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Track22 登山と音楽

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 午前3時。私はいそいそと、こっそりと準備を始めた。
ザック、携帯トイレ、レインウエア、着替えの靴下。
そう、2024年初登山に挑戦しようと言うのだ。しかもソロ登山は2年ぶり。
いつもの日課である、床掃除とトイレ掃除を済ませ、夜逃げするように自宅を後にする。

 5時になるともう日が出てくる。あぁ、夏だなぁなんて思いながらこの時期にぴったりのamazarashiの夏を待っていましたをかける。
やはりCDとAUX端子からBluetoothを通した再生での音質の違いは顕著だ。特にボリュームが違うのである。CDならば17のボリュームでしっかりと音が聴こえるのに対してAUX端子経由での音源再生は27ほどボリュームを上げないとまるで聴けたもんじゃない。

 自宅を出た時の天気は雨。こういう時の音楽はamazarashiが似合う。
私のルーツとなる千分の一夜物語 スターライトをそっとCDの差し込み口に入れる。
既存曲のアコースティックバージョンを収めたCDだ。
私が初めて購入したamazarashiのCDでもある。1曲目の光、再考。原曲とは違いゆったりとしたピアノのイントロから優しい秋田さんの声が聞こえる。
この1日の始まりのような、少し陰鬱とした出だしが私は好きだ。
加速するようにムカデ、空っぽの空に潰されるとマイナー調のチューンが流れる。
私はアルバム曲は1〜3曲目がすごく重要だと思う。それ以降の曲にどんなにいい曲があろうとほぼ買わない。所謂、出だしの曲でアルバムの好き嫌いが全て決まるのである。

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 周りに田畑が広がる農道を走り、道幅も狭くなったところで登山道入り口に着く。
駐車場には車はなし。どうやら私が一番乗りだ。それはそうか。小雨降るなか登山口駐車場に7時に到着する登山者なんてめったにいないか。

2024年1座目は能登最高峰の山、宝達山。

 この時点で天気は曇り、雨は小雨。山には少しのガスがかかっている。
台風前後に山に登るのはこれで3度目だ。1度目は富士山に登るための練習で福井県の取立山に登った時。2度目は北日本を旅した途中に寄った福島県の磐梯山に登った時だ。
磐梯山に至ってはどうやって山頂まで行ったのかあまり記憶にない。
とにかくあの時は寒くて、風が強かった。なかなか来れないのだからと意地で山頂まで行った。

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  登り初めは、雨が降っていたものの、予報通り昼前には太陽が差し込む。
道はぬかるんでいたが、最近登山道も整備されたらしく歩きやすかった。
地図を確認すると往復で7.8kmほどである。
なるほど、初心者にはちょうどいい距離だ。
 ちなみに私がはじめて登った山は日本百名山の0番である富士写ヶ岳だ。これは取引先の方におすすめされて、シューズだのザックだのを借りて登った。今にして思えば初登山で富士写ヶ岳は少々過酷だったと思う。
次に登ったのは日本3大霊山の白山だ。しかも日帰りで。これも登山初心者にとってはかなり珍しい方かもしれない。
 小さい頃からサッカー、野球、冬はスノーボードをしていたこともあり体を動かすことが小さい頃から基本になっているんだろう。
筋肉痛なんて当たり前。怪我も当たり前。
なんと言っても私は幼稚園から小学校を卒業するまでに左腕を3回折っているのだ。

雨の滴が残る登山道。きれいに整備されている。

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 私は山に登る時は音楽をかけて登るようにしている。
登りはじめのスマホのプレイリストはamazarashiの世界収束二一一六。2016年にリリースされたアルバムだ。
これも私にとってはamazarashiの集大成を集めたようなアルバムだ。
1曲目のタクシードライバーで緩急のあるポエトリリーディングとサビの疾走感。そのままなだれ込む2曲目の多数決。
amazarashiの中ではかなり攻撃的な曲だ。

【賛成か 反対か 是非を問う 挙手を願う】
※多数決歌詞一部より抜粋。

これを初めて聴いた時はすごいと思った。
韻を踏みながら、対比のある表現力。それでいて強いメッセージ性を感じる歌詞。
この曲からの1stシングル季節は次々死んでいくが流れる。
私がはじめてamazarashiを知るきっかけになった曲だ。
この3曲で最早、私は先に述べた通り、ぐっと引き寄せられるようにこのアルバムが気に入ったのである。

熊注意の看板。登山者にとってはお馴染み?

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 所々で見かける熊注意の看板。最近では東京の郊外にも熊が出没するらしい。私は特に珍しいとも思わない。その理由はコロナ前に住んでいたところでも熊が出ていたからだ。
そして昔、尊敬する先輩にこう言われたことがある。

「自然と遊ぶ時は本気で遊べ」

私は登山前日に持ち物を確認するときに必ずこの言葉を思い出す。
自然は待ってはくれない。人間の力では思うようにならないことが前提なのだ。そう、死と隣合わせなのだ。わかりやすく言えば

自然を舐めてはいけない。

ましてや私はソロ登山者だ。何が起こっても誰も助けてはくれない。 
だからこそ、どんな低山に登る時も細心の注意を払う。
しかし、熊に対する対策は鈴とスマホの音楽だけだ。これに関しては私は熊に出会ったら別に食われてもいいと思っている。少なくともそういう覚悟で山に登る。
そういうふうに開き直っていると意外に熊に出会わなかったりする。
いや、ただ運がいいだけだろう。

鉄塔の真下を歩くはじめての体験。シン・エヴァっぽい構図。

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 ここでいよいよ世界収束二一一六が終わってしまった。
幸い今年初の登山にもかかわらず身体的に負担は全然ない。
汗をかかないようにレインウエアを着たり、暑いと感じたときには脱いだりを繰り返す。喉が乾く前に水を飲み膝が少しでも痛み出せば休憩を取る。息が上がらないようにゆっくりと。
低体温症を避け足への負担を減らすためだ。動けなくなっては元も子もない。ソロ登山者だからここでも細心の注意を払う。
さて、次は何の音楽を流そうか。太い木に寄りかかり休憩をとりながら考える。

山頂1km前でガスが出てきた。何とも幻想的な風景に。

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 次にセレクトしたアルバムはL'Arc-en-Cielのインディース時代のアルバムDUNEだ。
最近、リマスター盤が出たが、私が持っているのは敢えての初期のものだ。
リリースは1993年。31年前の音楽なのに少しも色褪せない。
このアルバムはどの曲も素晴らしい曲ばかりなのだが、ガスが立ち込める宝達山の幻想的なシチュエーションにピッタリの曲があった。

 まさに私にはこの風景が眼下に広がっていたのである。
ラルクで一番好きな曲のAs if in a dreamだ。
夜明けを連想させる、kenの付点8分ディレイのイントロ。(※付点8分ディレイは私の好物。)
ガスの立ち込めるMVが宝達山とリンクする。
そうか、音楽は何かとリンクするんだ。ということに山を登りながら気がつく。
それは恋人と聴いた思い出なのかもしれないし、あの子に振られて泣いたときに流れていた曲なのかもしれない。

音楽に導かれるように頂上へ

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 片道3.9km。やはり平地とは違いハードだった。
広がる景色は雲で絶景とはいかなかったが、ここまで登ったことに意味がある。
ちょうど、山頂に滞在中に晴れてくる。やはり晴れた。
こうなると私のプレイリストもあっという間に変わるのである。
ここで選んだのはビートルズのThe Beatles1。
晴れた日にビートルズを聴きたくなるのは何故だろう。私はビートルズに詳しくはないが、イギリスも雨が多い国だから鬱屈とした気持ちを歌詞にしてそれに対比するように明るい曲を作曲したのかもしれない。
私のお気に入りはA Hard Day's Nightだ。

5年ほど前、バンドで散々ギターを弾いた曲でもある。こうやって聴くと、とっても素敵な曲なことに気がつく。
タイトル通りハードな夜の曲なのに晴れた昼間に聴きたいのは何故だろうか。  

今年リニューアルされた山の竜宮城。
駐車場も整備されている。

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 ここでプレイリストは一時停止。
山の静けさを楽しむことにする。そして、だいぶ早いが昼食を取ることにする。
ここで私の登山歴で初めての試みが・・・

初のカップラーメン持参。お湯はお気に入りのタンブラーに入れて。

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 そう、初めてカップラーメンを持参したのだ。
お湯はタンブラーに入れて。どおりでザックが重いなぁと違和感があったのだが、これだった。
3分間待ってやろう。
 その間に1台のS15が上がってきた。スペックSか?スペックRか?以前自分が乗っていた車ということもあり、気になって仕方がない。
何より、ノーマルな見た目なのに所々に手が入っているのがすごく素敵だ。
ベッタベタなシャコタンでもなく、ドノーマルでもない。ホイールやマフラーといった部分が変わっている。目に見えて大事にしているのが分かる仕上がりだ。
オーナーと思われるNikonを持った方に声をかけてみる。
「スペックSですか?スペックRですか?」聞けばスペックSということで話に花が咲く。私はカップラーメンを食べるのも忘れ話し込んでしまった。
伸び切ったカップラーメンだったが、やはり格別に美味かった。

日本海と能登宝達志水町。
青と緑のコントラストが美しい。その間にある街並みがあるからこそのコントラストだと思う。

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 下りは音楽は流さない。一眼レフもザックに仕舞い込む。
そうダウンヒーラーと言えば聞こえはいいが、私はせっかちなので下山は早く済ませたい太刀なのだ。
早歩きもしくは軽いランでテンポ良く山を下っていく。途中で2〜3人ほどの登山者さんにも出会う。
もちろん、挨拶もするし、登り優先なので道も譲る。
ひらりひらりと下る時にふと感じた、心地の良い風。
そうだ、次に曲を書く時は風の曲を書こう。風を感じれる曲。心地よい風を音で表現しよう。
山にいるとこういうアイディアが浮かんだりするのである。

ほぼ、音楽のお話になってしまったが、私の登山ライフはこんな感じである。

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