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「妻/夫は尊敬できる仕事の仲間」夫婦で極めるグラハンの道

JALスカイエアポート沖縄株式会社
宮良 勝貴さん
宮良 真季さん

那覇空港で航空機の誘導をしている宮良勝貴(みやら かつたか)さんと、搭降載監督者(ロードマスター)をしている宮良真季(みやら まき)さん。同じ「搭載」の部署で働くお二人は結婚8年目、協力しながら6歳の息子さんを育てているご夫婦です。

お二人が携わるのはグランドハンドリング(グラハン)という業務。グラハン一筋でやってきた勝貴さんと、グラハンを志しながらも貨物の部署が長かった真季さんは、お互いの知識と経験を尊敬していると言います。

家族であり仕事仲間でもあるお二人に、航空業界を目指した理由やグラハン業務の魅力、仕事と子育ての両立について語っていただきました!

■航空業界に入ったきっかけと、夢を叶えるまで

--- お二人とも那覇空港で働かれているとのことですが、普段どんなお仕事をしているのでしょうか。

勝貴さん:私は航空機誘導業務をしています。メインの業務は3つあって、着陸した航空機が指定の位置に停止できるようパイロットに指示を出す「マーシャリング」。専用の車で航空機を誘導路まで移動させる「プッシュバック」。コックピットと地上間で情報を伝え合う「インターホン業務」です。

真季さん:私はロードマスター、略してLMという役職です。貨物や手荷物の搭降載を監督する業務で、お客さまのお荷物などを航空機の側まで運んで積み込んだりしています。

--- お二人は、どんなきっかけで航空業界を目指したんですか?

勝貴さん:沖縄出身なんですが、沖縄は本州と違って陸続きではないので、県外に行くとなると航空機かフェリーに乗るしかない。そのため幼い頃から航空機に乗る機会が多く、身近に感じていました。それで高校を卒業後、なんとなく航空業界に進んだんです。

最初に就職したのは今の会社ではなく、石垣島にある別の会社でした。そこで6年くらいグランドハンドリング業務をやりました。身近に感じたという理由でなんとなく入った業界ですけど、やってみるとすべての作業が意外と面白くて。グラハンは地道にコツコツやる仕事が多いので、接客業務が得意じゃない自分に合っていたんです。その後、もっと大きな航空機をハンドリングしたいと思うようになり、今の会社に転職しました。

(航空機を誘導(マーシャリング)する勝貴さん)

真季さん:私は埼玉県出身なんですが、子どもの頃、父がインドネシアに単身赴任していたんです。航空機に乗って父に会いに行くようになり、それがきっかけで「空港ってかっこいいな」と思うようになりました。

だから高校生になって進路を考えるようになったとき、真っ先に空港で働きたいと思って。「空港 仕事」みたいなワードでネット検索して、グランドハンドリングの業務を知りました。そのサイトでマーシャリングの紹介に使われていた写真が、女性のマーシャラーだったんですよ。それに憧れて、所沢にある航空関係の専門学校に行きました。

--- 卒業後、すぐに那覇空港で働き始めたんでしょうか?

真季さん:もともとは成田空港で働きたかったんですが、成田はマーシャリングが機械化されていたので、自身でマーシャリングができるような別の空港を探し、関西国際空港のグランドハンドリング会社に入社しました。

だけど、本来やりたかったマーシャリングを担当している「搭載」という部署ではなく、「ロードコントロール」を行う部署に配属されました。航空機の重量や重心位置を計算して座席や積荷を調整する部署です。
そこで6年ほど働きましたが、搭載業務に就く夢を諦めきれず、今の会社に転職しました。それが10年くらい前です。

--- 転職して、希望していた「搭載」のお仕事に就いたんですね。

真季さん:それが、転職したものの、最初は搭載の部署ではなく貨物の部署に配属されたんです。そこで8年くらい働き、2年前にようやく念願の搭載の部署に異動になりました。今は、夢だったマーシャリングもできています。航空業界に入ってから十数年は経っているんですけど、夢が叶ってからはまだ2年ほどなんです。

(機体をプッシュバックさせるため、トーバーを接続する真季さん)

■職場の飲み会で出会い、結婚。モットーは「夫婦平等」

--- 同じ職場で働いているお二人の出会い、気になります。

真季さん:私が貨物、彼が搭載の部署にいたとき、色んな部署が集まった飲み会があって、そこで初めて彼を認識しました。そのとき、彼が「正社員登用試験を受ける」と話していて。私も、もともと契約社員として入社して、途中で正社員登用試験を受けて正社員になったんですね。だから登用試験について、「こんな質問されたよ」とか、そんな話をしました。

勝貴さん:彼女とはたまに職場ですれ違うことがあったので存在は知っていて、「気が強そうな女性だな」と思っていました(笑)。だけど飲み会で話してみたら、印象とは違ってすごく明るくて気さくな人でした。

--- その後、結婚までの馴れ初めは?

勝貴さん:その後、彼女のアドバイスもあって無事に登用試験に合格しました。ちょうどその辺りから、共通の知り合いも含めて彼女と食事に行くような回数が増えてきて。自然な流れで交際が始まり、出会ってから一年半くらいで結婚しました。

--- その後、お子さんが生まれたんですね。

真季さん:はい。出産をきっかけに仕事を辞める人もいますが、私は航空業界から離れるつもりはなくて職場復帰しました。「夫婦平等」が我が家のモットー。お互いに「家事や子育ては女性がやるもの」とは思っていないので、食事作りも洗濯も買い物も、すべて分担してやっています。

■同業者だからこそ共感できる

(ご夫婦でトーバーを接続している様子)

--- 家族であり同僚でもあるわけですが、お互いはどういった存在ですか?

真季さん:「仲間」ですね。私は搭載に異動して2年経っていないので、まだわからないこともあるんですが、そんなときは搭載の先輩である彼に教えてもらいます。グラハン業務に関して彼はプロ中のプロなので、そういう人が同じ職場にいるのは心強いですね。

勝貴さん:彼女は関西国際空港でロードコントロールをやっていたし、那覇空港に来てからも貨物の部署にいたので、自分が知らないこともよく知っているんですよ。だから貨物や重量に関することは彼女に聞いています。
真季さん:貨物で培った知識が今に生きているので、遠回りも悪くなかったと思います。

--- おうちでも仕事の話をしますか?

真季さん:常にしてます。「今日こんなことがあったよ」とか。

勝貴さん:改善できることであればアドバイスするし、ただの愚痴であれば黙って聞くようにしています。

真季さん:同業だからこそ、お互いの仕事の話がわかるんです。たとえば、彼が「失敗した……」ってものすごい悲壮感を漂わせて帰宅したことがあって。別の業種だったら失敗談を聞いてもピンと来ないと思うんですけど、同業だと「それは大変だったね」と共感できる。

勝貴さん:1年に1回くらい、心臓が止まりそうな失敗をやらかすんですよ。まぁ、結果的には大事に至ってないんですが……。そんなときは、彼女に話を聞いてもらいます。

--- そんな話を聞いて育ったら、お子さんも航空業界に詳しくなりそうですね。

真季さん:子どもも飛行機が好きみたいで、飛行機を見て「あ、〇〇だ!」と機体の種類を当てたりしています。専門用語も耳にして育っているからか、普通の飛行機好きよりマニアックかもしれません(笑)。

--- お仕事と子育ての両立で工夫していることはありますか?

真季さん:シフトは早番・中番・遅番があるんですが、保育園の送り迎えがあるので、会社に相談をして、私たちのシフトをずらしてもらっています。夫が早番の日は私が中番だったり、ちょっと遅めの勤務にしてくれたり。

勝貴さん:お互い、生活リズムはバラバラですね。仕事の時間をずらしているから、家でもあまり会えなかったり。月に1回か2回、休みが合う感じです。

真季さん:一緒に勤務に入っているときも、現場ではそんなに会わないんです。お互いに別の作業をしているので、一日一回、顔を見るかどうか。だから家庭での情報の連携に失敗して、お互い仕事帰りにそれぞれがバナナを買ってきちゃったりも(笑)。でも、そんな失敗も一緒になって笑っています。

■グランドハンドリングのやりがいとは

--- お仕事について、一番やりがいを感じることはなんでしょう?

勝貴さん:プッシュバック業務にやりがいを感じます。プッシュバックは誰もができる作業ではなく、資格も必要で、限られた人間のみが任される作業なんです。この会社にもやりたい人がたくさんいるし、中にはプッシュバックがやりたくて航空業界に入ってきた人もいる。自分はこの作業のためにたくさん勉強してきた自負があるし、この作業を任されている誇りもあります。

真季さん:沖縄では、離島の方に生活物資を届けるのも大切な仕事です。波が高くて船便が運休になった場合は、島の小学校の給食の物資などが航空機に来ます。そんなときは「離島の人たちの生活がかかってるんだから頑張らなきゃ!」と思いますし、無事に積み終えたときはやりがいを感じます。

--- このお仕事をしていて良かったことは?

勝貴さん:扱う航空機が大きくなればなるほど、達成感も大きくなります。今は退役した「ボーイング747」というジャンボジェット機があるんですが、自分は退役前にボーイング747の仕事ができた。そこは楽しかったなと思います。
真季さん:私はロードマスターをやっていて、一便に対して多いときは6、7名くらいのスタッフが関わります。シフト制で便ごとにメンバーが変わるから、阿吽の呼吸で仕事をするのは難しいんですが、チームワークがうまくいくと「最高の仕事ができたな」と嬉しくなります。

(到着した航空機を誘導する勝貴さん)

--- お二人が今後やってみたいことは?

勝貴さん:搭載部門一筋でやってきたので、今後はもっと貨物やバランスの知識を増やしたいです。そこは彼女がプロなので、教えてもらえたらなと。

真季さん:今はロードマスター業務を完璧にできるようになりたいし、最終的にはプッシュバックができるようになりたいです。彼がすでに目標の場所にいて、わからないことを教えてもらえるので、ラッキーだなと思います。

--- これから航空業界に入りたいと思っている方にメッセージはありますか?

勝貴さん:テレビなどでは、CAやパイロット、整備士がよく取り上げられており、グランドハンドリングはイメージがつきにくいかもしれません。ただ、航空機を一番間近で見て、触って、中まで知ることができるのがグラハンの魅力です。プッシュバックやマーシャリングといった業務も、基本的に現場で行うのはグラハンの人間だけ。特別感のある仕事なので、ぜひ興味を持ってほしいです。

真季さん:私が航空業界に入った十数年前は、女性がとても少ない業界でした。だけど業界全体が変わってきて、今は女性も働きやすい環境になりつつあります。だからあまり心配せず、航空業界に飛び込んできてほしいです。たしかに荷物は重いし作業は大変なんですが、私でもできているし、職場には私より小柄な女性もいます。熱い思いがあればどんな人でもグランドハンドリングで活躍できますよ。

(2022年12月取材)

(文:吉玉サキ)

★今回のインタビュー記事はいかがでしたか?
空港でのお仕事には、他にも様々なものがあります。

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空港を支えるプロ裏方の情報が盛りだくさんのサイト「空港の裏方お仕事図鑑」では、他にもたくさんのインタビューを掲載しています。

ライター:吉玉サキ
ライター・エッセイスト。北アルプスの山小屋で10年間働いた後、2018年からライターとして活動。著書に『山小屋ガールの癒されない日々(平凡社)』『方向音痴って、なおるんですか?(交通新聞社)』がある。

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