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ペンと瘡蓋、あるいは私自身のこと

登らなくともいい山を登っている
見ず知らずの声が丘をくだり、背骨を砕く
その痛みがただ、
傀儡の足を突き動かしている
指先は爛れ、垢に塗れて、
誰もが物言えぬ海月になっている
登らなくてもいい山は、
誰かが作ったものだった
よく見ればただのハリボテであった
誰もが無知なままでいて、
誰もが緩やかに忘却し、
残るのはただ、
目の前の粗雑な険しさのみである
私は彼らの背中に宿る、
兎の皮を被されたハイエナを眺めながら、
傷口にペンを突き立てた
偏屈な砂利道も、かつては白い砂浜であった
色褪せた石ころ、あるいは折れたクレヨンが
少女にとって真珠であるのと同じように
血液は生命であり、言葉は命の滓である
内なる声が登るべき山を作るのだろう
だからこそ、阻むのはいつだって、
自分でなければならなかった
愛でいなければならなかった
私は物言えるニンゲンである
だからこそただ、愛でいたかった
愛でいたかったから、ひたすら、
何度も拳を振り下ろし、
傷口にペンを刺すのである
登るべき山を登るために

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