコミカルに表現されている。
たくさんの花々・・・
そして、この部屋のもう一つの圧巻が、全長18メートルに及ぶ「雲龍赤変図」だ。曾我蕭白の「雲龍図」に触発されて作成されたという。
なかなか人が途切れない。
やっと人が途切れた瞬間を見計らって・・・。
5 もののけ遊戯潭
この部屋には、村上隆の最新のトレンドがまとめて展示されている。NFT(非代替性トークン)やトレーディングカードなどを絵画として起こしたものが並んでいる。
6 五山くんと古都歳時記
いよいよ最後の部屋。五山の送り火をキャラクター化した円形の風景画が展示されている。
村上隆は、「十三代目市川團十郎襲名披露興行」のために「祝幕」を描いた。「祝幕」のサイズは高さ8・7m、幅25・2mもある。ここには、市川家の「家の芸」である「歌舞伎十八番」の演目すべてがデザインされている。その原画の「2020 ⼗三代⽬市川團⼗郎⽩猿 襲名⼗⼋番」が、金箔の壁に展示されていた。
出口までやって来て、もう一度はじめに戻って一周する。村上隆というと、ついオタクっぽいキャラクターや奇抜な服装などを思い浮かべてしまい、今回の展示についても、実はそれほど期待していなかったのだが、闇の中に浮かぶ「四神図」や長大な「雲龍赤変図」など、見どころはたくさんあった。特に、伝統的な日本の美術を巧みに現代アートに昇華させる作品群は、宗達や光琳へのオマージュと言える。村上独自のアート世界を堪能できる展覧会だった。
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