【書籍紹介】ON 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子 (内藤了著)
今年もゴールデンウィークが始まりましたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか?
今年のGWも、コロナのせいでどこにも行けない方も少なくはないのではないでしょうか?
いわゆる「おうち時間」を過ごす際の強い味方の一つが小説ですよね!
今日紹介するのは、「ON 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子」です。いわゆるホラーミステリというジャンルの小説になります。
「猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子シリーズ」は、主人公の新米女性刑事、藤堂比奈子が猟奇犯罪に立ち向かうというストーリーです。
「新しいタイプの警察小説」とよく紹介されています。
なにがどう「新しい」のか? 私なりの分析も交えて紹介していきたいと思います。
1.あらすじ
性犯罪の被害に遭う女性を少しでも救いたいという熱い思いを抱く新米刑事、藤堂比奈子。驚異的な記憶力を持つ藤堂は、かつて殺人事件を起こした犯人が、自らの体で自分の犯行をなぞるかのような自傷行為をして自殺するという、奇妙で凄惨な殺人事件の捜査に加わることになる。はたして犯人の目的とは?
2.このシリーズの「新しいポイント」
(1)主人公・藤堂比奈子のキャラクター性
この作品の主人公、新米女性刑事の藤堂比奈子は「イラストを描いて、記憶とイラストを紐づける」という、漢字が苦手なことにより編み出された特殊な記憶術を持っています。
読み込んだ事件のファイルの内容や、対話した内容をレコーダーの様に記憶できるのは刑事として大きな武器であり、事件の捜査にも存分に生かされています。
ですが、私が思う一番の藤堂比奈子刑事の武器は、
「いい意味で刑事らしくない、市井の感覚を生かして相手の心を開く能力の高さ」
だと思います。
例として、第一の殺人事件の被害者が過去に起こした、強制わいせつ事件の被害者の一人、Aさんへの聞き込みの場合を紹介します。
比奈子は先輩の強面刑事と一緒にAさんに聞きこみに行きました。ですが強制わいせつ事件の詳細を、刑事であるとはいえ男性に話すのは流石に抵抗があるもの。最初は詳しい供述を引き出せずに撤退した二人ですが、比奈子はその後でAさんのところにもう一度行きます。
そこで何を話し始めるかと思えば、
「Aさんの着ているスカートが素敵だったので、詳しく聞きたい」
と言いだします。更には、
捜査の後で食べようと思っていた塩大福をAさんと一緒に食べ始めてしまいます。
その気取らない人柄と刑事らしからぬ様子にすっかり毒気を抜かれたAさんは、塩大福を一緒に食べながら雑談をしていく中で、先ほどは詳しく聞けなかった強制わいせつ事件の詳細を話してくれるのです。
この様に、
「良い意味で刑事らしくない、普通の20代前半の女性」
としての優しい人柄で、事件の関係者の心をほぐしつつ事件の真相に迫る様は、読んでいて非常に痛快で、爽やかな読後感をもたらすことでしょう。
(2)日常パートと事件パートのシームレスさ
「警察小説」と聞くと、日頃なじみがなくて堅苦しくて世界を描いているイメージが浮かぶ人もいるのではないのでしょうか?
そのため「警察小説」に対してとっつきにくいと感じている人も少なくないでしょう。
ですがこのシリーズでは、捜査会議や縦割りの弊害の描写や、殺人事件を扱う以上は避けられないグロテスクな描写もありながら、
事件がない時の警察署で同僚とのやり取りや、八王子(比奈子の勤務する警察署の所在地)の市井の生活のような、「日常の風景」
が丁寧に描写されています。
日常を丁寧に描くことで猟奇事件という「非日常」を際立たせ、比奈子が猟奇犯罪を強く憎む心情に強く共感させてくれるのです。
3.終わりに
ここまで「ON 猟奇犯罪捜査班 藤堂比奈子」を紹介してきました。
私自身ミステリは大好物で日常的に愛読していますが、警察小説よりは私立探偵ものがメインで、警察小説は「ダンディーでハードボイルドなおじさんが主人公の熱いストーリー」が売りなのだと、多少読んだイメージで勝手に思っていました。
ですが、本作は主人公の藤堂比奈子の人柄からくる暖かさと、猟奇犯罪を許さないという作者の熱い思いが見事に融合されています。そして文体も読みやすいので、
「警察小説の最初の1冊」
として手に取るのも、有りだと思います。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
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