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【鼻下長紳士回顧録】『さくらん』だけじゃない、安野モヨコのスタイリッシュ娼婦モノ

ブックパス読み放題ですごいのみつけた!

20世紀初頭、パリの娼館を舞台にした、安野モヨコのバンド・デシネ

って、これだけ書けば十分かもしれないのですが、読み放題に入ってるのにびっくりしちゃって。セコい話だけど、定価1300円の本を月額560円で読めるのはお得です…

安野モヨコさんの娼館モノといえば、江戸の遊郭を舞台にした『さくらん』が一番有名かと思います。土屋アンナ・蜷川実花・椎名林檎という、一部の女オタクわしづかみ布陣で実写映画化しています。ええ、私も大好きですよ例に漏れず。

『鼻下長(びかちょう)紳士回顧録』も『さくらん』同様に主人公は娼婦。田舎からパリに出てきて、画家くずれのクズ男にコロッと落ちたダメな女、コレットです。
コレットはヒモの彼氏に貢いで、殴られても別れられない「愚かで弱い女」。ただし、それは迫り来る破滅に気づいているのにそこから逃げようとしない自分を蔑んで言う「愚かさ」でしかなく、コレットは実際のところ非常に聡明です。
物語冒頭、「僕は変態なんだ」と語りだす客の紳士に、冷めた瞳のコレットは「大丈夫!」と返します

自分のことを異常だって思ってる人に限って ものすご~く普通なの

いや~分かるなあ、良いこと言うなあ、このコ…なんて思っていたら紳士マジもんの変態でしたが、コレットにとっては「普通」の範囲内のようです(いや変態だろ~だって他人のハゲ頭を磨きながら以下ナイショ…)。
コレットはガリガリの身体にツーブロックのショートヘア、キレイなノートに日々の思いを書き留めています(=読み書きができる!)。その文才は確かで、文章を読んだ作家くずれの男を恐れさせるほど。
娼婦に身を落とし、諦観の瞳で世界を見ながら、もろく儚い美しさのなかに生きるコレット。刹那の快楽に酔いながら、破滅に追いつかれるのを待っているようにも見えるのです。

刹那の美しさに酔ってほしい

コレットが落ちたのは、女の子特有の地獄でした。何も知らなければ簡単に落ちてしまえて、一度落ちたら這い上がることが難しい…そんな、怖い怖い落とし穴です。穴の底では、同じような女の子たちがキレイに着飾って酔っぱらっていました。
儚い快楽と、うすっぺらい狂乱と、変態たちの欲がうずまく娼館「メゾン・クローズ(閉じた家)」。本書は、地獄に閉じ込められた天使の物語です。
ガーターベルト・コルセット・パピヨンマスク・鞭・ろうそく・娼婦仲間とのレズビアン…
細かい意匠に安野モヨコさんの技巧が冴えわたり、クラクラしてきます。

また、脇を固めるキャラクターの持つ、いのちと退廃の美しさも魅力です。

ミニョ:コレットのルームメイトで、ベッドも一緒。いわゆる美人にはあたらないが、とても官能的な魅力がある。
レオン:コレットのヒモ男。モラハラ気質で女に貢がせる天才。イケメン(で多分セックスが超上手い)。
ナナ:「地獄みたいな女」と言われる、上玉の娼婦。いわゆる「ゆるふわ」系で男に莫大な額を貢がせ、破滅させていく。
サカエ:作家くずれの日本人、モラトリアム旅行中のボンボン。ナナに貢いで破産しかけている。コレットの客でもある。
それぞれが持つ強さと儚さがコレットと交わるときになにが起きるのか。下巻の発売が待ち遠しいです。

『さくらん』はもちろん、

とか、

とか…あの感じが好きなら、これ読んでないのは多分もったいないです。

ブックパスで読み放題できる安野モヨコ作品は、ほかに『ツンドラブルーアイス』や『バッファロー5人娘』など。充分に月額費のモトは取れそうです。

でも私、『さくらん』も電子で読んだあとに紙本を買い直したんですよね。たぶん『鼻下長紳士回顧録』もあとで紙本買うんだろうなあ。ぜんぜんお得になってないや。


投稿日 2018.09.13
ブックレビューサイトシミルボン(2023年10月に閉鎖)に投稿したレビューの転載です


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