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LEVEL 2 「何を残し 何を削るか」

情報伝達の基本です。
「必要な情報は何 ?」
「そして、その必要な情報を引き立たせるために
 積極的に削った方がよい不要な情報は何?」

臨床実習において、カルテ記載やプレゼンテーション指導で最も苦労するところです。指導する立場としても、どのように伝えたら良いかの指針が無かったり、学習者もつかみどころの無いところだと思います。

不要な情報を削って、よりコンパクトかつシンプルな記述・発表を目指すとなると、極めて高度な要求にせざるを得ないので、まずは「必要な情報を漏らさずに伝える」ということを目標としましょう。この段階をクリアできそうになった時点で、やっと「不要な情報を削る」という次のステップを踏めると思うのです。

必要な情報というのは、LEVEL1でも述べたように、「プレゼンテーションの型」を考えることになります。型通りに情報を埋めていけば、必要な情報の大半をカバーできることでしょう。

○病歴
病歴のうち重要な項目は「患者背景」「現在の症状・状態」です。ここを外すとプレゼンテーションとしても成立しません。元々どのような生活をしていて、基礎疾患は何で、今どのような症状で困っているのか? という情報を網羅することが原則です。

例えば、頻度の高い「○○痛」だった場合には有名な「痛みのOPQRST」で、痛みの量・質をより具体的に評価することも必要なステップとなります。また、現時点のみの記述ではなく、現在の症状に至るまでの経過も時系列に沿って語られることも大切です。

噛み砕いて言うと
・今困っていることを詳細に言語化する
・元々の生活と現在の症状とを時系列で繋ぐような記述にする

ということになります。

「新興感染症流行下の基礎疾患の無い若年男性が発熱・呼吸苦で…」
「寝たきり嚥下機能低下の高齢者が誤嚥後に発熱・呼吸苦で…」
極端な話、同じ「発熱・呼吸苦」でも、背景や経緯をうまく伝えられたら、疾患や病態を想起しやすくなるのです。


○理学所見・検査所見
O情報(客観的情報)は、何の項目を採用し、何の項目を省いて良いかを迷うことになります。明確な正解は無く、施設やチームの文化によっては個別性が生じやすいところではあるので、ここでは一般原則を述べるに留めます。その原則というのは、「routine項目」「追加項目」を区別するということです。

採血を例に取ると、「血算」+「chem7」がroutineとして有名です。

血算では、
・赤血球数 ・ヘモグロビン濃度(or ヘマトクリット)
・白血球数
・血小板数

chem7では、
・尿素窒素 ・クレアチニン ・Na ・K ・Cl
・血糖 
・HCO3-(要血液ガス分析)

というように、これらの項目が多くの場合、省略されることが比較的少ないのは、非常に重要かつ有用な情報を含んでいるからだと言えます。

例えば、肝機能にフォーカスを当てたければ、AST・ALT・LD・γGT・ALP・T-Bil・T-P・Alb等が追加されるでしょうし、手術が必要な患者では、血液型や凝固系も加わることになるでしょう。炎症性の疾患を扱う場合には、感染症であれば、白血球分画が気になりますし、CRPも病勢を評価するのに有用です。Focus検索では、胆道系のパラメータが熱源を示唆してくれることもあるでしょう。非感染症であれば、膠原病やその類縁疾患では赤沈が有用になります。

このように、routine項目がまずベースにあって、診断推論に基づいて追加で行う検査項目が付加的な情報となります。Student Doctor目線で重要なことは、「この診療チームにとっての検査routine項目は何か?」ということと「この患者に対して追加で行った検査項目は何か? また、その根拠は何か?」という発想になります。この着眼点を中心に学習を深めたり、あるいは指導医の先生に質問するだけでも、学びや気付きも多いはずです。その積み重なりが、「プレゼンテーションで省いて良い/省くべき情報は何か?」という思考に繋がるのです。


○アセスメントとプラン
ここについての助言は一点だけです。それは、「いかに当事者意識をもって患者の診療に当たれるか?」ということです。担当患者の診療を「他人事として」遠目に見学しているだけだと思考停止が生じてしまいます。「介入すべき問題点は何?」「今どのような介入をしたらよいか?」と考えて「また、その根拠
は何か?」
という問いを果てしなく繰り返すのが臨床医です。介入をしたら今度は「何の項目を使ってどのように効果判定を行うのか?」とか、「治療のゴールは何で、その目標をどのように設定するか?」ということも考える必要があります。

いちばん楽なのは主治医のカルテの丸写しですが、上記のようなコアなクリニカル・クエスチョンをヒントにして、自分で調べてみたり指導医の先生に質問をして、可能な範囲で疑問を解消するのが理想です。

以上のような点に留意して、プレゼンテーションの原案をつくってくれれば、「何が必要不可欠な情報か?」ということが分かるようになってきます。今回のLEVEL2では、「とりあえず型の項目を埋める」というLEVEL1の立ち位置から1段階、高みに上るための要件を考えてみました。

アセスメント・プランについては、語り出すと収拾が付かなくなるので、シンプルに「当事者意識」というキーワードで括っています。もっとディープな部分を知りたい!という方がいらっしゃったらリクエストください。笑


----- LEVEL2 まとめ ------------------------------------------

○ 必要不可欠な情報は何か ? まずは必要な情報を見極めることを優先

○ 病歴では、症状の詳細な記述と時系列に沿った記述ができているか?
○ 理学所見/検査所見では、routineとそれ以外とで分けて考える
○ アセスメントとプランでは、当事者意識をもって診療に参加する

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