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KokugoNote #21高1国語総合

○くれなゐの二尺伸びたる薔薇の芽の針やはらかに春雨のふる      正岡子規(1867-1902)
(存続(~している)の助動詞「たり」の連体形)

〈作者が何を見て、歌を詠んでいるのか〉、その照準をどこに合わせているのかをまず注意してみなくてはいけません。
庭にバラが咲いていたら、まずその紅い花びらと濃い緑の葉とのコントラスト、鋭い刺(とげ)、高貴な香りに目を心惹かれるものです。女性であれば誕生日にバラの花を贈られたら、嬉しくなるのではないでしょうか?(一本500円くらいが相場です)
情熱や愛を強く表現するものとして知られるバラですが、ここではそのような一般的な視点ではなく、「薔薇の芽の針」に着目しています。その「針」の何に興味を持っているのかというと、「成長していく様子」です。どこから判るのか?「やはらかに」「春雨のふる」です。雨に降られて少しずつ成長していく植物の生命に心を奪われているのです。「の」を連続させて、伸びやかさを表現していますね。

お昼休みに友だちと食べるご飯を例に考えてみましょう。毎日のことなので、あれこれ話をしながら、ゲームをしながらワイワイ食べるのだと思います。その中で、自分がひどい病に侵されていて友だちにそのことを言えず、あと1週間の命だと判っていたとしたらどうでしょう?友だちに言えば、この穏やかな日常が壊れてしまうので、知らせないまま過ごしたいと考えているとき、自分だけが静かにこの世から姿を消していくのだという感慨が沸き起こってきませんか?
その時に見える景色は既に変わっていると思います。それが「知る」ということだし、「生命を強く感じる」ということです。

さて、今回のバラが成長していく様子を眺める子規はどういう状況にあったかと言えば、脊椎カリエスに侵され、動くたびに痛みが体中に走る状況にありました。脊椎カリエスとは結核菌が惹き起こす背骨を脆(もろ)くし、手足のまひなど生活に支障が出る症状です。結局、彼はこの病のために34歳の若さで亡くなります。
そのように死を前にして思うことは何なのか、この背景を知って、もう一度、この歌を読み返してみるとその優しさ・柔らかさを感じ取ることができるのではないでしょうか?

詳しくは、青空文庫の『病牀〔*床のこと〕六尺(びょうしょうろくしゃく)』 
https://bit.ly/2OA0IUS、また『国語便覧』326頁を参照のこと。
キーワード:正岡子規・ホトトギス・写生・『歌よみに与ふる書』・『万葉集』・夏目漱石


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