【新刊『蓑虫放浪』】漂泊×旅×放浪――蓑虫山人(1836年-1900年)から広がる読書【ブックリスト】

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予もいづれの年よりか、片雲の風にさそはれて、漂泊の思ひやまず、海浜にさすらへ、去年の秋江上の破屋に蜘の古巣をはらひて、やゝ年も暮、春立る霞の空に白川の関こえんと、そゞろ神の物につきて心をくるはせ、道祖神のまねきにあひて、取もの手につかず。
(松尾芭蕉『奥の細道』序文より)
「かへらないことが
最善だよ 。」
(金子光晴「ニッパ椰子の唄」より)

今回刊行した望月昭秀(文)・田附勝(写真)『蓑虫放浪』の担当編集Iと申します。

「蓑虫山人って誰?」という方が大半かと思います。知らないですよね普通。でも、そのような方にこそぜひ手にとっていただきたい本です。

詳しくは本書にゆずりますが、1836年に美濃国(いまの岐阜県)に誕生。美濃(みの)の国に生まれたことと、生活用具一式に折りたたみ自在の簡易式住宅を背負って旅をした姿を蓑虫になぞらえ「蓑虫山人」と名乗ったといいます。
幕末から明治にかけて北は青森から南は鹿児島まで放浪し、遺跡を掘ったり、絵を描いたり、暗殺者(?)と意気投合したりと、当時の日本にこれほど自由で破天荒な人物が生きていたのかと驚くこと請け合いです。嘘か本当か鹿児島で入水した西郷隆盛を助けたり、青森であの有名な遮光器土偶を見つけたのではという逸話もあります。あと絵が可愛いです。

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蓑虫山人の作庭した庭(本書72頁)

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蓑虫山人の自画像(本書171頁)

本書はそんな破天荒な人生を歩んだ蓑虫山人の魅力を、フリーペーパー『縄文ZINE』の編集長として新しい角度から縄文の楽しみを伝え『縄文人に相談だ』国書刊行会角川文庫)、『縄文力で生き残れ』(創元社)などの著作を持つ望月昭秀さんと、『東北』(リトルモア)で第37回木村伊兵衛写真賞を受賞し、社会の中でともすれば見過ごされてしまうものをテーマに撮影を続ける田附勝さんが余すところなく伝える内容となっております。あとミニ観光案内も付いてます(以下、その一部を御紹介)。

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さて、一生を旅に生きた蓑虫山人ですが、今回の刊行に際し本書をより楽しんでいただくための本を選んでみました。補助線といいますか。旅や放浪についての本です。あと縄文関係も少しと、蓑虫山人の「味」のある絵が日本画上のどのような系譜に位置づけられるのか考えてみるのも楽しいかと思い絵画の本も入れてみました(もしも書店さんでフェアなどしてくれたらとても嬉しいです!)。

たとえば勝小吉『夢酔独言』。いわずと知れた江戸無血開城の立役者であるところの勝海舟の父親にして稀代の不良おやじ。偶然にも蓑虫山人と同じ14歳で江戸を飛び出し上方に放浪した生き方は蓑虫に通じるものがあるように思います。世代としては蓑虫山人の少し上になりますが(勝は1802年-1850年、蓑虫山人は1836年-1900年)、幕末の不良少年の放浪の様子が生き生きと語られています。
当時としては破格の口語体で書かれており今の目からしても驚くほど読みやすいのですが、この文体に抵抗があるむきには、ここには入れていませんが坂口安吾(そういえば彼も放浪者でしたね)の「勝夢酔」から入るのも一法かもしれません。エリック・ホッファーがもしも『夢酔独言』を読んでいたらどんな感想を持ったのかな、など埒もないことを思ってしまい……と、このように一冊ずつ紹介していきたいところなのですが、それをしているととんでもない分量になりそうなので割愛。

それにしても人はなぜわざわざ「移動」をするのでしょう。蓑虫山人は14歳で故郷を離れ、死ぬ間際まで放浪を続けます。どうして「ここ」にいられないのか。一所不在。古代から現代まである種の人々を魅了してやまない「ここではないどこか」への渇望。「かへらないことが最善だよ」と記したのは金子光晴ですが、まさに「そゞろ神の物につきて心をくるはせ、道祖神のまねきにあひて」ということなのでしょうか。

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漂泊する蓑虫山人の自画像(本書198頁)

以下にあげた本はどれを読んでも本書に描かれている蓑虫山人の生き方に重なってくるように思います。新刊では手に入らない本もありますが、どれも「旅」や「放浪」を語るものとして掛け値なくべらぼうに面白いです!

このような時期だからこそ、願わくは皆様が良い旅に出会われますことを。

■宮本常一『忘れられた日本人』(岩波文庫)
■宮本常一『辺境を歩いた人々』(河出文庫)
■宮本常一『庶民の発見』(講談社学術文庫)
■若山牧水『新編 みなかみ紀行』(岩波文庫)
■尾崎放哉『尾崎放哉随筆集』(講談社文芸文庫)
■種田山頭火『山頭火随筆集』(講談社文芸文庫)
■菅江真澄『菅江真澄遊覧記』全5巻(平凡社ライブラリー)
■勝小吉『夢酔独言』(講談社学術文庫)
■金子光晴『流浪』、『異端』、『反骨』(大庭萱朗編、金子光晴エッセイ・コレクション全3巻)(ちくま文庫)
■辻潤『絶望の書・ですペら』(講談社文芸文庫)
■山本夏彦『無想庵物語』(文春文庫)
■南方熊楠『動と不動のコスモロジー』(中沢新一編、南方熊楠コレクション第4巻)(河出文庫)
■平田オリザ『十六歳のオリザの冒険をしるす本』(講談社文庫)
■石倉敏明(文)・田附勝(写真)『野生めぐり 列島神話の源流に触れる12の旅』(淡交社)
■沖浦和光『旅芸人のいた風景』(文春新書)
■筒井功 『日本の「アジール」を訪ねて』(河出書房新社)
■赤坂憲雄『漂泊の精神史』(小学館ライブラリー)
■赤坂憲雄編『漂泊する眼差し』(新曜社)
■金子兜太『漂泊の俳人たち』(NHKライブラリー)
■白洲正子『西行』(新潮文庫)
■杉山二郎『遊民の系譜』(河出文庫)
■柄谷行人『遊動論 柳田国男と山人』(文春新書)
■網野善彦『増補 無縁・公界・楽』(平凡社ライブラリー)』
■永井義男『剣術修行の旅日記 佐賀藩・葉隠武士の「諸国廻歴日録」を読む』(朝日選書)
■神山典士『不敗の格闘王 前田光世伝 グレイシー一族に柔術を教えた男』(祥伝社黄金文庫)
■中江克己『江戸の遊歩術 近郊ウォーキングから長期トラベルまで』(知恵の森文庫)
■板坂耀子『江戸の旅を読む』(ぺりかん社)
■石川英輔 『泉光院江戸旅日記 山伏が見た江戸期庶民のくらし』(ちくま学芸文庫)
■池内紀『ひとり旅は楽し』(中公新書)
■湯川豊『本のなかの旅』(中公文庫)
■種村季弘編『放浪旅読本』(光文社)
■種村季弘『東海道書遊五十三次』(朝日新聞社)
■安彦良和『王道の狗』全4巻(中公文庫)
■風間一輝『男たちは北へ』(早川文庫)
■エリック・J・リード『旅の思想史 ギルガメシュ叙事詩から世界観光旅行へ』(叢書・ウニベルシタス)
■エリック・ホッファー『エリック・ホッファー自伝 構想された真実』(作品社)
■ジャック・ケルアック『オン・ザ・ロード』(河出文庫)
■イザベラ・バード『日本奥地紀行』(平凡社ライブラリー)
■ブルース・チャトウィン『パタゴニア』(河出文庫)
■坂口恭平『モバイルハウス 三万円で家をつくる』(集英社新書)
■山下清『日本ぶらりぶらり』(ちくま文庫)
■熊谷守一『へたも絵のうち』(平凡社ライブラリー)
■府中市美術館『へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで』(講談社)
■森浩一編『考古学の先覚者たち』(中公文庫)
■「スペクテイター 45号」(幻冬舎)

蓑 虫 放 浪
望月昭秀(「縄文ZINE」編集長)著
田附勝・写真
A5判変形並製 口絵16頁+本文266頁(カラー頁多数)
定価:本体2,600円+税

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東都西北、様々な意味において辺疆に位置する特殊版元です。新刊・近刊について編集・営業担当者が綴ります。