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航空整備士の兄、グランドスタッフの弟。幼い頃に夢見た世界で活躍する“航空兄弟”の歩む道


株式会社JALエンジニアリング 中嶋 一樹さん(左)
株式会社スターフライヤー 中嶋 雄也さん(右)

幼い頃から、飛行機好きの親戚の影響もあり、航空業界に興味があったという中嶋一樹さん・雄也さん兄弟。今はお互いに夢を叶え、兄の一樹さんは株式会社JALエンジニアリングで羽田空港の航空整備士として、弟の雄也さんは株式会社スターフライヤーで北九州空港のグランドスタッフとして、それぞれ仕事に励んでいます。

「なんでも真似してくる弟をうっとうしく思ったこともある」「兄に負けたくない気持ちがあった」とお互いをライバル視していた時期もあったそうですが、今は実家に帰るたびに仕事の話をしたり、日々LINEで連絡を取ったりと仲のいい兄弟です。

子ども時代の憧れをどのように実現し、空港で働く今はどんなところにやりがいを感じているのか。お二人にお話を聞きました。

※今回、兄の一樹さんはオンラインでご参加いただきました。

■航空関係のドラマを何度も見ていた子ども時代

--- お二人はそれぞれ航空整備士、グランドスタッフとして働かれているとのことですが、日々のお仕事について教えてください。

一樹(兄):羽田空港でライン整備という、飛行機が駐機場に到着をしてから出発するまでの便間に行う点検や整備をメインに担当しています。早番、遅番、夜勤の3交代制で働いていて、今日はちょうど夜勤明けです。昨夜はタイヤの交換を多く担当してきました。国内線の飛行機は深夜に飛ぶことが少ないので、定期的に実施することが必要な整備作業などを行っています。

雄也(弟):僕は北九州空港でチェックインカウンター業務、 搭乗口で出発の案内をする出発案内業務、到着便のお客様をご案内したり手荷物を返却したりする到着便業務などをしています。最近はターミナルビルと飛行機とつなぎ、お客様を乗降させるための設備であるボーディングブリッジ(搭乗橋)を動かす担当にもなり、幅広い仕事に関わることができています。

--- 職種が違うとはいえ、兄弟揃って航空業界というのはめずらしい気がします。お二人とも昔から飛行機が好きだったんですか?

雄也(弟):静岡県の浜松に住んでいる叔父が、飛行機が好きで子どもの頃、遊びに行くたびに飛行機の写真を見せてくれたり空港に連れて行ってくれたりしたんですよね。それで自然と飛行機に興味を持ちました。

一樹(兄):まさにそれが共通のきっかけですね。鉄道や飛行機など、乗り物全般が好きな叔父なんです。

雄也(弟):あと、同じマンションに住んでいた友達のお父さんが飛行機のパイロットで。制服のままサッカースクールの送り迎えをしてくれるとか、海外にたくさん行ってるとか、そういう話を聞いて「すごいな、かっこいいな」と憧れの気持ちを抱きました。航空関係のドラマも何度も見ていて……。

一樹(兄):家族みんなで何回も見たよね。

雄也(弟):そんな感じでいろんなところからの影響があり、小学生くらいから航空業界を目指したい気持ちはあったと思います。

--- 「航空業界に入ろう」と明確に決めたのはいつ頃だったのでしょうか。

一樹(兄):大学は工学部航空宇宙学科に進んだのですが、就活の最後の最後まで航空か鉄道か、どちらの業界を目指すかで迷いました。たまたま大学のキャリアセンターで知り合った先生が航空業界に詳しい方で、その先生と話す中で航空業界に進むことを決めました。
鉄道業界は、大学生の時に駅でアルバイトしていたことがあり、仕事内容をある程度知っていたから、というのもありました。なので、まだ全く知らない航空業界を見てみたいというのもありましたね。

雄也(弟):僕はずっと自動車と飛行機両方に興味があり、大学の頃に航空業界に進むことを決めました。航空会社のインターンシップに参加して、空港のランプを車で走る経験をしたのですが、直近で飛行機を見たときに「これ(航空業界)しかないな」と思ったんです。

--- 進路を決めるにあたって、お兄さんの影響はあったのでしょうか?

雄也(弟):僕は本当にずっと兄の背中を見ながら育ったというか、ずっと後ろをくっついていく感じだったんですよね。中学校の部活(陸上部)も一緒、種目(ハードル)も一緒。実は大学の学部・学科まで一緒なんです。負けたくない気持ちがあって。

--- 「同じ道で兄を超えてやる」というような気持ちが少なからずあったんですね。

雄也(弟):そうですね。航空業界を選んだのは自分の意志ですけど、兄の影響も半分くらいはあるのかなと思います。

一樹(兄):中学生くらいまでは、何かと真似されるのがすごく嫌だったんですよね。でも高校生、大学生、社会人と大人になるにつれて気持ちの変化があったというか、弟が歩む道をサポートしたいなという気持ちが出てきました。本人の行きたい道を叶えてあげたいし、その場に、先に自分がいることが多かったので、アドバイスできるところはしてあげたいなと。

--- ちなみに、お二人とも航空業界に就職が決まったときのご家族の反応は?

一樹(兄):特に母がすごく喜んでくれました。元々そんなに飛行機に興味があるタイプではなかったんですけど、最近は航空業界について自分でどんどん調べているみたいで……。

雄也(弟):空港の情報を調べたり、整備工場の見学に行ったり。その探究心は我が母ながら見習いたいですね。

一樹(兄):僕が入社1年目のとき、飛行機の格納庫内でクリスマスの飾り付けをする仕事があったんですが、そのとき母がちょうど整備場見学に来ていて。申し込んでいたのを知らず、仕事場で偶然会ったことがあります。

雄也(弟):一緒に写真撮ってたよね(笑)。

--- 一樹さんは、裕也さんが自分と同じ業界に入ったときはどう思いましたか?

一樹(兄):自分を少しでも目標としてくれていたのかなと思うと嬉しかったです。中学生の頃の自分だったらそうは思わなかったかもしれませんが……。今は純粋に、同じ業界で働けていることが嬉しいです。

■チームワークを感じることが、日々の仕事のやりがい

--- 今は一樹さんがJALエンジニアリング、雄也さんがスターフライヤーで働いていますが、それぞれ今の会社を選んだのはどうしてですか?

一樹(兄):就活のとき、航空業界のいろんな会社を見て、その中でも人をすごく大事にしている印象を受けたのが、入社をしたJALエンジニアリングでした。航空整備士になりたかったので、整備の仕事ならどこでもいいかなと最初は思っていましたが、それが一番の決め手でした。

雄也(弟):僕は、スターフライヤーの企業理念に惹かれました。「安全運航のもと、人とその心を大切に」「感動のあるエアライン」という理念を読み、お客様のことも社員のことも考え抜いているのが感じられて、ここで働けたら得られるものがあると思い入社しました。

それから、スターフライヤーの魅力はグランドスタッフと整備関連のどちらも経験できる可能性があることです。グランドスタッフの仕事もすごく好きですが、将来は整備の仕事もやりたくて。その両方を経験できるスターフライヤーを選びました。

--- 今のお仕事で好きなことや、やりがいを感じているのはどんなことですか?

一樹(兄):新入社員の頃に初めてエンジンの交換作業を見たとき、「こんなに大きいものを人が交換できるのか?」と不安を覚えました。でも、いざ自分がやるとなったとき、とても楽しかったんですよね。大人数で、みんなの息を合わせて作業をしないとできない。大変な作業ではあるんですけど、チームワークと充実感や達成感を感じられて、今でも一番好きな作業です。

--- エンジンってどれくらい大きいんでしょう?

一樹(兄):実家のリビングくらい……?

雄也(弟):それじゃ伝わらないと思う(笑)。

一樹(兄):機体によって違いますが、12畳くらいの部屋をイメージしていただけるといいと思います。

(オンラインでお兄さんと繋がりながらのインタビュー)

--- 雄也さんは、グランドスタッフのお仕事のどんなところが好きですか。

雄也(弟):やっぱり、お客様と直接お話をして感謝の言葉をいただくと嬉しいです。あとは、飛行機が好きなお子さんと接するのも好きです。昔の自分を見ているみたいで。かつての自分のように、この経験が思い出に残ってくれたらいいなと思って接しています。

やりがいは毎便毎便に感じますね。無線でやりとりをする乗務員の方、燃料を入れる方、貨物を搭載する方、グランドハンドリングの方……飛行機はたくさんの人の力で飛び立っていて、誰が欠けてもいけない。すごいことだなと日々思います。昨日はいつも無線でやり取りをしている乗務員の方から、「丁寧な仕事をありがとう」と感謝の言葉をもらって嬉しかったです。

--- それはどういうシチュエーションだったのでしょうか。

雄也(弟):減便中のその日の北九州空港への到着の最終便は、その後折り返しで羽田空港への出発の最終便でした。到着の最終便が遅れて着いたため、そのまま出発も遅れてしまいそうだったんですが、お客様の降機後の作業やご搭乗の準備をスムーズに進められて、最終的には定刻で出発できました。そのとき乗務員の方が無線で「ファインプレーだったよ!」と言ってくれて。そんな風に直接言葉で伝えてくださる環境もありがたいなと感じました。日々が働く仲間との連携プレーなので、毎便ごとにやりがいを感じます。

■「飛行機が好きだ」という気持ちが、ずっと自分を支えている

--- お二人で仕事の話をすることはありますか?

一樹(兄):お互い頻繁に実家に帰るので、会ったときに仕事の話はします。弟が質問してきてそれに答える、というパターンが多いです。飛行機のシステムのこととか。

雄也(弟):だいたい僕が一方的に聞いてます(笑)。

一樹(兄):僕もわからないことがまだたくさんあるので、質問されることで自分の勉強にもなっていますね。

--- 悩みも相談したり?

雄也(弟):父が家庭に仕事の話や愚痴を持ち込まないタイプだったので、あんまり家ではネガティブな話はしないかもしれません。LINEで相談とかもしないですね。

一樹(兄):LINEでは、おもしろい動画とか自分が笑えた画像を送ったり。そんなことばっかりしてます(笑)。

雄也(弟):Twitterで見つけた乗り物関係のおもしろい動画をシェアしたり(笑)。

--- 微笑ましいです(笑)。最後になりますが、これから航空業界を目指す人に伝えたいメッセージはありますか?

雄也(弟):この仕事で大事なのは協調性というか、相手を大切に思いリスペクトする気持ちだと思ってます。チームプレーが多い仕事なので。だから、学生の頃からチームスポーツやボランティア活動などでチームワークを身に着けると、その先の仕事に活きるのかなと感じます。

一樹(兄):新型コロナウイルスの流行で航空業界が落ち込んで、一時期は新規採用がない時期もありました。入社試験を受けるチャンスが減っていたのは事実ですが、今は少しずつですが採用も再開をし、満席の便も多くなり、環境が戻りつつあります。いろいろな情勢の影響を受ける業界ではありますが、本当に目指したいと思ったなら、あとから「やっぱり航空業界がよかったな」と後悔しないように、チャンスは必ずあるので挑戦してほしいと思います。

雄也(弟):僕もそう思います。最終的に自分を支えるのって、原体験というか、子どもの頃に持っていたような「飛行機が好きだ」という漠然とした気持ちだと思うんです。学生時代にランプから飛行機を見たときの「これ(航空業界)しかない!」という気持ちとその光景は、今でもずっと頭に残っています。

たとえ仕事で悩むときがあっても、心から飛行機を好きだと思える気持ちがあれば、それがずっと自分を支え続けてくれると思います。

(文:べっくやちひろ、写真:猪口由里江)

★今回のインタビュー記事はいかがでしたか?
空港でのお仕事には、他にも様々なものがあります。

ものだけじゃなく安心を届ける。貨物を通じて世界とつながる、国際物流という仕事/株式会社OCS 新川育未さん
https://note.com/koku_aruaru/n/nf59533740df4

新千歳空港の貨物ハンドリングから地元の観光振興に転じて分かったこと/ANA新千歳空港株式会社、一般社団法人 千歳観光連盟(出向) 川口 達也さん
https://note.com/koku_aruaru/n/n35ac509f1599

3人の子育てと空港の仕事を両立。グランドハンドリングの夫、グランドスタッフの妻、関空で働く夫婦の奮闘記/株式会社Kグランドサービス 前田 裕貴さん、ANA関西空港株式会社 桝田 麻央さん
https://note.com/koku_aruaru/n/n12124b490295

職場のリアルを身近に感じられる特設サイト「だから、この仕事が好き」を公開!
SNSフォロワー約4万人の人気漫画家・うえはらけいた氏による「飛ばない空のお仕事マンガ」、全国340名の空港で働く職員を対象にしたアンケート調査をはじめ、コロナ禍の激動を乗り越えた現場の仲間たちが、今自身の仕事にどのような誇りを感じ、何にやりがいを見出しているのか、リアルな声をお届けします。
★「だから、この仕事が好き」 https://hataraku.jfaiu.gr.jp/shigotosuki/

空港を支えるプロ裏方の情報が盛りだくさんのサイト「空港の裏方お仕事図鑑」では、他にもたくさんのインタビューを掲載しています。
★空港の裏方お仕事図鑑  https://hataraku.jfaiu.gr.jp/index.php 

ライター:べっくやちひろ
東東京在住のライター・編集者。主に働き方や生き方に関するインタビュー取材を行なう。

カメラマン:猪口由里江
1宮崎県出身。福岡県在住。ブランドデザイン(株)取締役。Piece Photo Design 代表。
高校生の頃に写真に出会い、福岡に移住。それからは写真一筋。現在は小学生〜保育園児までの3児の母。2021年8月に福岡市内にキッズベビースタジオオープン。スタジオ業務をメインに出張撮影、企業案件と幅広く携わっている。
https://piece-photo-design.studio.site

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