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『アラバスターの手』刊行記念・Twitter限定プレゼントキャンペーンのお知らせ……または「城を買った出版社の話」

今回はプレゼント企画のお知らせ+αです。

このたび国書刊行会では、A・N・L・マンビー『アラバスターの手 マンビー古書怪談集』(羽田詩津子訳/紀田順一郎解説)の刊行を記念して、Twitter限定プレゼントキャンペーンを開催します。

今回のプレゼントは、原書の装幀を再現した特製ブックカバーです!
1949年刊のドブソン社版 "The Alabaster Hand and Other Ghost Stories" の貴重な原書を、本書解説の紀田順一郎さんからお借りして、原書の雰囲気に限りなく近い形になるよう、丹念に制作したものです。

カバー1

かばー2

【使用用紙:ブンペル ソイル  四六判Y目〈95kg〉/4色刷】

邦訳版『アラバスターの手』への掛け替えが可能になるよう、デザインを細かく調整しております。

この特製ブックカバーを、今回はなんと、抽選で100名様に差し上げます!
ご応募いただければ、おそらく高い確率で当選されるのではないかと思います。本キャンペーンでしか手に入らない貴重なものですので、ぜひお気軽に、奮ってご応募下さい。

【応 募 要 項】

Twitterにて、お手持ちの『アラバスターの手』の写真をご感想や気に入った作品等の任意の内容を添えて、ハッシュタグ「#アラバスターの手」をつけてツイートしてください。

[応募〆切]2020年10月19日(月)
当選人数:100名様

応募ツイートはお1人様1回、こちらから当選の連絡後1週間以内にご返信がない場合は当選が無効となりますのでご了承ください。
当選者にはTwitterのDMにて当選のご連絡とプレゼント発送に関するご案内をいたしますので、応募の際は弊社Twitterのフォローも併せてよろしくお願いいたします。
 Follow @KokushoKankokai
 
弊社ウェブサイトにもご案内ページがございますので、そちらも参照いただければと存じます。

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さて。ここからがいよいよ気になる本題……。
いえ、プレゼントキャンペーンの告知が目的ですので、完全に余談余滴の類ではあるのですが、表題に附した「城を買った出版社の話」について、お話ししたいと思います。

といっても、これは国書刊行会がついに怪奇幻想ゴシックな古城を購い辺疆の地に新たに根を下ろした、という話ではありません。

これは紀田順一郎さんから先日メールで伺った衝撃的なエピソードなのですが、『アラバスターの手』の原書を刊行した出版社であるドブソン社が、なんと、その活動末期にはイングランド中部にある中世の古城を拠点にしていたというのです。

パンを焼く出版社、料理人がいる出版社、ハーブを育てる出版社などが少し前に話題になりましたが、城を買ってオフィスにしたという出版社は、日本はおろか、世界でも類がないのではないでしょうか。

時折、社屋に秘密の地下迷宮があるなどとも噂される弊社が言うのもアレですが、完全に狂気の沙汰です。

そもそもこのドブソン社(Dennis Dobson Ltd.)は、1944年にデニス・ドブソン(Dennis Dobson,1919-1978)という奇特な人物によってロンドンで設立された、音楽書やフィクションを中心にしたイギリスの中小出版社です。その活動は「注目に値する、先駆的なもの」「非常に文学的だが幾分か奇異な出版社」と評されるなど、ユニークなものとして知られ、第二次大戦直後から70年代後半にかけて特異な隆盛をきわめていました。

音楽書では、カール・ニールセンフランシス・プランクなどの著書を刊行。フィクションでは、ロバート・ベンチリースパイク・ミリガンのユーモア作品、マーガレット・マーヒーの児童書、子供向けの絵本、そしてSFにも強く、アイザック・アシモフジョン・W・キャンベルジョン・クリストファーエリック・フランク・ラッセルフレデリック・ポールジャック・ヴァンスの作品(あの『宇宙探偵マグナス・リドルフ』の別版も!)なども出しています。

デニス自身は印刷にも関心があったようで、1968年にフランスの学生運動家のために作った色味と精細さにこだわった特注印刷を施したアンティークの政治ポスターが昨年その城の地下室から発見され、BBCでも貴重な発見としてニュース報道されました。

『アラバスターの手』の原書装幀は、美しい濃緑と墨の2色によって刷られており、当時の怪奇幻想小説の装幀の中でも力作と言える出来映えのもので、創業5年目で事業が軌道に乗り始めていたドブソン社の、本作りへのこだわりから生まれたことが大いに想像されます。

げんちょ

『アラバスターの手』原書(紀田順一郎氏所蔵)

そのように数々の本を世に送り出してきたドブソン社ですが、1978年、社主デニスがフランクフルトブックフェアに参加した帰路、脳溢血によって59歳の若さで急死したことを契機に斜陽を迎えます。後を引き継いだのは、はじめは秘書としてデニスのもとで働き、のちに妻となったマーガレット・ドブソン(Margaret Dobson,1928-2014)でした。

ちょうどその頃ドブソン社では、ノッティンヒルゲートに借りていた倉庫のリース期限が満了となり、大量の本の在庫置き場を確保するよう迫られていました。

そんな折、セールスディレクターがマーガレットに、冗談めかしてこう言ったのです。

「ダラム市の近郊に、中世のブランセプス城が売りに出されていましたよ」

ブランセプス城(Bransepeth Castle)は、イングランド中部のダラムに12世紀半ば頃に成立した、地主や貴族、財産家たちが代わる代わる居を構えてきた歴史ある城で、おおよそ現在の形になったのは、石炭によって栄えた産業革命期後の時期のことでした。
イングランド最古級の史跡でもあったことから、日本で言う登録文化財制度に近いイギリス指定建造物(Listed Building)にもなっています。
また、第二次大戦期には陸軍によって病院として、その後はガラス会社の研究所として利用されていた時期もあります。

しろしろ

19世紀後半に描かれたブランセプス城

マーガレットがこの古城を内見した時、屋根材は先の貸借人によって剥がされ、がらんとした城内は寒々しく、荒れた状態でした。
ですがマーガレットは、折よく資金の工面ができたこともあり、本当にこの城を買ってしまいます。

マジですか……

後年のインタビューで、マーガレットは「歴史的な城を保存する」「家族と暮らす」「本の在庫を置く」という目的について語っていますが、やはり、小さくも美しいダラムの街にあるこの古城の佇まいそのものに、心惹かれたのではないでしょうか。
詳らかなところは定かではありませんが、もしかしたら、古城を買ってそれを拠点とするというのが、個性的な出版活動を行ってきた創業者デニス・ドブソンのそもそもの願いであったかもしれません。

かくしてマーガレットは、ドブソン社の移転計画を進め、オフィス、家具、録音のコレクション、そして25万冊もの大量の本を抱えて、社主である夫の死という出来事に見舞われながらも、7人の子供たちを連れて引っ越しを敢行し、ブランセプス城の女城主と相成ったのでした。

ブランセプス城の地下室、古い台所、城の隅々のスペースにみっちりと詰め込まれたドブソン社の膨大な本の在庫は、徐々に捌けていったものの、肝心の出版活動の方は移転後に数冊の本を出したきりで振るわず、最終的にドブソン社は出版事業から撤退することとなります。
それでも、この中世の古城を出版社のオフィスとして定め、ここから何冊かの本が実際に世に送り出されていたということは、驚嘆に値します。

一方でマーガレットは、城を活用した新しい事業を思い付きます。
それは城をリノベーションして、イベントスペースとして活用するという画期的なものでした。
マーガレットは時間とお金をかけて城に防水工事を施し、所々にあった損傷を修繕していき、城はその美しさを取り戻していきます。
そして、シェイクスピア演劇の上演、地元大学の学生への貸出から始まり、やがて広大な敷地にゴルフクラブとカフェを併設、今やイギリス国内でも有数のものとして知られるクラフト・フェアや、苗木販売などの各種イベント、さらに結婚式なども開かれるようになり、ブランセプス城はさまざまな催し物に大いに活用される場として、一躍生まれ変わったのでした。

マーガレットは城に住まいながら、家族・友人知人・地元の人々に囲まれて日々を過ごし、数々のイベントを主催し、時に近隣の教会の修繕事業に手を貸すなどの慈善的活動にも奔走し、2014年にその生涯を終えます。

そして現在も、城はDobson家の持ち物兼住居であり、観光やさまざまなイベントの場として活用され、多くの人々から愛される場所となっています。

【公式サイト】Brancepeth Castle
なお上記の公式サイトから問い合わせれば、マンビーの作品にも登場しそうな素晴らしい調度品と建築と歴史を持つ古城で、素敵な結婚式を開催することできます。

今の城

🄫Oliver Dixon CC-BY-SA 2.0(https://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.0/)

数多くの古城が残されたイギリスならではのロマンと粋狂さに溢れた、「城を買った出版社」にまつわる、ちょっぴり心温まる顛末の逸話でした。

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最後に改めて本の宣伝です。

古書・古物を題材とした全14編の短編怪談を収めたA・N・L・マンビーによる異色の古書怪談集『アラバスターの手』(羽田詩津子訳/紀田順一郎解説)が好評発売中です。
お近くの書店さんに在庫が無い場合は、店員さんに書名・出版社名を伝えて、ご注文下さい。

【こんな方におすすめ】
・怪談・ホラーが好き
・古書が好き
・アンティークや古建築が好き
・M・R・ジェイムズが好き

M・R・ジェイムズの衣鉢を継いだ作家による、英国正調怪談の流れの中にある本ですが、それぞれの作品が適度な長さである、怪異の謎と正体がハッキリしている、古書古物への愛に溢れている、といった特徴から、いつもご愛読いただいている読者様はもちろん、英国怪談ビギナーのお方にも、比較的お気軽にお手に取っていただける一冊です。
羽田詩津子さんによる訳文は大変読みやすく仕上がっており、さらには紀田順一郎さんによる詳細な解説もついているという点でも、一入の安心・安定感があります。

本書をご購入いただきましたら、ぜひ「城を買った出版社」であるドブソン社版の装幀を再現した特製ブックカバー入手にチャレンジして下さい。

どうぞよろしくお願いいたします。

あらば

『アラバスターの手 マンビー古書怪談集』
A・N・L・マンビー/羽田詩津子 訳/紀田順一郎 解説
定価:本体2,700円+税

少年を誘う不気味な古書店主、呪われた聖書台の因果、年代物の時禱書に隠された秘密、ジョン・ディーの魔術書の怪......ケンブリッジ大学図書館フェロー、英国書誌学会長を務めた作家マンビーによる、全14篇の比類なき書物愛に満ちた異色の古書怪談集!

                     文=国書刊行会編集部(昂)


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