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相続と墓じまい。お墓と遺骨は誰のもの?その費用は?

 このノートをざっくりいうと…
 祖父と祖母の墓じまいを提案してきたおじ(長男)が、父(次男)に対して墓じまい費用の一部を負担するよう求めてきたことからトラブルが発生。このトラブルについて法的観点から考えてみました。

 ここで触れるのは

 1:お墓、遺骨は誰のものか?
 2:祭祀を承継した人は他の相続人に対して祭祀の費用の一部を支払うよう請求できる法的根拠を有するか?
 ということだけを考察し、3:トラブル防止の方法を書いたあとで、4:結論としてまとめてあります。
 このnoteでは「墓じまいの妥当な金額」や「墓じまいに必要な法的な手続き等」については一切触れませんのでご了承下さい。

 このnoteは7000文字近い分量です。
 長いテキストを読む前にお急ぎの方に結論だけ書きます。
 1については祭祀を承継した人に帰属する(遺骨の所有権や墓地の所有権、使用権など)。
 2については法的根拠はないので請求できない。
 です。
 何故このような結論になったか、それを防ぐためには?については以下のテキストをお読み下さい。


1:お墓と遺骨は誰のものか?

 「お墓」はとても身近なものでありながら、誰かが死ぬまでその権利義務については余り考えることはないでしょう。
 お墓について考える場合「お墓の土地」と「お墓そのもの」を分けて考える必要があります。
 まず、お墓そのものについてですが、これはお墓を建てた人が自らの費用で建てたものでしょうから、お墓を建てた人が所有権を有していると考えられ、これは相続の対象となります。
 次にお墓の土地ですが、これは自ら所有する土地にお墓を建てている例もあると思いますが多くの場合は霊園やお寺にある墓地の一角を借りてお墓を建てることが多いでしょう。土地の権利を有している場合はもちろん相続の対象になりますが、借りている場合はどうでしょうか?お墓を建てる権利を法的に分類すると賃貸借に近い権利だと考えられます。
 ですので、賃借権に適用される法が適用されると考えられます。賃借権は相続されますので、お墓の土地を借りている権利も相続の対象となります。
 したがって、お墓そのもの、またお墓を建てる債権は相続の対象となります。


 次に、「では誰が相続するか」です。
 相続といえば親族が…というイメージですが、民法はお墓について相続財産とは別に扱っています(897条1項)。そのため、お墓の権利は相続一般について定めた規定を当てはめるのではなく、897条の「祭祀承継権者」が有することになります。
 祭祀を承継する者が誰であるのか?ということですが、民法は以下の順で祭祀を承継するものを決定すると書いてあります。
 1:被相続人(亡くなった人)の指定がある場合はその人(親族でなくても構いません)。
 2:指定がない場合は慣習に従う。
 3:慣習もない場合は家庭裁判所が定める。
 このように、お墓を誰が受け継ぐかは本人の希望が優先され、その次に慣習となります。慣習が高順位に置かれている理由は「お墓が宗教や地域の風俗と密接に関係しており、法で定めるのが適当でない」と考えられるからではないでしょうか?
 それが理由禍わかりませんが、法律上相続人間に「祭祀を承継する者」について慣習と異なる同意がある場合について記載ありません。なぜでしょうか?
 実は、この相続人間の同意についてはちょっと考えてみても問題となる場合があることがわかります。
 例えば、被相続人がキリスト教で相続人全員が仏教である場合を考えてみましょう。
 被相続人がキリスト教式のお墓で、キリスト教式の埋葬方法および祭祀を望んでいる遺言または明白な意思がある場合に、相続人全員が同意したからと言って相続人の同意がある人間が祭祀を承継し仏教形式の埋葬方法が許されるかという問題です。
 この問題を考えると民法が「慣習を2番めにした」ことが「よく出来た条文だ」とわかります。
 この場合には相続人に祭祀承継者の指定はなくとも祭祀についての指定はあるわけで、1の規定からキリスト教徒の誰かを指定したと考える。または2によりキリスト教の慣習により決定すれば良いと思われます。
 相続人間の同意はこれらの問題がない場合に慣習に準じて処理すれば良いのではないでしょうか?(これで決まらなければ3の家庭裁判所ですね)
 民法は長らく改正されず問題点が多いと言われてきましたが、実によく考えられた法律だというのがこの点からもわかります。

 さて最後に残った遺骨はどうでしょうか?実は遺骨が一番の問題となります。というのも、民法がわざわざ祭祀と墳墓について規定しているにもかかわらず、「遺骨については規定が存在しない」からです。

 
 これについてはいくつかの考え方がありますが、ここでは単純に書いていきます。
 民法学者の潮見先生は「897条の墳墓と一体的に扱うのが相当なものは、同条によって処理される。また、埋葬前の遺体・遺骨や埋葬後時間のたってない遺体・遺骨の所有権は897条の準用により、慣習上の祭祀主宰者に帰属する」(入門民法(全) 潮見佳男 有斐閣 484頁)と述べていて、遺体・遺骨の所有者は「祭祀の承継者」としています。
 また、判例(最判平成元年7月18日)も「遺骨は、慣習に従って祭祀を主宰すべき者に帰属する」としているようですから、遺骨は「祭祀の承継者が所有権を有する」と考えて良いでしょう。

 そもそも「お墓」と「遺骨」は一体となっているのが最も自然です。なぜなら、通常お墓には遺骨が納められているという社会常識があるといえるからです。お墓とは遺骨を納める場所である。という社会常識がある以上お墓と同一に考えるのが妥当でしょう。
 そして、民法がお墓について相続財産ではない別の構成をしている以上、遺骨のあり方もお墓の規定に従うべきだと考えるのは妥当だと思われます。
 この考え方はお墓を持たず、遺骨のみ自宅においているという場合であっても妥当すると考えます。

 以上により、お墓の権利、遺骨の所有権は祭祀を承継した者に帰属するです。

  誰が祭祀供養をつかさどるのかは先に述べた通りです。

2:祭祀を承継した人は他の相続人に対して祭祀の費用の一部を請求できる法的根拠を有するか?

 さて、遺骨は祭祀承継者が承継するということで良いという事、その理由を見ていきました。
 では、今回の私に生じた事件である、親のお墓を墓じまいのためにお墓をなくして、遺骨をお寺に預けて供養してもらう(または散骨する等)。といったような「祭祀に関係する行為」をする場合に「そのために要した費用の一部を他の相続人に対して請求できるかどうか?」という問題はどうでしょうか?
 つまり「お墓の撤去費用とお寺に預ける場合に支払うお金」のような『祭祀を行う費用の一部を他の相続人に求める請求権』があるかないか?という問題です。
 道義的には「そりゃ、親の話なんだから子が分担するべきだ」という話になるかもしれないですが、ここではあくまで法的な論点で書いていきます。

 結論からいえばできないと思われます。理由は以下のとおりです。

 民法が祭祀承継をするために祭具や墳墓を相続財産と分けた趣旨は、「わが国の慣習として一般に行きわたっていた祭祀を承継するという仕来りは一朝にしてなくなるはずがない。そこで、その祭祀のための系譜・祭具および墳墓の所有権については、これを一般の相続財産からはずして、別に祭祀を主宰すべき者がこれを承継することとした」(民法3 第2版 我妻栄他 272頁 勁草書房 )というものです。つまり「人間の精神的な部分と深く関連し、また慣習によって決定されてきたものを簡単に法で変えるよりも相続財産とは別にした方が無駄な混乱がないだろう」というこということでしょう。
 今回の問題の本質は「祭祀を承継した者が、その祭祀を継続するための費用の一部を分担金として他の相続人に対して請求できるか否か」でした。
 これについて、民法が「祭祀を相続財産から別にした」のだからそのために必要な費用も当然「慣習に従う」のではないか?例えば祭祀の承継は長男に、その費用は親族で分担。という慣習がある場合には当然親族に対しても請求できる。というように考えることも出来そうに思えますが、これは妥当であるとは思えません。
 なぜなら、慣習が法に優先することは法に規定がないなど特別な場合のみだからです。民法897条の趣旨は先に書いたとおり、祭祀承継の規定は「無駄な混乱を防ぐため」に定めた特別の規定であって、そのために発生する費用についてまで規定していません。この費用についてまで慣習にしたがってしまうと混乱が深まるのは明らかですから、祭祀を行うための費用は民法897条の適用は無いと考えられ、その他の「民法の規定に従う」と考えるべきです。
 そして、民法の原則は契約なきところ債権は発生せずですから特別な契約が存在しない限りは「費用の支払いを請求できない」となるべきでしょう。
 つまり、祭祀を承継した以上自己の財産(祭祀の承継として分担された相続財産も含む)でやりくりするべきであって、「相続人が任意で支払いを分担する」ことは当然認められるとしても、「なんらの合意もなく費用の一部の支払いを法的に祭祀を承継した人間が他の相続人に対して法的に強制はできない」と言えます。
 以上により、祭祀の承継者はそのための費用の一部について契約もなく他の相続人に対して支払いを強制できないとなるでしょう。


3:トラブル防止の方法

 この問題の大きなポイントは我が家の場合のように相続発生後かなりの時間がたってからトラブルになる可能性がある。ということです。
 相続開始時には想定していなかった親族間のトラブルというのは巻き込まれた側には「今更!」という考えが起きるでしょうから、解決が困難になる場合が多いでしょう。
 また、問題が「祭祀」という道徳の根幹にふれる部分で、民法でさえ「これ触ったらまずいんじゃぁ…」と避けて通るほどの大問題です。一度発生してしまえば簡単に解決できる問題ではありません。
 では、このような大トラブルの芽を未然に防ぐ手立てというのはあるのでしょうか?

 そのために大事なのはやはり事前に手を打つことです。
 事前とはつまり「相続発生時に相続の内容として相続人間で話し合う」ということです。
 このときに、祭祀を承継する人間または、祭祀を承継すると決定されることが明らかな人間(遺言による指定、または別の方法により指定されることが明らかな者)は、遺産分割の際に予め自己の立場を主張して、この段階でしっかりと話し合っておくことが重要でしょう。
 例えば「祭祀の承継にあたって特別の財産を相続することはしないが、法要等、祭祀を行うのに必要な費用が発生すれば相続人で費用を分担してほしい」というような主張をこの段階で行い、そのことを相続の書面に一緒に残しておくとよいでしょう。
 このように残された書面は祭祀にかかる費用を分担させる「債権」として有効ですから、後日費用が発生した場合に、支払った費用を証明しその費用の一部を請求できるでしょう。
 もちろん、全額を自分が支払うのでそのような合意など必要はない!と思うかもしれません。ですが、人間は何が起こるかわかりません。この問題は20年後、いや50年後に発生するかもしれないのです。
 相続発生時には「自分で全部やるから任せとけ!」だったかもしれませんが、年金生活になりお墓の維持も困難になってきたときに助けを求めたくなることもあるかもしれません。ですので、必要はないと思っていても何かしらの合意を入れておくことが大切だと思います。
 きっちりとした契約書のように法的拘束力が発生する堅苦しい一文を書く必要はありません。記載された内容に法的拘束力などなくってもいいのです。大事なのは「相続開始時の相続人全員の気持ち」をしっかりと残しておくことです。人の感情は移ろいやすいものです。また忘れやすいものです。相続開始時にどう思っていたかをしっかり記録として残す。
 契約でなくとも「そのときの気持ち」だけでも残しておけば後のトラブルを減らす役割をするでしょう。

 次に事前に防ぐ手立てをとれなかった場合に問題が発生した場合にはどうすれば良いのかです。
 例えば祭祀に関わる費用について特別な合意もなく、慣習により長男が祭祀を承継して行っていたが、長い年月が経過し長男が費用を賄えなくなったとして兄弟姉妹に費用の負担を求めてきた場合にどのような解決方法があるのでしょうか?つまり、私の父に降り掛かった問題です。
 この場合祭祀を承継した人は他の相続人または親族に「お願いする」という形を取らざるえないでしょう。先に書いたとおり「法的に請求することはできない」と考えられる以上「お願い」に頼るしかありません。
 問題はお願いの方法です。トラブルを減らすために法的に云々が言えない場合「感情」に訴える以外に方法はありません。
 このときのお願いについては「費用の支払いの一部を求める理由を明らかにした上で負担をお願いする」ことは最低限やるべきことです。同時に今までかかった費用を示して「ここまでやってきたが私も力尽きた」ということは感情に訴える有効な手段だと思います。
 決して弱みを見せたくないからと「今までやってきた」「親のことに金を出すのは子供として当然だから負担しろ」など上から目線でお願いはするべきではありません。例え一時的に解決したとしてもより大きなしこりを残すことになることは明白です。
 このお願いのときに「相続時に祭祀の承継において祭祀に関わる費用として特別の相続した者」については、相続時に得た費用は祭祀費用としてすべてを使い果たしたことを証明した(説明ではなく、出費が明白にわかる書類等を示した)上で、上記のお願いをすることが必要です(そのための費用として相続したものがあるのだから、まずそれから支払うのが当然だからです)。

 

4:結論

 以上により、今回の問題の結論は
 1:お墓の権利と遺骨所有権は民法の規定に従い、祭祀を承継した人がもつ。
 2:お墓と遺骨を祀るために発生した費用は相続人間で別段の合意がない限り祭祀を承継した人が負担すると考えるのが妥当で他の相続人に請求できない。
 となります。
 そして、このようなトラブルを未然に防ぐ方法は「相続開始時にしっかりと話し合っておく」。というものでした。
 相続時に話し合いを怠り、それから数十年経過して費用トラブルになった場合にはお金を払ってもらいたい側は話し合いによる解決以外に手段はありませんが、お金を払いたくない側は話し合いもしたくないでしょう。
 話し合いもしたくないと思っている人間を話し合いのテーブルにつかせることはとても困難です。
 しかし、このときに相続開始時に話し合ったことがちゃんと形になって残っていれば、それを元にお互いが話し合えるかもしれません。
 相続の話し合いというのは、相続人同士が相続する権利義務について、また被相続人の人柄、それに関わったお互いの間柄等、感情を交えて話し合える絶好の機会なのです。
 しっかりといろいろなことを話し合い、法的に有効かどうかを気にせずお互いの相続時の思いをしっかりと形に残しておくことが良いと思います。

 もっとも、相続の話し合いと言っても人生にそう何度もあることでないので混乱する人は多いでしょう。
 そこで、法律に詳しい第三者に「何を話し合えば良いのか」一度は聞くことをおすすめします。
 もちろんSNSや知恵袋で質問するのも気楽で良いかもしれませんが、やはり自分が調べた法律の専門家に直接聞いてみるのが一番信頼度が高い回答とが得られると思います。
 相続の話し合いのときに何を話し合えば良いのか?といったような具体的相続分に踏み込まない相談であれば無料法律相談でも十分に対応可能ですので一度は専門家の話を聞いて何を話し合うべきかをリスト化してから話し合いをすれば後のトラブルをかなり減らせるでしょう。
 その際にリストにないことを話し合ったのであっても、ちゃんと形にして残しておけば良いのです。法律文書の形式にこだわらず、相続開始時の思いを記録する。思いを記録しておけば、例え法律が及ばない部分でトラブルが起きたとしても、その思いが解決の指針となる可能性がありますから、おすすめです。
 「相続とは財産だけを継承するのではありません」。決して財産だけの話し合いで終わらせることのないようにしましょう。
 相続で継ぐのは、亡くなった人の人生のようなもので、財産とはその目に見える一部でしか無いことをお忘れなく。

 以上。

 謝辞
  読みづらい書き方、内容で7000文字近いnoteを読んで頂きありがとうございました。心より感謝します。
 このnoteが読んでくれた人の役に少しでも立てたら幸いです。
 本当にありがとうございました。

この度は最後までお読みいただきありがとうございました。