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知らなかった、シリアでの「戦争」のこと | Piece of Syria代表中野さんトークセッションレポート

みなさん、こんにちは!

オンラインサロン「国際協力サロン」では、「国際協力ゼミ」という勉強会を定期的に開催しています。

今回は、シリア支援団体Piece of Syria代表の中野さんをお招きして行ったトークセッションの様子をご紹介させていただきます!

〈Piece of Syria〉という団体名には、一人ひとりの力を合わせて、パズルのピースのようにバラバラになってしまったシリアを一つにし、Peaceにしていきたいという想いがこもっています。

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大切な国に何ができる? 悩んだ末に立ち上げた団体

大学を卒業後、商社での勤務やフィリピンNGOでのインターンを経て、青年海外協力隊としてシリアで活動した中野さん。2008年から2010年にかけて、JICAの母子保健プロジェクトと連携した活動に従事しました。

現在代表を務めるPiece of Syriaを立ち上げるきっかけとなったのは、帰国して1年後に始まったシリアでの戦争でした。「戦争が終わったらすぐシリアに行こう」と考えていたものの、戦争が終わる気配がなかったのです。

自分の大切な国、そしてそこで暮らす人々に何もできないもどかしさ感じた中野さんは、再び現地に赴くことを決意。2015年から中東・欧州10ヶ国を約半年かけて周り、難民となったシリアの人たちや支援団体の職員など、計100人以上から話を聞きました。

そして帰国後の2016年、Piece of Syriaを創設します。シリアでの教育支援をはじめ、日本国内でも「シリアの今と昔を伝える」ことを通じた講演や写真展などの平和教育活動を行ってきました。

国民の半分が難民となったシリア

2011年に戦争が始まったシリア。戦争前(2010)の人口は2139万人でしたが、そのうちなんらかの形で避難を行った人の数は、1100万人以上にも上ります。

心理的トラウマや子どもたちの通学への障壁など、戦争がもたらした被害や困難は無数に存在します。そんな中でPiece of Syriaは、シリア国内の幼稚園や、トルコのシリア難民補習校での支援活動を実施しています。

現地パートナー団体と連携することで、より支援が届きづらい地域にも支援が届けられるそう。NGOだからこその、人々に寄り添った支援といえます。

しかし今年に入ると、新型コロナの影響が……。トルコに住む現地パートナーを日本に招待する計画が延期となり、中野さん自身も、パートナーに会いにトルコへ行くことができなくなってしまいました。

現在は遠隔での連携を行っています。現地パートナー団体だけで活動を回すことはできている一方で、ネックとなっているのは金銭面です。

新型コロナによって幼稚園や学校の先生へのお給料が払えなくなり、先生たちは家族を養うべく、仕事を辞めて別の仕事を探すケースがあるのだそう。すると、子どもたちは学びの機会を失ってしまいます。中野さんは現在、日本でのファンドレイジングや情報発信などを通じた支援を行っています。

コロナよりも眼前にある、「戦争」という問題

一方で、実は「感染自体による影響」はそこまで大きくないのだそう。シリア自体が人の行き来が限られていたこと、また政府のサポートもあったことから、感染があまり広がらなかったそうです。

「むしろ空爆や戦争にまつわる問題のほうが大きいですね。」

中野さんはそう語ります。新型コロナ対策に目が向くようになり、結果として戦争に対する支援が後回しになっているそう。寄付が集まりづらくなるなど、様々な間接的影響を受けているのです。

中野さんが協力隊時代の友人に「COVID-19は大丈夫?」と尋ねると、返ってきたのは、「それよりもっと前から大丈夫じゃない」という答えでした。10年目になる戦争の深刻さを感じさせられます。

戦争は物価にも影響を及ぼしました。通貨の価値が下がったことで、実質的に物価が10倍に上がったそう。物流の悪化も、それに拍車をかけています

ニュースで目にする「衝撃的な映像」だけが戦争のリアルではありません。

「内戦」と呼ばない理由

シリアでの内戦は、アラブの春が波及して起こった、国内での民主化デモから始まりました。詳しくは知らないという方でも、「シリア内戦」という言葉を聞いたことがある方は多いでしょう。

しかし中野さんはここで、アラブ地域研究の権威である青山弘之先生を紹介した上で、先生の言葉を借りて「自分はあえて『内戦』という言葉を使わないようにしているんです」と語ります。

「内戦」とみなすことで、見えなくなる事象があり、シリア内戦を長期化させ解決を遅らせる主因がある

青山先生の本にはこう書かれています。

「内戦」という言葉を使うことで、シリアで起きている様々な問題が「シリアの中だけの問題」とみなされてしまう。「内」ではない場所に、問題が見落とされているかもしれない。

そういった考えから、「戦争」という言葉を使い続けているのだそうです。

中野さんの書かれたブログ

「信じるな、疑うな、確かめろ」

中野さんはこのことを一番に伝えたいと語ります。遠くの国で起きている戦争の実態はなかなか伝わってきづらいですし、ともすると「正義vs悪」という二項対立で捉えられがちです。

だからこそ、「これを信じる」「これを信じない」の前に、「確かめる」という作業を行うことが大切なのではないでしょうか。シリアでの戦争に限らず、あらゆることに言えます。

「かわいそうだから助けて欲しい」ではなくて

中野さんが代表を務めるPiece of Syriaの活動の特徴の一つが、シリアの美しさや人々の営みに焦点を当てている点。「かわいそうな人を助けて欲しい」といった伝え方はしません。

シリアの人々が大切な存在だからこそ「かわいそう」という伝え方をしたくはないのだと、中野さんは語ります。

シリアの人たちにどれだけ素敵か、まず知ってもらう。そしてその魅力を発揮できない「状況」があることを発信する。その上で、その「状況」を変えるお手伝いをする仲間を増やして、一緒にシリアの人々の魅力に触れる。

Piece of Syriaでは、そのような支援を行っているのです。

さらに、「戦争を他人事と思ってほしくない。」という考えもあります。実は以下の画像内に書かれていることは、全て、戦争前のシリアのことです。

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中野さん発表スライドより(※左の写真は中野さん撮影ですが、イメージとして使用しており、シリア国内のモールではありません)

現地で暮らす人は、「あの平和なシリアで戦争が起きたんだから、世界のどこの国で戦争が起きてもおかしくない」と語ったそうです。

戦争とは、「遠い国で怖い人達が行っていること」ではなくて、ごく普通の人達が巻き込まれているということを忘れてはいけません。

時に「難民が戦争を持っている」などと語られますが、「難民がiPhoneを持っているのか、iPhoneを持っている人が戦争に巻き込まれたのか」考えてみる必要があります。

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以上、Piece of Syria中野さんによるトークセッションのレポートでした!シリアのリアルを存分に伝えながら、シリアという国や人々の魅力が存分に伝わってくるお話でした。

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