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ぼくのなつやすみ

8月15日、今日はとても暑い。
ぼくと友達は、電車に乗っておでかけをした。かばんの中には、写ルンですとフィルム、タオルとポカリスエット。

ぼくが住んでいる場所には海がない。だから時々、むしょうに海が見たくてたまらなくなる。

でもやっぱり、山でいっぱいのここが好きなんだ。

電車に乗ってついた街は、とても暑かった。セミが人間の声より大きく鳴いていて、思わず耳を塞ぎたくなった。しゅわしゅわしゅわ、と音を立てていた霧は、ぼくに届く前に空気に溶けてしまった。

建物のそばに少しだけ、じっとりと濃い影ができていて、ぼくと友達はていねいにその影をつたって歩いていった。

「暑い」「溶けそう」「あああああ(日なたに出たときの声)」を順番にくり返しながら歩いた。毎年わかっていることなのに、夏がこんなに暑いことにびっくりしてしまう。

優しいマスターが出してくれたフルーツサンデーは、果物とアイスクリームがいっぱいに乗っていて、めいっぱいきらきらしていた。きっとぼくの顔も、いっぱいにきらきらしていた。

友達のフルーツパフェは、ぼくのサンデーよりちょっとだけ背が高いいれものに入っていた。きらきらの果物も緑のソースも冷たいアイスクリームも全部同じで、不思議だねって笑った。

たくさん歩いたぼくたちは、もう一度電車に乗った。今度は行きとは反対側の、違う景色が見える席に座った。
がたんがたんと規則的に揺られて、いつの間にかうとうとしていた。帰りの電車の方がずっと短くて、気づいたら元の町に帰ってきていた。

雲ひとつないと思っていた空には、ぽこぽこと羊のような雲が浮かんでいた。

そしてみんなのお楽しみ、花火の時間になった。両手に抱えるくらいの花火を買って、頑固にくっついているセロハンテープをぶうぶう言いながらはがして、川原でバケツに水をくんできた。

ひらひらした花火の先に、ドキドキしながら炎を近づけた。しゅぼっと音を立てて花火が弾けて、さあさあと眩しい火花の雨が降った。時々、ぼくが思いもしなかったタイミングで火がつくやつもいて、みんなでおっかなびっくりしながら笑った。

ぱちぱちと賑やかな花火を見ていると、なんだか魔法使いになったような気持ちだった。

まるで四次元ポケットみたいに次々といろんな道具が飛び出してきて、いつの間にかウインナーが焼けていた。熱くて少し涙目になりながら食べたウインナーは、とびきり美味しかった。来年はキャンプに行きたいな。

最後はみんなでひたすらに線香花火をした。
さぁこれから、という時にぽとんっと落ちてしまったり、もう終わりかな、と思ったらぱちぱちと綺麗な火花が咲いたり、難しい。

昼はあんなに暑かったのに、夜の河原はとてもおだやかだった。さらさらと水の流れる音がして、涼しい風が吹いていた。この日は月がなかったから星もたくさん見えて、はくちょう座やカシオペア座をみんなで探した。

ふと気づけば、セミの声は随分と小さくなっていた。耳をすますと鈴虫の鳴く声も聞こえてきて、だんだんと夏が終わっていくと思った。

夏が終わって秋になって冬になって、また新しい夏がくる。それでも、今日が楽しかったことと暑かったことを、ぼくはずっと覚えている。

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