黄昏の橋を渡れない男_13

渓谷の険しい斜面から、ついにアキラを安全な場所へと引き上げることができた。
そのまま彼は待機していた救急車へと急いで運ばれた。 車内では、すでに緊急医療の準備が整っていた。
困難な救助作業が行われている間に、ドクターヘリが駆けつけていたのだ。
しかし、日没が迫る中で安全な着陸点を見つけることができず、医師が直接ヘリから降りて現場に駆けつけていた。
救急車が動き出すと同時に、アキラの治療が開始された。 専門的な器具を用いて、彼の衣服はすばやく切り離されていった。
体中を駆け巡る激しい痛みに、アキラは身をよじる。 その痛みのあまり、彼は自らの意志とは無関係に糞尿を失禁してしまう。
彼はその羞恥を感じる余裕すらない。 唯一の思いは「なんで?」という疑問の繰り返しだけだった。
医師は処置を続けながら、静かにアキラに話しかける。
「この渓谷から落ちて、生きて帰れた人はほとんどいないんだ。奇跡としか言いようがない。君は非常に運が良かった。」
しかし、アキラにはその言葉が希望として響くことはなかった。 彼の心はまだ深い絶望と混乱の中にあった。
サイレンの音と救急車の揺れが、彼をどこか遠くへ運んでいく感覚を与える一方で、アキラの心は希望を見出すことができずにいた。
彼が感じていたのは、なぜ生き延びなければならないのか、その答えを見つけることのできない深い迷いと、生の意味を問う苦悩だけだった。

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