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#8 腐女子の実務能力を紹介するぜ

(前回の続き)出版不況と言われるなか、「BLはカネになる」ということは知られつつあります。
しかし今のところ、「女性消費者」として有望みたいな認識にとどまっているように思います。
私はこれを非常にもったいなく思います。腐女子の真髄は創造にあるんです。

わくわく腐女子ライフ、Amatiの例

Amatiも腐女子の末席に名を連ねる者。前回コラムで語ったように、推しが暮らす場所をせっせと耕すのが大~好きです。具体的な実務として何をやっているのか、ざーっと紹介しましょう。
しかるべき場所(ここ重要)での交流
性娯楽の情報発信は隠れてしようね!
BL特化型の投稿サイトには、BLを知らない人や嫌う人がうっかり見てしまうことを予防するために、Googleなどの大手検索エンジンの対策…いわゆる「検索よけ」がされています。
検索キーワードじたいも一捻り暗号化されていますが…BLならではの「暗黙の了解」を知っていれば、大抵さほど難しくはありません。
創作活動
妄想が手に負えなくなると本を作ることになります。いわゆる薄い本、同人誌です。
同人誌の発行が決まったら、頒布するイベントに合わせて日付を逆算し、原稿を間に合わせます。しんどくなると仲間に励ましてもらったり、褒めてもらったりしてモチベーションを保ちます(励まして!褒めて!って率直に言うのがコツ)。
入稿、注文
原稿が完成したら、印刷会社の指定する形式に変換し、デジタル入稿。
印刷会社を選んで、
・本のサイズ
・紙の種類(表紙、原稿本文、カバー、おまけの有無など)
・印刷部数
・納入期日と場所
などを指定して注文します。もちろん前払いです。印刷費用は部数や仕様によって変わりますが、ちょっと凝ろうと思うと諭吉10人くらいは余裕で飛んでいきます
告知・広報活動
同人誌は作っただけでは誰も気付いてくれません。自分のSNSアカウントから本の情報、イベント参加の告知をします。
「●月●日の(イベント名)で○△本を出します!東ホール***…」
「(イベント名)○△本、なんと○○さんも参加!」
などの発信をします。このへんも、マーケティングのセンスやノウハウが活きるところ。
参加者が多いと情報も拡散しやすくなります。
イベントでの頒布
イベント当日、本は印刷会社からイベント会場のブースに届けられています。売り場を設営して頒布準備。
設営グッズはもちろん自前です。ノウハウ、センス、道具ともに、結構色々必要。「設営って何さ」と思ったら「設営完了」で画像検索だ!
イベントは、同じ嗜好を持つ同志との交流の場です。開始と同時に本とグッズと差し入れが飛び交います。もうすっごい楽しい。アドレナリン大放出。
通販実務
イベントに行けなかった人のために通販もできます。萌えよ届け本に乗って。
また、アンソロ参加者や原稿の手伝いをしてくれた人にはお礼の献本をします。発送なら、お礼の手紙やおまけをつけることも。直接会って渡すこともあります。
申し込みが10人超えると一人でやるのがしんどくなってくる……
金銭管理
全員から集金は済んでいるか。返金希望はないか。収支は合っているか。
収支は基本的に赤字です。たとえ黒字でも、労力を考えると、「金銭的に割に合う」ってことはまずありません。普通に働いてたほうが断然儲かります。
でもまたやっちゃうんだよな~!作らずにはいられないんだよな~~!

腐女子仲間の実務能力が半端ない卍

すごいサラっと書いちゃった…(ホントはもっとあったんだけど文字数エグいことになったので捨てました)
さて、ここまでは私個人の話。ある程度は方法論の確立した、自己完結でのモノ作りです。
周囲には同じような創作活動をしている腐女子仲間がたくさんいます。そしていつも思うのが、「腐女子界隈って優秀な人が多いな…」とか「彼女と一緒に仕事したいな…」ということ。もっと言えば、「この人に上司になってもらいたい」とすら思うことも、珍しくありません。
アンソロジー主催者の実務能力が卍
特に「一緒に仕事したい」あるいは「上司になってほしい」と思うのは、アンソロジー主催者の手腕を見たとき。
同人誌は愛と萌えによって生まれるもの。作り手が複数集まれば、温度差も摩擦も生まれます。
BLの何が好きで、萌えの根源はどこにあるのか。その「好き」という気持ちは、当人の心の聖域です。なんぴとたりとも侵すことはできません。(って福山雅治も歌ってた)
しかし、人とものを作っていくうえで、その聖域に踏み込まれそうになること…あるいは、人の聖域に踏み込んでしまいそうになることは、どうしても起きてしまうのです。
そこで主催者には、「摩擦が起きないように全体を管理すること」、「摩擦がおきたときに解決すること」が求められます。(何かしらのチーム・プロジェクトの運用経験がある人ならピンと来ると思いますが)これめちゃくちゃ精神が削れます…。
そして、締め切りに間に合うための進行管理も主催者の役目。
管理職経験のない若い腐女子が自力でWBS(Work Breakdown Structure)らしきものを作ってちゃんと運用していたのを見たときは、真面目に「これは社会の損失ではないだろうか」と感じました。
PDCAサイクルがちゃんと回っている
組織論・リーダー論の義務教育みたいな「PDCAサイクル」、上手に回すのって現実にはとても難しいのですが…腐女子活動の多くでは、かなりきちんと回されている例が多いように思います。
一つの例としては、男性向けの性娯楽にはあまり見られない「内省傾向の強さ」がその現れ。(「#3 BLは様式美だ!」より)
ただ、内省傾向が強すぎると内ゲバが起きます。議論がこじれて「学級会」と揶揄されるような、収集のつかない状態になることもあります。
自浄作用の行き過ぎは誰も幸せにしません。「正義は我にあり」と勘違いしないように気をつけるのも、腐女子のお作法ってヤツだと思っています。
そのあたりの「ゆずれなさ」と、「相容れない譲れなさをともに抱える人への愛情」をものすごく上手に描いているのが、つづ井さん。

本当にスゴイです。推しを特定させずにここまで描き続けるのもスゴイなあ…

基礎スキルの豊富さ

これはBLに限らず、創作するオタク全員に言えることですが…とても基本的な技能としてのPCスキル、ネットリテラシー、他者との円滑な情報共有などの「社会人なら備えておいてほしいスキル」が標準搭載されています。

PCを触ったことのない学生がIT企業に入社してくる現代では、「オタクである」ということ自体がある程度のスキルを保証するのかもしれません。

「自律型組織」がブーム

終身雇用・年功序列の崩壊なんて言われて久しく、現役世代は自分たちの報われなさにすっかり気付いている昨今に、組織論として流行っているのが「自律型組織」です。

自律型組織とは、組織の中で一人ひとりが仕事を主体的に捉え、自分に出来ることを積極的に行い、組織そのものを流動的に改革していく……そんな夢みたいな組織のことです。
色々文句言いたい点は多いのですが、この絵に描いた餅のような組織活動、もう腐女子仲間が普通にやってるんですよね…

自律型組織がうまくいかない理由、自律型腐女子がうまくいってる理由

じゃあ私の腐女子仲間が勤務先の会社で同じように精力的に成果を出し続けているかといえば、どうもそういうケースは稀なようです。
腐女子活動が自律的に、うまくいっているのは何故だろうと考えると…

・適材適所の業務担当
・個々人モチベーションが高いこと
・スムーズな意見交換を可能にするプラットフォーム
・共通の目的意識があって、金銭を超えたやりがい(すけべ)を共有していること

かなあ…うわ~!理想の自律型組織だぁ~!
しかし、これをそのまま、現状の会社組織に持ち込むことはできないでしょう。このモチベーションは、強烈な愛と萌えに支えられた趣味だからこそ成り立つものだからです。

腐女子の予言①

それでも私は、この創作する腐女子の実務能力がいずれ評価されていくと思っています。

「オタク」という言葉が、犯罪者予備軍のようなイメージから趣味や娯楽に積極的で、感性のアンテナが敏感な人たちという、ポジティヴなニュアンスを含むようになったように、「腐女子」の響きも変わっていくのではないでしょうか。

というわけで「腐女子の予言」として、

①20年後、「腐女子」はビジネスシーンでのポテンシャルを示す言葉になる

をあげておこうと思います。

…と思ってたら、まさに優秀な上司が古参オタだったマンガがありました…

二人の会話聞いてると「フォロワーかな?」って思う…いやまさかそんなはず…

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>>#9 腐女子の多様性を紹介するぜ


投稿日 2018.03.01
ブックレビューサイトシミルボン(2023年10月に閉鎖)に投稿したレビューの転載です


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