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「品出しは科学だ」 早朝のスーパーで8年間働いた話

こんにちは、のもちゃんです。
ご覧いただきありがとうございます。

2022年12月から天狼院書店のライディング・ゼミを受講中です。
第五回の課題に書いた文章が天狼院書店のサイトに投稿されたので、
ご覧いただけると嬉しいです。


子ども二人出産して下の子が幼稚園に入園する年に、専業主婦9年歴から卒業して車で5分のスーパーの早朝パートで働くことにした。


家の近くの大手スーパーのエレベーターに乗った時に、貼ってあった求人チラシを見て 「あ、ここに応募しよう」 と決めた。

生活費と教育費をまかなうために働いたほうがいいかな……と思いつつも、それまで積極的に仕事を探していなかった。

なのでチラシを見たときは運命の出会い的な気持ちがあった。

『早朝パー十 5時から9時 商品の品出し・陳列  時給○○円 早朝手当○○円』

品出しはしたことはないが、商品を決められた場所に補充する仕事だから簡単だろうし、朝ならば夫が出勤するまで家にいる。

夏休みなどの休みの時も9時半前には仕事から帰ってこられるから、日中は子どもたちと過ごせる。 
そして日中働くより早朝のほうが時給が高い。 

子育て中の私にとっては仕事の内容より、勤務時間や給料が家族との生活に支障なく条件が合うほうが大事だった。

自分の働きがお金に換算されることも久しぶりのことで、新しい変化にちょっと楽しみを感じていた。



初出勤の日、早朝4時前に起きて家族の朝食の準備や身だしなみを簡単に整えて職場に向かった。

スーパーの品出しは裏方仕事なので、働いてみるまで分かっていなかったがけっこうハードな仕事だったことに圧倒された。

リーダーから品出しをするにあたって言われたのは 「普段の5倍のスピードで動くこと」 だった。 

勤め始めたばかりで何もわかっていなかったからそういうものかと思っていたけど、一ヶ月過ぎる頃には毎日4時間休憩なしで超高速ロボットじゃあるまいし! と心の中で叫んでいた。

リーダーは自分にも他人にも厳しく仕事ができる人だったけど、私が入社してから半年ほどで体を壊し辞めてしまった。 
やはり何事もほどほどが大事かな……と思う。

出勤してまずやることは、朝から搬入された大量の商品が入った段ボールを陳列場所ごとに仕分けを行い、それから商品の補充を行う。

段ボールの仕分けだけでもカートに何台も積んでいくので、けっこうな作業量だ。 数人がかりで何十分とかけてカートに仕分けた商品を陳列場所まで運び、在庫分と合わせて商品補充を行っていく。

例えば納豆の場合、スーパーの規模にもよると思うが、納豆の種類だけでも20種類近くある。

その納豆全種類の補充を行うのに何分かかるか……大体一人で30~40分くらいを目安に作業している。 
セールの時だったらもう少し時間がかかる。 
段ボールの箱をカッターで商品を傷つけないようにシャッと開封して無駄のない動きでサッサッと取り出し補充していく。 

最初の頃は要領がつかめずモタモタしてしまいスピードがあがらなかった。
中には時間内に商品補充ができなくて泣く人もいた。 
決して動きが遅いわけではないのだけれど、手順を考えて効率よく動かないと小さな無駄が積み重なって膨大な時間のロスとなり作業が終わらないのだ。

どこのスーパーでもそうだと思うが、納豆の陳列の場所はそこまで広くない。 
もしお客さんとして納豆の補充の作業時間を聞かれたら、うーん、チャチャっと簡単に10~20分くらいかなぁ、と答えたと思う。

しかし実際の作業時間は意外にも多い。 
ちなみに漬物の補充作業時間は1時間かかった。 
毎日漬物の補充にみっちり1時間……自分の家も毎日テキパキと1時間でも家事したら、そうとう綺麗になるのではと思ったがなぜだか家ではしないものだ。

あと品出しは作業する人によって陳列の美しさが変わってくる。

一目見てキラッと光り輝くような完璧な陳列棚に仕上げる人もいる。

ちなみに私は 「陳列の仕方が汚い」 とよく怒られていた……。

特売日にパンをワゴンに平たく高く積むように言われて並べていった。

不安定な袋のパンをピラミッド状に高く積むことは意外と難しい。

几帳面な先輩はパッパッと綺麗に積み上げていく。

私も同じように積んでいくのだがピラミッドの頂上近くになると、パンが安定せず雪崩を起こし始めるのだ。

これは何度やってもうまくいかなかった。 
そのうちパン担当から外された……。

人にはがんばってもできないことがあるのだと崩れたパンの山を見て学んだ。



ある時、哲学的な課長から「品出しは科学だ」と言われたことがある。
品出しと科学がうまく結びつかず 『カガク』 に当てはまる漢字をしばらく悩んだ。

「品出しは科学」 の言葉を聞いて、以前読んだ 『新幹線 お掃除の天使たち』 という本のことを思い出した。 

掃除スタッフがやりがいを持って働いている様子の内容だったが、たかが掃除ではないと教えてもらった本だった。 
実際、時間内に次に乗車するお客様が気持ちよく過ごせるように清掃を終わらせることが大変で、辞める人も多いとのことだった。

スーパーの品出しも同じだった。

開店時間までにお客様がスムーズにお買い物ができるように、チームで協力し合い計画的に機敏に商品を補充して綺麗に陳列をしなければならない。

品出しと聞くとそんなたいした仕事ではないと考えていたが、働いてみるとそうではないことが分かった。 

簡単な作業だけど、ベテランは明らかに作業効率が良く、そして綺麗な仕事をする。 
常に最善を求めて作業効率を高めようと意識していた。



今はもうこのスーパーは退職したけれど、買い物に行ったときに商品の陳列棚を見ると、かつて商品を並べていた頃を思い出してしまう。

並べられた商品に従業員の姿が重なり、それぞれの仕事ぶりや考え、そして誇りやプライド、苦労などあることを思い出す。 

どの仕事でも向こう側には 「人」 がいる。 

納豆を手に取りながら、8年間勤めたプライドがそう感じさせる。

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