【BL解説コラム箸休め】オメガバースってなあに？
今回はここ数年、世界中のYAOI GIRLに大旋風を巻き起こしている「オメガバース」について解説します。
人気の理由と嫌う人がいる理由、なるべくフェアに紹介できたらいいな。
オメガバースを生んだ「スラッシャー」の皆さん
アメリカは、性娯楽に対して厳格です。とくに小児ポルノには非常に厳しく、自分の子供のお風呂写真を持っているだけで社会的地位を失うこともあるそうです。
そこで変態の性欲は方向性を変え、人外ポルノに流れています。『マイリトルポニー』という女の子向けアニメに出て来るキュートなユニコーンやペガサスたちが餌食になっているようです。（それはそれでいいのかよ、という話はいまのところ棚に上げます）
そういうわけで、アメリカをはじめとする英語圏には「ケモナー（ケモノ萌え）」、獣人・半獣人萌えの文化が土壌にあります。
そんな中で、アメリカの人気ドラマ『スーパーナチュラル』の狼男エピソードがきっかけになって「オメガバース」が生まれました。
ドラマ『スーパーナチュラル』は、それじたいがあちらの腐女子に人気です。
なお、英語圏ではカップリング表記を「攻×受」ではなく「攻/受」と表記するため、あちらの腐女子はスラッシャーと呼ばれているそうです。
オメガバース概要
オメガバースは、狼の生態に似た階級社会での差別が定着した世界です。
男女性の他に「アルファ・ベータ・オメガ」という3つの性区分があり、それが社会階級とほぼ直結しています。
アルファ
ごく少数存在する、リーダー格の人種。容姿や能力が秀でていることが多い。
社会的に高位の職業につき、魅力的なリーダーとして集団を統括する王の器。
男女を問わず、とくにオメガに対しては絶対的な攻であり、抱いたオメガを妊娠「させる」ことができる。
ベータ
大多数の平民格。いわゆる普通の人。大抵は男女で結婚する。
オメガ
ごくごく少数存在する、被差別階級。
「ヒート」（後述）が原因で社会活動に制限がある。男女問わず妊娠「する」ことが可能。
「繁殖のための種」として虐げられることもあれば、「いのちを生み出す希少種」としてとても大切にされることもある。
つまり、女性のアルファと男性オメガのカップルの場合、男性オメガがつっこまれて、かつ妊娠します。が、腐女子視点では割とどうでもいい設定なので、ここが深掘りされることはあまりありません。男性向けだとこのへんどうなってるんでしょう？
主な設定
オメガバース特有の設定がいくつかあります。その中でもだいたい共通認識になっているものがこれらです。
オメガの「ヒート」
オメガには定期的に「ヒート(発情期)」が訪れる。ヒート期のオメガは強烈なフェロモンを発して、繁殖行為しかできなくなる。
「オメガだから、ヒートがあるから」という理由で、ベータよりも就業や出世のハードルが高くなるため、オメガを公表することによる社会的メリットはほとんど無い。
ヒートを抑える「抑制剤」
上記の理由から、一部のオメガはヒートを抑えてベータのようにふるまうために、「抑制剤」を服用する。
抑制剤によってヒート期のきつい症状は抑えることが可能。
ヒート期のオメガとアルファ
ヒート期のオメガが放つフェロモンは、アルファの性欲を非常に強く刺激する。
アルファはオメガのフェロモンに逆らえない。普段キリっとしてるアルファ様がその時だけオメガちゃんをグズグズに抱き潰してしまう。これがたいへんシコいのである（池波正太郎ふうに）。
人によってちょっと異なる設定
ここまでは、わりと共通認識。ここからはちょっと揺れ幅のある設定たちです。極端な話、人の数だけ解釈があったりしますが、かいつまんで紹介します。
オメガバース界の住人たちは、物語の面白さや盛り上がりを優先させて、結構フレキシブルに設定を変えてしまいます。えっちなんだからいいだろう！こまけえこたぁきにすんな！いいでしょ、この潔さ。
オメガフェロモンの有効範囲
ヒート期のフェロモンは
・アルファを強く刺激する。
・ベータもオメガのフェロモンにあてられる
オメガのフェロモンがベータに効かない世界の場合、オメガがヒート期に入っていても、そこにアルファがいなければ「体調が悪い」程度にしか見えない。
アルファとオメガの「つがい」
アルファとオメガの間には、他の組み合わせにはない「つがい」というシステムがある。
「つがい」は
・アルファがオメガのうなじを噛むことで成立する
・運命的な出会いを感じた本人たちの間で成立する
うなじを噛むシーンは、ストーリーの「サビ」にあたることが多い。
アルファとつがいになったオメガは、
・不特定多数のアルファ（及びベータ）へのフェロモン放出が止まる。
・ヒート期そのものが止まる
ネスティング
ヒートが近づいたオメガは、本能的に「巣作り」をしてしまう。
・恋をしている相手
・つがいのアルファ
の私物を無意識に集め、自分の周囲に置いている。それに気付いたアルファが
「お前オメガだったのか…！」→ベッドイーーーン！♡となったり、
「ああ、もうすぐヒートだったね♡」→一週間有給とったよ♡いっぱい楽しもうね♡となったり。
ネスティングにまつわるエピソードは、大抵とても幸せ。好き。
人気の理由
イェーイついてきてるー？以上がおおまかなオメガバースの世界観です。細かく言い出すともっと色々あるんですが、あんまりエグイこと書くのもどうかと思うので、これらの何が世界中の腐女子にウケたのか、という話に変えようと思います。
攻と受の絶対固定感
アルファが絶対的に攻であること、オメガが絶対的に受であること。
このわかりやすさが、二次創作大好きな腐女子の心を掴みました。
「アルファの○」といえば、それは○が左固定であるということ。
「△くんが抑制剤飲んでるオメガって知らなくて」といえば、△くんが社会的な不利益を被らないためにオメガであることを隠していること、いずれオメガであることがバレで受け受けしい濡れ場が訪れることを意味します。
一言で伝わる情報量
前の「固定」ということと少しかぶるのですが、「言葉を省略しても情報量が落ちない」のもオメガバースのいいところです。
Twitterの文字制限のなかで、1つのツイートにどこまで萌えを詰め込めるかは、ある種のコピーライティング能力が鍛えられるところ。そこで、
オメガバースの○△
と書けば、重要な情報は全て伝わります。さらに、
オメガ△は抑制剤を飲んでいる○の上司。出張中に○の不手際で△の荷物が盗難にあってしまい…！？
と書けば、もう物語の8割は伝わります。
「どういう流れでエッチな状況になだれ込むのか」が提示されれば、「オーケーそういうの大好きよ！」という人にとって非常に伝わりやすい道標になるのです。
差別萌え
良し悪し論はさておき、事実として「生物学的な特性が社会のなかでハンデになる」という差別構造は、現代社会のそこかしこで見かけます。
世の中から差別が無くならないのは社会にとって差別が必要だからなのでしょう。現実の社会で求められるものは、娯楽の世界でも必要とされます。
アルファ・オメガという陽と陰、ヒートからつがいの成立までのハレとケのコントラストは、それをテーマに無限の創作を生み出す可能性を秘めています。
差別というテーマは、いつの時代も創作者のロマンを掻き立ててきました。その感覚は、ちゃーんと現代の腐女子にも受け継がれています。
嫌う人がいる理由
上記の理由と汎用性の高さから二次創作を中心に爆発的に拡がり、商業誌でも見かけることが増えてきたオメガバースですが、この特殊すぎる世界観を嫌う人ももちろんいます。
私はそこまでいやだと思ったことはありません。が、気持ちは分かるなあ、とは思います。
差別萌えへの嫌悪
性差別そのものをテーマにした娯楽は、どうしてもミソジニックな…あるいはミサンドリックな思想と結びつきやすくなります。
オメガバースはそのものが性差別の物語。どうしても書き手の差別意識を反映しやすく、読み手の差別意識を刺激しやすくなります。その意識の差が、場合によっては「娯楽を超えた不快感」になってしまうこともあるでしょう。
もっとシンプルに、性差別を娯楽として消費すること自体への嫌悪を感じる人もいるはずです。
二次創作の本質を損なう
二次創作の楽しみ方は色々あります。なんでもアリではあるのですが、なんでもアリなぶん、内省や自分に正直であることは求められます。（BLならではの内省的な傾向は、「#3 BLは様式美だ！」にて）
例えば、下記の2つは似て非なるモノなのです。
「公式」という一次創作物をゴールとして、「そこに至るまでのルート」を考えたい人
一次創作物キャラクターの個性を活かしたIFを楽しみたい人
愛情にもとづいた繊細な解釈の妙を楽しみたい人にとって、オメガバースの世界観は中濃ソースとマヨネーズと七味唐辛子をしこたまぶっかけたものになってしまいます。
もっと雑に言えば「オメガバの世界にぶっこんだら全部いっしょじゃん」ということで…竹中直人やムロツヨシの「出てきた途端に全部持ってっちゃう感」に通じるものもある(好きなんです…)
キャラクターヘイトである
たとえば一次創作物のメインテーマが成長物語や人間讃歌であった場合、二次創作で差別に屈した社会をあてはめるのは「一次創作物への愛がない」として嫌悪する人もいるでしょう。
設定の特性上、「努力家」型のキャラクターはオメガ役にされやすいです。
彼の努力や、それで開花していく才能を「オメガ」の一言でまとめるんじゃねえ
という怒りを持つ人もいるでしょう。
どっちが良いとか悪いとかではありません。物語に救われた心の、とても大切な部分なのです。
すっげえ長くなった！
全然箸休めじゃないね！ごめんなさい！
本当は私の大好きなdom/subやケーキバースの話もしたかったのですがさすがに長すぎるのでここで締めます。（前回ああ言ったくせに、先日「受がフォーク」という天啓が降ってきて、ケーキバースもイケる口になりました）
次回は本編に戻ります。「腐女子活動の面白さと腐女子の実務能力」お楽しみに！(してる人いる…？)
言い訳
上記のオメガバース解説ですが、「ちげぇよタコ！」「そうじゃねえよ！」等のツッコミあるかと思います。もし嫌な感じに見えてしまう部分があっても悪意はありませんので、ご指摘は優しくいただければ嬉しい…です…
今回はかなり突っ込んだので、割とビクビクしているAmatiでした。
＜＜#6 日本と世界の男×男エッチ事情
＞＞#7 腐女子活動の面白さとクリエイティビティ
投稿日 2017.11.24
ブックレビューサイトシミルボン（2023年10月に閉鎖）に投稿したレビューの転載です
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