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子供向けかと思ったらとんでもなかった「守り人シリーズ」

トールキンの影響を受けていない貴重なハイ・ファンタジー

「指輪物語」のJ.J.トールキン。
「エルフ」という尖り耳の誇り高い種族をはじめ、ドワーフ、トロール、ホビット。剣と魔法。といったテーマを最初に生み出したのがトールキンです。
異世界ファンタジー作品で、トールキンの影響を受けていないものを探すのは難しいとさえ言われているそうです。
と聞いて、試しに自分で空想の世界を作ってみたことがあるのですが、どっかからの切り貼り発想しかできず、びっくりするほど自分の中にオリジナリティが無いことに気付きました。

で、「トールキンの影響を受けていないファンタジー」の貴重な1編が、本作「守り人シリーズ」です。

さてタイトルは知っていたものの、何となくまだ読んでいなかった本作。
綾瀬はるか主演のドラマを観て「いいじゃん!」と思い、買ってみたら驚きの面白さで、電子刊行済のものはむさぼるように読んでしまいました。
と同時に、原作のファンが「あの配役はありえねえ!」と言ってたのも、まあ何となく理解…このへんは、ドラマから入った人間のほうが心理的な負担小さくて役得かなw
(何度見ても笑ってしまう藤原竜也の玉キーンも、あの玉が精霊の卵のレプリカみたいなビジュアルだったのはドラマならではのすごく良い演出だったと思う)

第1巻「精霊の守り人」

主人公の女用心棒・バルサ(31)が、「ヨゴ」の国の第二皇子・チャグム(11)の命を救うことから始まるのが第1巻「精霊の守り人」です。
アラサー用心棒・バルサから見たもの語りがとても良い。チャグムの成長物語であるにも関わらず、バルサの老練な職業人としてのプロ意識、家庭を持たない女性としての危うさ、積んできた経験から来る強さと脆さなどが嫌味なく描かれ、大人が読んでもグっとくる言葉に溢れています。
読みながら、自分の子どもにこんな言葉をかけられたら、こんな背中を見せられたら…どんなにカッコイイだろう、と思いました。

第2巻「闇の守り人」

バルサが過去と決着をつける話。ドラマではラストエピソードになるらしい。すごくイイだろうなあ…
吉川晃司扮するジグロが絵的にたいへんかっこ良かったのでとても期待しています。ジグロと旅をしていた頃の10代バルサ(清原果耶)がものすごくいい演技だったのでそれも楽しみ。

第3巻「夢の守り人」

夢の世界に囚われた人々。それを引き起こしたのは、汚れた心のもつ力の強さ…子どもを閉じ込めて成長をさせないヒステリックな母親という毒親テーマはちょっと怖かった。児童文学で毒親とは…。
今回はバルサの幼なじみ、タンダがヒロインです(ていうかタンダはいつでもヒロインかも)
ドラマでは無視されるエピソードになるらしい…まあ仕方ない気もする。残念だけど。

第4巻「虚空の旅人」


チャグムが主人公です。
バルサがいないと華が足りないとか言われやすい巻ですが、貴種流離譚の末に成長して王宮に戻った、「大器を持った苦悩の皇太子」ってすっげえイイと思う。
チャグム、銀英伝のユリアンみたいなポジションかと思っていたのですが、とんでもない。未熟でも未完成でも、独自の帝王学を育んでいく姿はとても魅力的です。
と同時に、戦争や内乱がどうして起きるのか、為政者の矜持や政治なんかもしっかり描かれていて、子どもにはかいつまんだ政治ニュースよりもコッチ読ませたいなと思う面白さ。

第5・6巻「神の守り人(来訪編・帰還編)」

主人公がバルサに移ります。
チャグムとは違う、被差別人種のイヤボーン系(これまた古いなあ)美少女の用心棒をすることになったバルサ。
苦悩しながら(というかヒヤヒヤしながら)少女を救済する手段を求めて旅を続けるが、歴史や差別感情に基づいて出来上がった「社会」がそれを許さない。
人種差別や未知への恐怖、集団ヒステリー、カルトの生まれる土壌など、児童文学とは思えないテーマが続きます。

第7巻「蒼路の旅人」

チャグムが主人公。各国のキナ臭い動きがとうとう顕在化する中、小田原評定で内向きの足の引っ張り合いに夢中な実家(王宮)にイライラするチャグムは、ついついカっとなって父親にハメられ、戦地に送られます。
しかし、敵方や市井の者達とも交流を深め、その人柄と器量からアイドル状態に人心を惹きつけていきます)。
抗えない歴史の流れに、自分にしかできない方法で抗うことを決めたチャグム。
すべては国を、国民を護るため。
たとえ、王宮の人間が誰も自分を理解してくれなくても。
「えええええええこれからどうなるの!?」というところで物語が終わります。

第8~10巻「天と地の守り人」

まだ未読、こんなお預けってアリかよというところで、お預け!!

はやく全編電子化してください

全10巻中、7本目まで電子化済。
しかも7本目はその後3本の序章のような展開です。
児童文学ファンタジーだと思って読んでいたものが、急激に大河ドラマになってくるタイミングです。

電子版しか読んでいない人間にとってはとんでもないお預けです。
でも今更紙本買いたくないですラスト3冊だけ本棚にあるとか超絶気持ち悪い。
それに電子書籍が便利すぎて生活のなかに「紙本を読む」というフローが入らなくなってしまいました。きっと買っても読めないでしょう。
はやく、はやく全編電子化してください。

ほんとお願いします。高くても買うから。

ほんとに。

ほんとに!!!!!


投稿日 2016.07.08
ブックレビューサイトシミルボン(2023年10月に閉鎖)に投稿したレビューの転載です


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