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第五世界の兆し[創作]2

2  出会い

 彼女Rちゃんとの出会いは、小学生の時だったように思う。はっきり認識したのは同じクラスになった中学一年生の時だ。家が近所ということもあって、半ば強引に登下校を一緒にして貰った。強引という捉え方は私の問題だが、彼女には元々小学生から仲の良い同じマンションに住む親友がいたのだ。その二人に割り込むように行動を共にして貰った。どうやって割り込んだのか、交ぜて欲しいと直接頼んだような気がするが覚えていない。学校時代は、いつも仲間外れにされないようビクビクしていたように思う。とても窮屈で小さな集団が全てだった。
 Rちゃんは、小柄で目がクリっとしたテンションが高い明るい子だった。喋るとケタケタ笑ってくれて明るい気持ちにさせてくれた。両親が共に音楽家な為に、小さな頃から音楽の英才教育を受けていて2つあるマンションの1室は、母親のピアノ教室用の部屋で、丸ごと防音壁になっていた。
 中学一年生の時にRちゃん家のグランドピアノでショパンの幻想即興曲を弾いてくれた時は、圧倒されて言葉が出なかった。毎日、ピアノの練習を長時間していたようだったが、勉強も出来て県内で女性では一番の公立高校に進学した。
 彼女は、華やかさと繊細で脆い部分を持った不思議な魅力の女性だった。中学生の時から心療内科に通っていたようだったが、高校の時には、躁鬱病を患っていた。統合失調症だと後で本人から教えて貰った。私は高校が彼女とは違うため、少し疎遠になっていたが、何より自分の事で頭がぐちゃぐちゃになっていたから、他人を気遣う余裕などなかった。高校卒業後、しばらくして暴行事件や自殺未遂など彼女の不穏な噂が耳に入ってきた。
 
 いつからだろう、彼女の妄想世界に足を踏み入れたのは。その深淵を覗いてみたくなったのは。そのせいで、私自身の闇と対峙せざるおえなくなってしまった。彼女のせいで、自分の惨たらしい醜さをまざまざと見せられる羽目になった。
 
 この出会いが、幸か不幸かを今はハッキリと言える。第四世界の人間には最悪な不幸となり、第五世界の人間には最高の幸せ福音となったのだ。

 

 

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