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石高プロジェクト_解体新書_その肆

石高プロジェクトは
福島県の西会津町で誕生した「持続可能な未来型地域」をめざす取り組みです。その出発点として、地域の課題解決や農業の振興を目的とした新たなシステムとしてのモバイルアプリを開発しました。米作りに焦点をあて農家とファンが支え合う仕組みをデジタル上で実現し、故くて新しい農業を考えます。

_今回はプロジェクト全体のデザインを担当している矢部佳宏さんにインタビューした内容を基にした記事となっています。実は矢部さんは石高プロジェクトの発起人でもあります。その矢部さんの考えてきたこと、今回のデザインに関して意識したことなどについて話していただきました。

矢部佳宏さん
photo by シロヤマ写真館

石高プロジェクトの誕生

ランドスケープアーキテクトの視点

私はランドスケープアーキテクトとしての学びと社会との関わりから、ずっと日本の風景について考え続けてきました。ランドスケープアーキテクトの道を選んだきっかけは、今住んでいる集落の風景に関する研究から生まれました。
私の住む集落は、西会津町の北端にあり、その先には誰も住んでいない、飯豊連峰に続く奥深い山の境界にある集落です。この集落は約360年前に先祖によって開拓され、私はその19代目として生まれ育ちました。当時の風景は、まるで日本昔話に出てくるような山々に囲まれた里山風景で、なぜこの風景がこのような「デザイン」になったのか、何が美しさや安心感を生み出しているのかについて、土地の歴史や農民の生活、文化について研究しました。その過程で、この風景が生物多様性を維持している理由についても知ることができました。
この研究から、人と自然が共生関係にある風景がどのように生まれるか、そしてその持続可能性を確保するために必要な要素は何か、を追求するようになりました。里山風景から得たこの哲学は、海外でのエコロジカルアーバニズムのデザインにおいても共通する部分が多く、中国ではその考え方を活用した都市デザインなどを提案してきました。

NIPPONIA 楢山集落
NIPPONIA楢山集落から見える景色
上空から見た集落の風景
photo by Kyosuke Aotsu
冬の景色

帰郷と危機感

東日本大震災が発生し、それをきっかけに私はできる範囲で何かをすることを決意し、10年前に西会津に戻りました。しかし、大学の研究をしているときと比べて、人口減少は進み、町の行政機能が集まる中心部に向かって端から少しずつ耕作放棄地や空き家が増え、その風景が荒れていく様を目の当たりにした時に、このままだと地方都市のほとんどはこのようになり、増田レポートにあるよう消滅してしまうというという危機感を覚えるようになりました。
日本の長い歴史のなかで、暮らしのサイクルや文化、考え方、風習などは稲作を基層として形成されてきました。つまり、この基層文化を失うということは、日本人の心の中に根付いた「里山・集落・田園風景」を失うに等しいことに気づきました。
現在、日本の国土の14%が農地で田んぼで言うと7%強という割合です。一次産業に携わる人がどんどん減っている状況で、将来にわたって本当に食糧が確保できるかどうかにも疑問を抱きました。主食であるはずの稲作の後継者が減少し、国土の保全が危ぶまれる状況になっていることを考えると、深刻な問題だと感じました。

プロジェクトの具体化

なぜこれほどまでに米が重要視されなくなったのか。江戸時代には米は税金であり、個人のステータスを示すものとして「石高」というものは非常に重要でした。歴史ドラマでよく聞く「100万石の大名」は、日本トップの資産家だったはずです。
ある時、鈴木寛 先生とこんな話をしていました。「米と稲作、そしてそれを取り巻く文化に価値を感じている人たちの間だけでもいいので、いざという時の食糧が手に入る仕組みとして機能していくような、“石高“を重視する価値観が生み出せないだろうか」。話の中では、冗談混じりに「100万石の大名になってみたいね」などと盛り上がっていました。
しかし仮に、この妄想を現実化したとして、ただでさえ市場が低迷していたり販売競争が苛烈であるのに、その米をどうすれば良いのかという課題がありました。それなら、昔のように、米を通貨的なものとして使えたらどうだろうかという発想になり、さっそく地域通貨に詳しい西会津町CDOの藤井靖史さんに相談してみました。
そこからは驚くほどあっという間に話が進んでいきました。すぐさまブロックチェーン関連のスペシャリストとの打ち合わせになり、内田善彦 先生に直接ヒアリングをしていただいて、わずか1週間でプロジェクトのベースとなる考え方/仕組みを提案していただきました。
これが石高プロジェクトの始まりとなりました。

実はこれ、今回文章に登場した方をモチーフにさせてもらっています

世界観のデザイン

デザインにおいて意識したこと

米づくりは日本人の営み・文化などと広く結びつきがあるということ、その「一体感」を楽しくポップに表現することなどを意識しました。なので、通常メインになるような「どうおいしいか」という生産品としてのお米を表現する要素は少なくしていたり、Web3.0という新しい技術を使っていることを全面に押し出すことはせずに、逆に「土臭さ」のようなものが感じられるよう工夫しました。

例えば、お米の存在や石高という価値観が安定していたのは江戸時代だろうというところから、「石高」という文字は江戸時代を思わせるフォントにしました。他にも「Rice to meet you 」や「イィ稲!」など、ダジャレを使うのも江戸的なユーモアの雰囲気から採用した部分です。
全体として、なんとなく江戸の町民の声が聞こえてくるような、「粋な」感じを意識しています。一人一人がお米について意気揚々と語るような「粋な」ムーブメントになっていけばと思っています。

モバイルアプリ画面

web3などについて意識したこと

仮想上での取引・やり取りについてや、そういう世界観の中で様々な価値が生まれてくることに関しては特に今は自分が大きく関わっていないので別世界の物事のように感じています。ただ、そこが現実と大きく乖離して、有限な時間のなかでの人間一人一人の活動量が現実世界で少なくなってしまうことによる変化は大きなものになると思います。
なので、バーチャルな世界での感覚的な取引を、とても土臭い原初的な「米」という通貨以前の所有価値的なものと交換されるという、まさに歴史を遡るような、もしかしたら一周して原初に戻って考え直し社会を再構築していくようなものにしていく、というようなイメージでデザインをしています。

これからについて

スタートしてみて特に 「RICE」や「米」 という音に引っ掛けた言葉遊びの部分が広がっているところが、意図通りに盛り上がってくれていて嬉しいです。また、米を収穫前に買うということが一般消費者にとってはあまり無い体験かと思います。自分が買ったお米がどのように育てられどのように食卓に届くのかを体験することは、安全安心のトレーサビリティの観点以上に文化的な体験となっていく気がしています。
米が、大事で価値があるものという世界観をつくることが優先順位としてはとても高いのですが、その目的達成のためにありとあらゆる角度から「米」の面白さを追求して、多様な魅力が感じられるデザインと世界観を作っていきたいです。

やりたいアイデア

  • 石高プロジェクトに関わる色んな人々の米に対する「こだわり」や「あるある」を集めた情報集【米道〜マイウェイ〜】

  • 米粒の大きさや、ツヤツヤ感などの見た目、味の細かな違い、などを比較できるフォーマットをつくり、生産者、品種ごとに違いをデータ化するデータベース

  • 石高プロジェクトグッズ(ファッションアイテム系、農作業で使える系)

  • 稲作の一年などをイラスト化したカレンダー(農家さんによるそれぞれのこだわりが見える)

  • 農家の必須アイテム説明集(手道具からマシンまで)

おわり

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