黄昏の橋を渡れない男_21

数日後、アキラの退院の日が訪れる。
しかし、彼の去り際は祝福されたものではなく、まるで逃亡者のように静かで、急ぎ足だった。
死にきれなかった人間にとっては、周りの目も気になるところだ。 彼の隣には、言葉を選ぶことすらおぼつかない妻が運転する車が待っていた。
助手席に座るアキラに対して、妻は無言を保ち、その沈黙は二人の間に重くのしかかる。
車窓から見える景色は、季節の変わり目を告げるかのように移り変わっていくが、アキラの心情には何の慰めにもならない。
かえって、彼の内面に深く刻まれた苦悩と、生きることへの葛藤をより一層際立たせる。
道行く人々の日常の光景が、彼にとっては遠い世界の出来事のように感じられる。
そして、家への帰還。 生きては戻れないはずの場所へ、生きて帰ってくるという皮肉。
玄関を入る瞬間、アキラは自分の存在がこの世界にとってどれほど異質なのかを痛感する。
この家はかつての温もりを失い、ただの居場所と化してしまった。
生きる意味を見失った男が、生きるために戻ってきたという矛盾。
アキラの心はこの矛盾を受け入れることができず、彼の魂はさらなる苦悩へと追いやられるのだった。

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