「十角館の殺人」鑑賞記
皆さん、おはこんばんちは。
今回は、huluで公開中のオリジナルドラマ「十角館の殺人」の鑑賞記を書いてみたいと思います。
※この記事は、原作小説並びにドラマのネタバレを盛大に(笑)含んでいます。気になる方はネタバレ個所を明記していますので、そちらを飛ばしてお読みください。
「十角館の殺人」
予告編
原作小説
「十角館の殺人」は、推理作家・綾辻行人のデビュー作品である長編推理小説です。
1987年に出版されたこの作品は、この後に発表される「館シリーズ」の第1作となります。2022年12月時点で累計発行部数は152万部を突破しています。
日本のミステリー界に大きな影響を与え、「新本格ブーム」を巻き起こしたとされています。『週刊文春』が推理作家や推理小説の愛好者ら約500名のアンケートにより選出した「東西ミステリーベスト100」の2012年版国内編で8位に選出。2023年に『タイム』誌が選ぶ「史上最高のミステリー&スリラー本」オールタイム・ベスト100に選出されています。
(※参考=Wikipedia)
「新本格ブーム」とは、1980年代後半に起こった本格ミステリの復興運動です。魅力的な謎とその論理的な解決を重視する「本格ミステリ」(エラリー・クイーンや横溝正史の作品がその代表)は当時、過去の遺物として隅に追いやられ、絶滅寸前でした。そうした状況に危機感を覚えた若い作家たちが、80年代後半から90年代にかけて登場。新鮮な本格作品を相次いで発表して、一大ムーブメントを巻き起こしたのです。
その先陣を切った作品こそ、1987年9月5日に刊行された『十角館の殺人』なのです。無人島での連続殺人を扱った同作は、ベストセラー作家・綾辻行人の出発点であると同時に、本格再興の呼び水となり、現代ミステリの流れを大きく変えた記念碑的作品となりました。
(※参考=KADOKAWA Group「ダ・ヴィンチWeb」)
綾辻先生の代表作として、全世界シリーズ累計発行部数670万部を誇る「館」シリーズは、「十角館の殺人」から「奇面館の殺人」まで、9つの長編推理小説からなる壮大なストーリーで綴られ、現在はシリーズ第10作「双子館の殺人」が連載中(2024年3月現在)です。
そのシリーズ第1作にして、“綾辻行人史上最高傑作”との呼び声高いデビュー作「十角館の殺人」。
この作品は、緻密かつ巧妙な「叙述トリック」と、「たった1行で事件の真相を描く」という大胆な手法で、長年“映像化不可能”といわれてきました。
(※参考:映画.com)
その“映像化不可能”といわれてきた原作小説が、とうとうドラマ化されるというニュースが伝わってきた時は、
「マジかっ!」
と驚愕しました。
私にとっての推理小説
私は、子供の頃から推理小説の大大大ファン(笑)でした。
国内作家では「明智小五郎・少年探偵団」シリーズの江戸川乱歩を小・中学生向けのジュニアノベルで読み始め、それを筆頭に、角川映画やテレビドラマで多く映像化された「金田一耕助」シリーズの横溝正史、同じく映像化の多かった「証明シリーズ」の森村誠一、「伊集院大介」シリーズの栗本薫、「神津恭介」シリーズの高木彬光、「安楽椅子探偵」シリーズの都筑道夫、殺人事件が起こらない日常ミステリーの北村薫などを読んでいました。
また海外作家でも、江戸川乱歩のペンネーム元ネタで推理小説の始祖とされているエドガー・アラン・ポー、「シャーロック・ホームズ」シリーズのコナン・ドイル、「エルキュール・ポアロ」シリーズのアガサ・クリスティ、「悲劇四部作」のエラリー・クイーンなどを夢中になって読んでいました。
綾辻先生が起こした80年代の「新本格派」以後の作家でも、有栖川有栖、二階堂黎人、麻耶雄嵩、清涼院流水などに夢中になっていましたし、つまり推理小説は“私”を構成する要素の大部分を占めているのです(笑)。
余談ですが、今大人気の漫画&アニメ「名探偵コナン」(青山剛昌)も、自宅には全巻揃っています😆
コナンを読んだことある人なら、↑上に出てきた作家や探偵の名前が、コナンの登場人物の名前の元ネタになっていることをお分かりいただけるでしょう😉
映像化の背景
さて、「十角館の殺人」に話を戻しますと、初めて読んだ時から大きな衝撃を受け、もう何度読み返したかわからないくらい愛している小説です。
綾辻先生は、私と同じ1960(昭和35)年生まれの同い年ということも、親近感の湧く要因となっています。
しかし、↑上の解説にもあった「たった1行で事件の真相を描く」という仕掛けられたトリックこそが、「映像化は不可能」と言われている要因でした。
小説が映像化される時は賛否両論分かれることが多いんですが、うまくいかなかった時のガックリ感はこれまで何度も経験して来ています。特に「十角館」の場合は、その「トリック」をどう描くかが問題だったわけですので、
「映像化? だいじょぶか~?」😆
というのが正直な思いでした。
映像化の企画については、hulu版以前にも何度か著者の綾辻先生の元に寄せられていましたが、「どうやってこのトリックを実現させるんですか?」と質問しても、ちゃんとした答えが返ってきたことがなかったといい、映像化が実現することは無かった、とされています。
(※参考=楽天ブックス著者インタビュー)
しかし、huluでのドラマ化にあたって、主演のひとり長濱ねると綾辻先生が対談する特別番組がテレビで放送された(huluにも収録されています)ので観たんですが、その中で綾辻先生が、
「内片監督に、“映像化できるんですか? ほんとに大丈夫ですか?”と聞くと、“大丈夫です”というので映像化をOKした」
と語り、完成品を観終わったあとは、
「映像化、できるんだなと思った」
と語っていたのです。
つまり、原作作家からの“お墨付き”が出たわけで、
「これは観らないかんばい!」(すみません、興奮すると博多弁に(草))
と思い、huluを有料登録しました。
ちなみに。
huluの登録料金は1カ月1,026円(税込)ですので、もし「十角館」だけ見て1カ月で解約すれば、映画1本を観るよりもずっと安いですから、迷いはなかったです。
今のところ他にも観たいドラマや映画があり、解約はしないでおこうと思っています😉
観終わった感想は…
さて。
細かい内容に触れていくネタバレの前に、全体の感想だけを書いておきますと…
「素晴らしかった!」です!
この作品のキモである、事件の真相が明白となる「あの1行」のシーンでは、
「来るぞ、来るぞ!」(笑)
と思いながら観て、その瞬間はもう感動でグッときてしまい、思わず泣けてきてしまったほど!
↑上で、huluは解約はしないでおこうと書きましたが、このシーンを含めて何度でも観返してみたいと思うくらい、めちゃくちゃ良い作品でした!
キャスト
主要人物
江南孝明:奥智哉
島田潔:青木崇高
守須恭一:小林大斗
松本邦子:濱田マリ
島田修:池田鉄洋
吉川誠一:前川泰之
中村和枝:河井青葉
吉川政子:草刈民代
中村紅次郎:角田晃広
中村青司:仲村トオル
ミステリ研究会メンバー
エラリイ:望月歩
アガサ:長濱ねる
ルルウ:今井悠貴
ポウ:鈴木康介
オルツィ:米倉れいあ
カー:瑠己也
中村千織:菊池和澄
スタッフ
原作:綾辻行人
監督:内片輝
脚本:八津弘幸、早野円、藤井香織
テーマ曲:ずっと真夜中でいいのに。「低血ボルト」(EMI Records)
音楽:富貴晴美
プロデューサー:内片輝、内丸摂子、木下俊、中村圭吾、渋谷昌彦
チーフプロデューサー:石尾純、勝江正隆
エグゼクティブプロデューサー:川邊昭宏、長澤一史
制作:下村忠文
制作協力:内片輝事務所、東阪企画、いまじん
製作著作:日本テレビ
豪華配役陣
主要登場人物となる学生役はみな若手俳優なわけですが、周りを固める配役陣も、青木崇高、濱田マリ、池田鉄洋、草刈民代、角田晃広(東京03)、仲村トオルと、たいへん豪華でした。
ネタバレ感想
では。
いよいよここから、盛大にネタバレしながら(笑)、詳しい内容に触れていきたいと思います。
ネタバレを回避したい方は、↑上の目次まで戻って「ネタバレ終了」までジャンプしてください。
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「あの1行」
このネタバレ部分を読んでいらっしゃるということは、あなたは小説を読んでいるか、またはこのドラマを観終わった後なので「あの1行のトリック」を既にご存じということですよね。
「十角館の殺人」の最大のトリックは、ミステリ研究会のメンバーがお互いをミステリ作家の名前をあてて、エラリイ、アガサ、ルルウ、ポウ、オルツィ、カー、そしてヴァンと呼び合っているという点です。
そしてもう一つ、主要登場人物で謎を解明していこうとする探偵役の「江南孝明」が、その苗字の字面から「コナン・ドイル」をもじって「ドイル」と呼ばれているため、その友人として登場する安楽椅子探偵役の「守須恭一」は、当然「モーリス・ルブラン」をもじった「モーリス」だろうなと思わせるという、作者によるミスリードが張られているわけです。
ですから、原作小説では
「じゃあ、あなたはモーリスですか?」
と聞かれた守須が、
「いえ、私は… ヴァン・ダインです」
と答えた部分が、全てのトリックを解き明かす「あの1行」として評価されているわけです。
文章で表現される小説の場合は、ミステリ研究会メンバーとして十角館にいる「ヴァン」と、江南たちと接している「守須恭一」が同一人物であるということは分からないですが、映像化されればそれが分かってしまうというのが「映像化は不可能」と呼ばれている所以でした。
犯人の描き方
なので、ヴァンと守須をいったいどうやって映像化するの? というのが最大の関心事であり、かつ心配事だったわけです。
ですから、物語の冒頭、不動産業を営む伯父が十角館の建つ「角島」を買い取ったヴァンが先に乗り込んでいて、あとからやってきたメンバーを迎えるシーンで最初に登場した時から、体調が悪くてマスクをしていたり、ザンバラの前髪が顔にかかっていたり、他の登場人物と比べてアップになるシーンや、明確にピントが合っているシーンが少なかったので、
「なるほど、そう来たか」(笑)
と感じていました。
そして、その後!
江南と島田が意見を求めるために守須のもとを訪ね、初めて守須が登場した時は、
「えっ、えっ? 十角館にいたヴァン役の俳優さんと同じ人?」
と思ったくらい、その見た目や印象が全く違っていました。
映像化にあたって、この2人を描くために全く別人の2人の俳優を使ったりしたら、それは「禁じ手」だよな~と思っていましたので、この俳優さんの演じ分けと演出手法は、
「お見事!」
という感じでしたね。
ですから、↑上のネタバレ前でも書いた「あの1行」のシーンが来て、やっぱり同じ人だったんだ、と分かるシーンでは本当に感動しましたし、内片監督が綾辻先生に「大丈夫です」と言っていた理由が分かりました。
時代設定
先にも書いた、綾辻先生とねるが対談した特別番組の中で、「映像化するにあたっての条件は?」というねるの質問に対し、綾辻先生は「1986年という時代設定だけは変えないでほしい」を条件としたそうです。
それは、ケータイは影も形もない時代で、固定電話で連絡を取り合うために起こる「すれ違い」や、角島で起こり始めた惨劇から外に助けを求めることが出来ないという「閉鎖空間=クローズドサークル」が物語進行の大きな要素なわけです。
そして、これこそが「本格推理小説」のキモなわけですから、綾辻先生がこの時代設定を崩してほしくなかったという理由ですね。
また、一番感じたのは、登場人物が男性はもちろん女性も「やたら煙草を吸っている」シーンが多く、「健康のため煙草は控えましょう」というのが、まだまだ浸透してなかった時代だったわけです。
だからこそ、殺害する手段として煙草に毒を仕込んでおく、という設定も生きていました。
俳優陣
俳優陣で印象に残ったのは、やはり物語の狂言回し(進行役)を務める江南役の奥智哉と、そのバディ役の島田潔を演じた青木崇高ですね。
奥智哉はドラマで主役級を演じるのは初めてということで、多少演技の硬さが見られる部分もありましたが、爽やかさはとても好印象でした。青木崇高はコミカルな役柄を上手くこなしていて、流石という印象。
事件の舞台となる十角館を設計した建築家・中村青司の弟である中村紅次郎は、物語の核となる重要な人物なのですが、これを演じていた角田晃広(東京03)が良かったですね。
私、お笑い芸人の中では東京03がベストワンといえるくらい大好きで😆、彼らのコントではボケ役の彼の演技には、いつも感心しています。
この紅次郎役も、兄嫁との密通で千織を身籠らせてしまい、兄から疎まれてしまうという複雑な心理を表現しなければならない役柄をうまく演じていました。
あとは、やはり事件の犯人役である、守須恭一=ヴァン・ダインを演じた小林大斗。↑上でも書いたように、ヴァンと守須はまるで別人なのか?と思ったほどの演じ分けは実に素晴らしかった!😆
守須が実はヴァンだったと分かる「あの1行」のシーン。オールバックの髪型で眼鏡をかけていた守須が、急に吹いた強風で髪の毛がザンバラになり、目に入ったゴミをとるために眼鏡を取り、十角館にいたヴァンと同じ風貌となって、
「私は、ヴァン・ダインです」
と言うシーンは、繰り返しになりますけど何度でも観てみたい名シーンです。
もうひとつ印象的なシーン。
守須は恋人だった中村千織を、アルコールアレルギー症だったのに無理やり酒を飲ませて死なせてしまった(と思い込んでいる)ミステリ研究会のメンバーに復讐するため殺人を計画する…
しかしラスト近くでは、自分のやってきたことへの自責の念と、思っていた筋書きが狂って来たことで、自分が仕込んだ口紅の毒でアガサ(長濱ねる)が死んでしまったのを発見した時に、
「ダメだ、もう耐えられない…」
とつぶやくシーンは、本当に見応えのある演技でした。
このシーンではまだ、ヴァンが犯人であるということは明かされていないわけですから、真相を知らない視聴者には「犯人としての苦悩」で「もう耐えられない」とつぶやいているとは、夢にも思わない。
脚本と、監督の演出と、そして役者の演技が一体となった、本当に素晴らしいシーンだったと思います。
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ネタバレ終了
ロケ地とセット
物語の舞台となる「十角館」は、大分県沖の架空の孤島「角島」に建っているという設定ですが、この角島として撮影地に選ばれた土地の、巨岩がそびえ立つ海岸線の風景が見事でした。よくこんな土地をロケハンしたと思います。
また、このドラマのために組まれた十角館のセットも最高!
10個の角がある建物の中に、十角のテーブル、灰皿、時計、シャンデリアが造られ、また犯人が罠を仕掛けるために使った十角の「マグカップ」(これだけじゃネタバレじゃないですよ😆)など、細かい設定を発見するのも楽しいですね。
さ、もう一回観直そうっと!😆
というわけで。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
また逢えるから、この言葉が言えるんですよね。
ごきげんよう、さよならDESTINY!
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